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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー15







 月明かりもない暗がりの荒野を10隻の魔導帆船が駆け抜けていく。


 ドウウィンを出発したこちらの戦力はおおよそ200。


 全戦力を集結すれば300を超えるのだが、街の守護や怪我人の治療、マグレディーでの情報収集、それから偵察部隊などそれらを抜くと大体エンティナ兵の十分の一以下の戦力である。


 この圧倒的な戦力差だが決してこちらが不利な一面ばかりではない。


 大部隊に対してこちらは絶対的に機動力に勝る。


 数千人規模の部隊にもなると全員に移動用の馬を宛がうことはまず出来ないし、食糧や武器、防具などを運ぶためにも馬や馬車は必要になってくる。


 車や蒸気機関のないこの世界において移動手段は限られているからだ。


 その点、こちらには魔導帆船がある。


 数は10隻と限られてはいるが、この人数ならば全員が乗り込めないことはない。


 向こうが昼夜問わず行軍したとしても、これなら十分間に合うだろう。


 長い移動で兵士に蓄積された疲労、そこを急襲するならこちらの方が圧倒的に有利。



 しかし、残念ながら地の利を生かしたその戦略は今回使う事が出来ない。



 何故なら、俺たちが迎え撃つ場所はエンティナ領とオルメヴィーラ領の境界付近。


身を隠す山や森はなく、あるのは点々と存在する枯れ木と巨岩。


実になだらかで見渡しの良い丘陵地帯だからだ。



 更に言えば、この先サビーナ村までは極平坦な大地が永遠と繋がっている。


 つまり、急襲には絶望的と言っていいほどに向かない地形なのだ。



 魔法で姿を消したり認識阻害魔法を掛けたり出来なくはないのだろうが、流石にこの人数全員は無理だし、相手に索敵魔法を使われればそれこそ袋のネズミ。



 一対一ならいざ知らず、この人数が相手。


アザーワールド・オンライン時のステータスが俺にあればまだどうにかなったかもしれないが、今の力でどこまで立ち回れるか……。



 断崖絶壁の縁に立たされているこの状況。


 一歩でも下がろうものなら、後ろは地獄へ通じる深い谷。


 前を向けば牙をむいた猛獣の群れ。


 本来なら全員が逃げ出してもおかしくはない状況なのだが、誰一人文句も言わずについてきてくれている。


 だからそこ、領主たる俺が諦めることは許されないのだ。


 何とかしてオルメヴィーラ領を守る。


そう、圧倒的勝利でなくていい。


奴らを追い返せさえすればそれでいいのだ。


それがエンティナ領を守ることにつながる。



何か手はないのか。


……あぁ、くそっ! 時間が欲しい。、



 考えては消え、考えては消え、繰り返す思考の混沌。時間の感覚も消えうせ、静まり返った船内に風を切る音だけが虚しく聞こえてきていた。



 「ラフィテア、あとどれくらいで到着しそうだ?」


 「あと一時間もあれば」


 「……そうか」


 ふと気が付けば大気中の塵に光が散乱し、空が白んできていた。


 もうすぐ夜明けが近い。



 「ラック様、我々が陣を構えるのは小丘の麓でよろしいでしょうか?」


 「そうだな、この辺りじゃ、どこもさして変わらな――」


 「わらわはこの丘の頂上がいいと思うぞ」


 一人いつもの様に寝息を立てていたドワ娘が、突然むっくりと起き上がると大きな欠伸をしながら二人の間に割って入ってきた。


 「なんだよ、突然。この場所に何かあるのか?」


 「なに、ただ単に見晴らしの良い方が気持ち良さそうだと思っただけじゃ」


 「あのな、この辺は傾斜もなだらかだし、見晴らしって言うほどの丘じゃないと思うぞ」


 「なら、ここでも問題ないわけじゃな」


 「あぁ、まぁな」


 「ならここで決まりじゃな。ほれ、耳長、わかったか?」


 「まったく何をあなたは……。ラック様よろしいでしょうか?」


 「この際どこだって構わないさ」


 「かしこまりました」



 エンティナ兵との戦闘まであと数時間。


 皆誰一人言葉を発せず緊張と不安に押しつぶされそうになりながら、ある者は己の剣を抱きしめ、ある者は祈りを捧げ、刻一刻と迫るその時を待っていた。






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