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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー18





盗賊の戦い方ってのを見せてやるよ。


 久しぶりの得物の感触を確かめつつ、迫りくるエンティナ兵に対し両手を目の前でクロスさせ構えると、深く意識を集中しとあるスキルを発動させた。



 スキル“猛毒の針”ヴェノム・スティンガー



 盗賊やアサシンは自身の腕力の低さを補うために、戦闘において睡眠や麻痺、毒と言った状態異常を武器に付与して戦う事が多く、この技はそんな状態異常の中でも最もポピュラーであろう毒を使用者の刃に付与する。


通常、毒の刃で攻撃されたものは、それがかすり傷だったとしてもじわじわと体力を奪われ、もし治療を受けなければ最後は悶え苦しみ死に至るのだが、このヴェノム・スティンガーは毒状態異常スキルの中でも特に強力で、毒無効耐性を持つもの以外は決して助かることはない。


このスキルに使用される猛毒は俺が長い時間をかけ調合した唯一無二の特別製で、例え治癒魔法であったとしても俺の作製した解毒剤以外では治すことが出来ない。



 そんなチートにも近い状態異常スキルに加え、ハイドスキルの“隠蔽”、更に短距離を一瞬で移動する瞬間加速スキル“縮地”を合わせて使用するのがゲーム時代の俺の戦闘スタイルである。



 どんなに相手が武装していようとも僅かな隙間に刃が届きさえすれば、それはこちらの勝ちを意味している。


 俺は大きく足を開き低い態勢のまま身構えると、敵兵と激しく切り結ぶ仲間の背後から影を伝い、濃紫色に染められた猛毒の刃を一太刀振るった。



 エンティナ兵は一瞬首筋に切り傷のような痛みを感じたが、男は気にする事なくそのまま目の前の獲物目掛けて剣を振り下ろそうと力を込めた。


 

 しかし、天に向かって振り上げられた武器は意思に反し男の手から離れ地面に転がり落ち、彼もまた地べたへと倒れ込んでしまった。


視界の暗転した男は訳が分からないと言った様子で、慌てて落とした剣を拾おうと手探りで地面をまさぐるが、その刹那、体中に激痛が走ったのか耳をつんざく様な断末魔の叫びをあげ、そして口からおびただしい程の血反吐を吐き息絶えた。


 

 ヴェノム・スティンガーをこの世界で、しかも人間相手に初めて使用したが効果の程は地面に転がっている死体の数を見れば容易にわかる。


 あまりにも毒性が強すぎる為、俺が持っている解毒剤が意味をなさない。



 互いに命を賭けた戦いとは言え、心が擦り切れてしまいそうだ。



 ……この戦いが終わって俺たちが勝利することが出来たら、可能な限りこいつらを弔ってやろう。


 すまないがそれまではそこでゆっくり寝ていてくれよな。


 俺は無数に横たわるエンティナ兵に祈りを捧げると、一段と激しさを増す戦場へと足を進めた。




 この戦いが始まってから地面に伸びる影はもう半分近くにまで短くなっていた。


序盤、戦況はこちらにかなり有利な展開で進んでいった。


ラフィテアのエアリアルブラストによって大きく分断された敵兵団はそのまま態勢を整えることなく戦闘に突入することになった。


 同数を相手にするなら統率の取れ連携を図れるこちら側に分があった。


 しかし時間が経過するにつれ後方から次々と合流してくるエンティナ兵によって戦場は乱戦と化し、少しずつではあるが前線が押され始めていた。



 一人一人の力量は明らかにこちらが上回っている。


しかしやはり数に差があり過ぎる。


 そして何よりも喰種のように死への恐怖を抱かずに、ただひたすらに襲いかかってくる敵を相手にするのがこんなにも困難だとは思ってもみなかった。


 仲間の腕が刎ねられようが、毒で悶え苦しもうが、血反吐を吐こうが、一切構うことなくまだ息のある仲間をも踏みつけなお剣を振るおうとしてくる。



 精神的な疲労に加え、体力も限界が見え始めていた。



 止むことなく降り注ぐ刃の雨に必死の抵抗も虚しく男たちは次々と地面に倒れ、ハイエナの様に群がった敵兵にとどめを刺されていく。


 「くそがっ! みんな! 一旦態勢を整えながら、後退するぞ!」


 俺たちは互いに顔を見合わすと滲み寄るエンティナ兵をけん制しながら、猫に追い立てられた窮鼠の様にずるずると後退していく。


 ドワ娘とラフィテアも後方から必死に魔法で支援攻撃してくれてはいるが、戦線は俺たちを取り囲むように徐々に横へと広がっていた。



 気が付けばこちらの戦力は既に半分近くにまで減っている。


 一方で敵兵力はというと、善戦していたとはいえ少なく見積もっても2千はくだらない。


 囲まれれば一瞬で全滅もあり得る。



 くっ、これ以上は無理か!

 

 一歩、一歩と崖の縁へと追いやられていく。


 背後にあるのは死へと繋がる深い谷だけ。


 

すでに幾人もの仲間を失い、深手を負い、なお迫りくる恐怖。


逃げ場も助けもないこの暗澹たる状況に俺を含め、すべての者が失意に落ちそうになっていたその時――



 背後から放たれた魔鉱石の光は、辺り一帯を眩いほどの閃光で照らし出していた。






 それは俺たちにとってまさに神の啓示であった。





 何事が起ったのかと警戒するエンティナ兵を前に、俺は短剣を降ろし小丘の天辺にいる一人の少女を見やった



彼女は俺の視線に気づいたのか、返すように片手を上げると力強く頷いていみせた。







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