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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー13




 


 霧の中から現れた漆黒の馬は俺たちの頭上を軽々と飛び越えると、白銀の鎧を纏った騎士が背から飛び降りエンティナ兵に向かって鋭い一閃を放った。



 空を駆ける雷鳴のごとき一振りに領民に剣を向けていた兵士たちは自分達に何事が起きたのか理解出来ぬまま喋らぬ躯と化してしまった。


地面に降り立った白銀の騎士は血の付いた剣を流れるような動作で回転させ血振りすると、目を見開きエンティナ領主と対峙していた。



 「――お前たち、無事か?」


 「は、はい」


 「そうか、間に合ってよかった。ここは危険だ。早く逃げた方がいい」


 「あ、ありがとうございます」


 泣きじゃくる幼子を抱きかかえた女性は何度も何度も頭を下げると、足早にその場を去っていった。


  一時もその鋭い眼光を反らさずオバロに向かって剣を構え、白銀の騎士は怒気の籠った声でゆっくりと喋りだした。



 「……兄上。あなたは一体何をなさっておいでなのです」


 「なぜ、なぜ、お前がここにいるっ!」


 「そのような些末な事、今はどうでもよいでしょう。質問してるのはこの私です。


オバロ領主、あなたは一体何をしているのですっ!」


 「セレナ、貴様には関係のない事っ!」



 セレナ。


 こいつが剣王の再来、セレナ・ベータグラム


 


白銀の鎧と金色の十字が刻まれた白のバックラー。


細身の剣を携え、青く長い清流の様な美しい髪は光を織り込んで生きている様に艶めいている。


 無造作に後頭部で束ねられた髪が風に吹かれ揺らめき、青い瞳と相まって一度見たら決して忘れない、神話の世界から抜け出してきた女神のような、そんな雰囲気を彼女は纏っていた。


 「関係ない? 本気でそうおっしゃられているのですか?」


 「当然だ。エンティナ領の領主はこのわたしなのだからな」


 「領主だからと言って罪もない領民たちを殺していい理由にはなりません」


 「理由ならある。あの者たちは反乱を企てこの領主たるわたしを殺そうとしたのだ。降りかかる火の粉を払って何が悪い」


 「あの幼子や少女たちも反乱を企てたと言うのですか」


 「そうだ。あいつらは反逆者の家族。

言わば共犯者だ。処罰して当然」



 「オバロ領主、いえ、兄上! エンティナ領の領主としてこのような事をして心が痛まないのか!」


 「心外だよ、セレナ。もちろん痛いさ。痛くて苦しい。……だが、このわたしに剣を向けるという事は王国に対して剣を向けているという事と同意義なのだよ。妹よ、私の言っている意味が分かるか? 国王陛下に剣を向けているものがいるのに、どうしてわたしがそれを黙って見ていることが出来るのだ。そのような逆賊を放っておけば、やがてこの国じゃ滅び、それはわたしの愛する領民たちにとって悲劇に他ならない。それを理解出来ぬお前ではなかろう? だからわたしは心を鬼にし、たとえ相手が我が領民だとしても剣を振り下ろさねばならぬのだ」



 「……なぜ、あの者たちが剣を持ち、立ち上がらなければならない程追い詰められていたのか兄上はご存じなのですか?」


 「ふん。反逆者の思考などわたしが理解出来るものではないし、知る必要もない」


 「――あの賑わいを見せたこの街も、今はその見る影もない。


 オバロ領主、あなたのやり方は間違っている。ただでさえこの国が魔族との戦いで苦しい思いをしているというのに、領民たちの生活を考えず次々と領地税を上げ、あまつさえ支払いの滞った者たちを奴隷商人に売ってまで、税をむしり取ろうとする。そんな事が領主として許されると思っているのですか!」



 「何だ。何を言うのかと思ったら、そんなくだらない事か」


 「くだらない?」


 

「そうだ、実にくだらない。確かに領地税を上げたが、それはこのエンティナ領を守るため。領地を統治するには莫大な金が要るのだ。領民が減り税収が減ればそれを補うため税率を上げるのは至極当然の事」


