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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー11





 初代領主ロメオ・ベータグラムが心血と愛情を注ぎ作り上げたエンティナ領最大都市マグレディー。


 この街は小高い丘に作られ、周囲を取り囲みながら道路が渦巻き状に上昇していくように造られている。


 それはまるで迷路のようで建物の下を通るトンネルや突如として現れる広場など、複雑に絡み合う迷宮空間に初めて訪れる者は大抵困惑させられる。


 

 そんな不可思議な造りの街なのだが、道はすべて光沢のない灰褐色の石甃で舗装され、一部を除き、建物はその殆どが貝殻の粉の様に白く、麓から見ると街そのものが白い壁で覆われている様に見える。


 そんな美しくも不思議な世界がいま、黒煙を上げ血で赤く染まろうとしていた。




 ――凶報は突然だった。



 ドウウィンで合流した有志たちを引き連れマグレディーに向かう道中、息絶え絶えの馬にそれでも鞭を振るい、一刻も早く状況を知らせまいと男が一人峻厳な顔をしてこちらに駆けてきた。



 「はぁ、はぁ、はぁ、シ、シエル様」


 「どうしたの……、いえ、そうですか。とうとう始まってしまったのですね」


 「申し訳ございません。われらの力が及ばず」


 とうとう始まった、つまりはそういう事だろう。


 「街の様子はどうなってるんだ?」


 「はっ、領主様。武器を手に取った者たちが小城を囲み、兵士たちと交戦しております。

今はこちらの人数が多いですが、相手は訓練された兵士たち。この先、一方的な展開になるのは火を見るよりも明らかです」


 「そうか」


 「シエル様、われらは戦闘には参加せず、出来るだけ多くの領民を避難させるよう誘導にあたっております。どうか、急ぎ救援を!」


「領主様」


「わかってる。おい、ラフィテア」


 「はい」


 「ここからマグレディーまではどれくらいかかる?」


 「馬を飛ばせば一時間程かと」



 一時間もか……。


 その間にどれだけの被害が出てしまうか想像も出来ない。



 この日の為に俺たちが用意出来た魔導帆船の数は10隻。


 乗れる人数は限られてくるがそれでもこいつなら全速力で飛ばせばマグレディーまで30分もかからないはず。



 「おい! みんな、よく聞け! すでにマグレディーで戦闘が始まってしまった。

帆船部隊は先行してエンティナ領民を守るため戦いに参加する。残りの者たちは出来るだけ馬を飛ばし、到着次第作戦通り行動を開始してくれ。エンティナ領はお前たちの働きにかかってる! みんな、頼んだぞ!」



 「「「はっ!」」」

 





 

 飛び交う悲鳴、逃げ惑う人々、立ち上る黒煙、風に乗って流れてくる生臭い血の匂い。


 たった30分足らずで幾人の人々が殺されてしまったのか。


 外壁や歩道の至る所が赤く染められ、道には倒れ伏している女性に泣きつく子供の姿。


 逃げる最中、背後から槍で貫かれ、武器を握ったまま亡くなった者や魔法をその身に受け焼けただれ死んでしまった者。


 この悲惨な光景と、何とも言えない異臭に思わず嘔気が襲ってくる。



 

 「無事な者は早くこの街から出てドウウィンに避難するんだ! 逃げられない者は家に隠れ一歩も外に出るんじゃないっ!」



 俺の声が誰かに届いてるともしれないが、ここに来たからには一人でも多くの人を救いたい。


 最前線ではいまだに戦闘が繰り広げられているが、わずかな間に戦線は崩壊したようで、戦意を失った者たちが次から次へと散り散りに逃げていく。


 そんな彼らを一人も逃がすまいと凶器に満ちた目をした兵士たちは雪崩のように押し寄せ、武器を捨て無抵抗になった者たちでさえ無慈悲に剣を振るい屠っていった。



 まさかこの世界に人間を相手に剣を抜くとは思ってもみなかった。



 「ラフィテア、シエル、フレデリカ。逃げてくる人を守りつつ、エンティナの兵士を退けるぞ」


 「「はい」」


 「やれやれ、難儀じゃな」


 

 難儀どころの騒ぎじゃない。


 ゲームの世界じゃ対人戦は幾度となく経験しているが、ここは違う。


 覚悟はしていたつもりだが、俺に人を殺れるのか?



 気が付けば剣の柄を握る右手が震えている。


 震えを抑えようと左手で必死に右手を抑えるが伝播したかのように左手、そして足、体中が震え出す。


 はぁ、くそっ!

 

 やるしかない、やるしかないんだ。しっかりしろよ、俺!



 「――ラック様っ!」


 「え?」


 自分では呆けていたつもりはなかった。


 しかし、いつとはなしにエンティナ兵が俺に向かって槍を突き刺そうと両腕を引き絞っていた。


 

 俺はここまで来て何を迷っている。


 ラフィテアの声に咄嗟に反応すると、すんでのところで攻撃を躱し、がら空きになった懐から上に向かって剣をふり抜いた。

 



 「あぁぁぁぁっぁぁぁ!」 


 

 赤い血の雨。



 両腕を切り落とされた兵士は絶叫しながら地面を転がり、目の前に落ちていた自分の腕を拾おうと必死に這いながら、そして絶命した。




 


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