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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー17





「暴風嵐―エアリアルブラスト―」


ラフィテアの放った風魔法は押し寄せるエンティナ兵の大軍の土手っ腹に巨大な風穴を開けた。

エアリアルプラストは強制的に気圧の変化を作り猛烈な突風を生み出す中級魔法で、地上にあるあらゆるものを巻き上げ暴風となって標的を襲う。


単体への殺傷能力は然程高くはないのだが、熟練の魔法使いともなればその効果範囲は小さな村を一つ呑み込むほどである。


マグレディーで見た剣の腕もなかなかのものだったが、剣聖セレナ・ベータグラムの傍仕えだけあってラフィテアもまたかなりの実力者。



凄烈な死の風は幾人ものエンティナ兵をまるで人形を投げ飛ばすかのように軽々と上空まで連れ去ると、唐突にその手をぱっと放し次々と地面にその身体を叩きつけていった。


一方で何とか地面に伏せ難を逃れた兵士たちも音速で飛び交う無数の石礫を前になすすべなく、如何に頑丈な鎧を纏っていようとも高速の弾丸は身体を防具ごと抉り取り、辛うじて命を取り留めたエンティナ兵も無慈悲な神の手に連れ去られ、そして悲鳴を上げる間もなく躯の雨を降らした。


 先程まで静寂に覆われていたこの一帯は阿鼻叫喚の戦場へと変貌したが、それでもエンティナ兵は一時も止まらない。



 ラフィテアの魔法でこちらが与えた損害は一割にも満たないだろう。


 彼らは倒れ苦しむ仲間になど目もくれず、何かに駆り立てられる様に凶器に満ちた目で武器を構え襲い掛かってきた。






 開戦の合図は突然だった。


 オルメヴィーラ領に向かって行軍するエンティナ兵は小丘の上で待ち構えていたこちらの姿を確認すると、一切何の前触れもなく複数の火炎魔法を放ってきた。


宣戦布告ともとれる無差別に撃ち込まれた魔法は味方を掠めるように地面へと着弾すると、激しい爆発音とともに火の手を上げ、乾いた土埃と黒煙が空へと高く舞い上がった。



どうやら交渉の余地はなさそうだ。


 まっ、端から期待はしていなかったが、それにしてもあの兵士たちはどうしてここまであの領主の命令に従うんだろうか。


 彼らの大部分はエンティナ出身のはず。


街にはきっと家族や恋人、子供たちも暮らしているだろう。


 金か名誉か、それとも何か弱みを握られているのか。


 何にしてもあの様子じゃこちらの言葉に耳を貸すとは思えない。


結局完全に決着がつくまでこの戦いは終わらないのか……。




 俺はこの言いようのない気持ちに胸を苛まれながら深く大きく息を吸い込むと、剣を高く掲げ戦いの火蓋を切った。





 


 「いいかっ! 決して深追いするんじゃないぞ! 相手は数的に有利なんだ。囲まれれば終わる。一人で戦おうとせず、互いに連携し常に隊列を組むんだ!」



 「「「了解っ!」」」



 決死の覚悟が籠った掛け声と共にラフィテアの先制攻撃により大きく分断されたエンティナ兵を迎え撃つべく俺たちは追い風を受けながら灰色の荒れた丘を駆け下りていく。



 「ラフィテア、それにフレデリカ。二人は後方から魔法で支援を頼む。敵に包囲されない様に常に左右から魔法で牽制してくれ」



 この戦いは二人に掛かっていると言っても過言ではない。


 どのような展開になるにしろ囲まれ退路を断たれれば、勝利の可能性は極端に低くなる。


「シエル。二人の事、頼んだぞ」


 「はっ、この命に代えても」


 シエルの力強い言葉に俺は安心して頷くと交互に二人に視線を送り、それから前線へと一人駆けていった。





 相手にも魔法を扱う者が何人かいるようだが乱戦になればそれ程脅威ではない。


 詠唱時間が必要な以上、接近戦では余程の力量差がなければ相手ではないだろうし、かといって遠距離から攻撃しようにも味方がいてはそれも難しいだろう。


 気を付けなければならないのは味方を巻き込んでの無差別な範囲攻撃だが、それこそ後ろの二人に対処を任せるしかない。



 俺たちが第一にしなければならないのは敵が分散しているうちに各個撃破し数を減らす。そして相手に体制を整える隙を与えない事だ。




 当たり前だがオバロの姿やあの黒赤の占い師の姿はここにはない。


 

 戦いにおいて、特に集団戦闘には有能な司令塔は欠かせない。


もちろんこの部隊にも指揮官はいるのだろうが、この統制の取れていない動きはまさに烏合の衆。


 数こそ多いものの、ファムスル城で対峙したあの狂戦士と比べれば剣を握りたての赤子に等しい。




 本来、盗賊である俺は力も弱く正面から打ち合う事は得意じゃない。更に言えば攻撃用のスキルは殆ど習得していない。


 だが、だからと言って戦えないかと言えば決してそうではない。



 俺は一旦片手剣をアイテムボックスに仕舞い込むと、愛用の短刀を二本取り出し左右それぞれ逆手で柄を握りしめた。










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