 「それは領民が苦しんでいたとしてもですか?」


「当たり前だ。領地なくして領民はない。そしてそれは国にも言える事。

セレナ、我が領地が毎年王国にどれだけ税を納めているのかお前ならば知っていよう」


「えぇ」


 「魔族との戦い、この王国を守るためとはいえ、当然タダで出来るものではない。それこそ見たこともないほどの莫大な金が要る。いいか、確かに領民たちも苦しいかもしれないが、魔族に負ければ我々人間はこの地を失うのだ」


 「それは分かっています。ですが他にやりようは幾らでもあるはず。領地税を払う為、奴隷に身を落とすなどあってはなりません」



「それこそわたしの知ったことではない。奴隷商人に身を売ったのは、領民自身の判断。わたしが強要したわけではない。


それを逆恨みして反旗を翻すなど許されるはずがない。セレナ、何を聞かせれてここに来たのかは知らないが、お前がもしわたしに剣を向けるなら、この街に住む領民の命はないと思え」



 「そのような事、この私が許すと思っているのですか? ここで兄上の首を刎ねればそれで済む事」


 「言うじゃないか、セレナ。さすが我が王国が誇る四剣聖の一人。だが、この人数を相手にお前の剣は果たしてわたしの首に届くかな」


 「兄上、あの頃の私とは違うのです。……どうか兵を退いてください」


 「先に刃を向けてきたのはあの者たちだ。わざわざ反乱分子を逃がす愚か者がいると思うのか?」


 「オバロ領主、もう一度言います。兵を退きなさい」


「……お前がこのわたしに命令するというのか。いいだろう。ただし一つ条件がある」


「条件?」


「あぁ、そうだ。お前が剣を収め、わたしの屋敷に来るのなら今日の所はひいてやる」


 「いいでしょう。私も兄上に問いたださねばならないことがありますから」


 「交渉成立だな」


 オバロはセレナの言葉にニヤリと笑うとさっと身を翻し、女占い師と共に兵士を引き連れ撤退を始めた。



 一瞬悲しげな表情を浮かべたセレナだったが、心配そうに近寄ってきた愛馬の頭を優しく撫でると、バックラーを外し鐙に足をかけた。


 「――セレナ!」


 「ラフィテア、久しぶりね。あなた、エンティナ領を離れたと聞いていたのだけれど、今はオルメヴィーラにいるのね」


 「はい」


 「あなたの隣にいるのがオルメヴィーラ公ね」


 「あぁ、そうだ。俺がオルメヴィーラ領主ラックだ」


 「初めまして。セレナ・ベータグラムと申します。御存じかもしれませんが、先程のエンティナ領主オバロの妹です。あなたの書簡のおかげで、無益な争いを止めることが出来ました。本当に感謝致します」


 「感謝するのはこっちのほうさ。おかげで助かったよ」


 「我がエンティナ領の為に命を懸けてくださった事、このセレナ・ベータグラム、一生忘れません」


 「そんな大袈裟な。俺は少し手を貸しただけに過ぎないさ」


 「そうですか。……いずれにしてもこの恩は必ずお返しいたします」


 「それよりも、あの男に付いて行って大丈夫なのか?」


 「わかりません。ですが、私の身一つで事が収まるのなら安い物です」


 「セレナ……」


 「大丈夫、ラフィテア。落ち着いたら今度ゆっくりお茶をしましょう。久しぶりにあなたと色々話もしたいし」


 「えぇ、そうね」


 「オルメヴィーラ公。重ね重ね図々しいお願いですが、ラフィテアを、避難したエンティナ領の民をよろしくお願いします」


 「分かってる。途中で投げ出したりはしない」


 「それを聞いて安心しました。……このまま兄上が引き下がれば良いのですが、何を企んでいるのか私にもわかりません。オバロが行動を起こすようなことがあれば私が全力を持って阻止しますが、いずれにしてもしばらくは気を付けてください」


 「わかった。セレナも十分気を付けてくれ」


 「心遣いありがとうございます」



 そう言ってセレナは会釈すると、心配そうに見つめるラフィテアの肩にそっと触れ、それから黒馬に跨りその場を後にした。

 









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