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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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閑話ー1





 


 年の瀬が刻一刻と迫る中、一部を除いてあらかたの農作物の収穫は終わり、大ルアジュカ山脈の麓で働いていた木材班や採掘班も作業を中断し、今はサビーナ村に戻って来ていた。



 資材調達が思いのほか順調だった事とノジカ達の頑張りのおかげで、急ピッチで進んでいた建築作業も今はひと段落している。




 オルメヴィーラ領内は大ルアジュカ山脈のおかげで冬の間も積雪はそれ程大したことはないのだが、極寒期ともなると日中でも気温は氷点下の日が殆どであり、数時間野外にいれば凍傷になりかねない。



 俺にとってはオルメヴィーラ領で過ごす初めての冬である。



 ラフィテアの助言もあり、この時期は出来るだけ屋外での作業を減らすよう各所に指示を出し、領民たちは空いた時間を使って日頃の疲れを癒したり、新しい技術を学んだり、来年に向けての計画を練ったりするなど、各々が有意義に過ごしていた。



 そんなどこの村にでもありそうな一風景。

 

 エンティナ領という懸案事項を抱えつつも、サビーナ村には束の間の平穏が訪れていた。




エンティナ領に関する報告書、そして温かいハーブティーを片手に窓から見える白銀の山脈を眺めていると、突然、騒がしい鳴き声と共にノジカが震えながら部屋へと押し入ってきた。



 「寒い、寒い、さむーーいっ! 何でここはこんなに寒いのっ! 尻尾も耳も凍っちゃうよ!」


 「な、なんだ、急に。冬なんだから寒いのはしょうがないだろう?」


 「しょうがなくないよっ! この寒さ、どう考えても普通じゃないよっ!」 


 「まったく相変わらずやかましいの。ほれ、さっさと扉を閉めないと折角の暖かい空気が外に逃げてしまうではないか」

 

 止め処なくぶーぶー文句を垂れるノジカを尻目に、ドワ娘は特別製の魔鉱石こたつで暖を取りながら、蜜柑に似た果物を美味しそうに口に放り込んでいた。



「フレデリカ、ボクもそこに入れてよ」


 「駄目に決まっておろう。ここはわらわ専用の場所と決まっておるのじゃ」


 「そ、ん、な、の、誰が決めたのさ。ほら、少し寄ってくれればボクも入れるでしょ」


 「こ、こら、何をする! 強引に入ってこようとする出ない!」


 「はぁぁ、暖かい。もう最高だよね、こたつ。これを考えた人、絶対天才だよ」


 ノジカはそう言ってこたつの上にだらんと手を伸ばし突っ伏すと、先ほどまで強張っていた顔を緩ませ上機嫌に尻尾をゆらゆらとさせていた。


「まったくこの猫娘は」


「それで、ノジカ。突然押しかけてきて一体何の様なんだ?」


「あっ、そうだ。忘れるところだったよ。あの頼まれていた例のヤツ。アレの大枠が完成したんだ」


 「本当か! 結構早かったな」


 「まぁ、ね。今は人手が余ってるし、みんな面白がって手伝ってくれたんだ」


 「そうか、そうか。じゃ、後もう少しだな。いや、完成が待ち遠しい」


 「待ち遠しいのは良いんだけど、まだ内装とか詳しい打ち合わせがまだなんだけど」


 「あっ、そう言えばそうだったな」


 「だからボクがこうして自ら出張ってきたわけ」


 「悪かったな」


「なんとなくラックの想像しているものは分かるんだけど、ボクも実物を見たことがあるわけじゃないからさ」


 「もう資材なんかは揃ってるのか?」


 「その辺は抜かりなく。この後、時間があれば付き合ってほしいんだけど。大丈夫?」


 「あぁ、もちろん。時間がなくても無理でも作るさ」

 

 「おぬし、随分な熱の入れようじゃな」


 「当然だろ」


 やっとこれで念願の“温泉”に入れるんだからな。


 「そんなに湯に浸かる事が良いのかの? わらわはこのこたつの方が断然じゃがな」


 「ドワ娘。お前全然分かってないな。温泉はなこたつと同じくらい、いやそれ以上に気持ちいんだぞ」


 「そうか、それは良かったの」


  ドワ娘はあまり興味がないのか生返事をしながら食べ終わった果実の皮を丸めると、次の新しい果物へ手を伸ばそうとしていた。


 「じゃ、早速だけど付き合ってくれるかな?」


 「わかった。これ片付けたらすぐ出発するよ。どうだ、ドワ娘も一緒に行くか?」


 「ん? そうじゃな。……今回は遠慮しておこうかの。外は寒いしの」

 

 「なら、ここの留守番は頼んだぞ」


 「うむ、その大任わらわが引き受けよう。安心して行ってくるのじゃ」



 「それにしても混浴って言うんだっけ? 男の人と女の人が同じお湯に浸かるんでしょ? ボクには考えられないんだけど」

 

 「何言っているんだ、ノジカ。温泉という物はだな、混浴がなきゃ真の温泉とは言えないんだよ。混浴はすべての男のロマ――」


 「さっ、何をぼさっとしておる、おぬしら。さっさと準備して出発するぞ」


 「へ?」


 先ほどまでそこでくつろいでいたはずのドワ娘はいつの間にかこたつの上を片付けると、準備万端に厚手の上着を羽織り今にも出発しようとしていた。


「ドワ娘、お前留守番じゃなかったのか?」


 「そのような事、わらわは一言もいっておらぬぞ。ほら、早うせんか。温泉が逃げてしまうではないか」


 「いや、いや、温泉は逃げないから」



 なんだ、このドワ娘の気の変わりよう。急に温泉に興味でも湧いたのか?


 まぁ、それならそれでいいんだが……。


 「ほれ、さっさと行くぞ。ノジカもなにをやっておる」


 「え? あ、う、うん」


  俺たち二人はなぜか急にやる気を出したドワ娘に煽られるように準備をすると、意気揚々と出発した彼女を追いかけるように慌ててこの部屋を後にした。

 

 





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