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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第五章

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大ルアジュカ山脈編ー13





 「――ラック様。この場所にしようかと思うのですが、いかがでしょう?」



 ラフィテアに連れてこられたのはサビーナ村からやや離れた所にある小高い丘の上。


 「少し村からは遠いけど、広さ的にも申し分ないんじゃないか?」


 住人の協力を得てラフィテアが探し出してくれたこの場所は瓢箪型の大きな窪地である。


 「はい。他にも幾つか候補はあったのですが農業用水池が村の近くである必要性はあまり高くないと思いましたので」


 確かにラフィテアの言う通りである。


 今は村の中で細々と作物を育てているだけだが、既にあそこだけでは手狭になっている。


 今後、農地を拡張していくにはもっともっと広大な土地が必要だ。


 それにあそこは農地としてよりも居住地や娯楽施設なんかを建て、街としての機能を充実させていきたい。



 そう言った意味でもここは最適解と言えるかもしれない。



周辺は平坦な土地が続いているし、遠いと言っても馬車で数日もかかるような場所ではない。それにここなら夜盗や魔物といった外敵もいない。



 この窪地に水を張り、それから水路建設、あとは水車を利用した灌漑設備を整えさえすれば、みんな安心して農業に従事することが出来るだろう。



 「ラフィテアに頼んでおいて正解だったな」


 「いえ、私は何も」


 何もって事はないだろうに……。


十分期待に応えてくれているし、少し謙遜が過ぎる気もする。


 まぁ、ラフィテアにとっては指示された仕事をただこなしているだけに過ぎないのだろう。


 隣に立つ彼女は両手に資料を抱えたまま、表情を変えずに真っすぐ先を見つめていた。


 俺の最大の幸運はこうして彼女が隣にいてくれることかもしれないな。



 ……さて、場所が決まれば後は、


 

「おーーーーいっ! フレデリカっ! やっちゃってくれぇ!」


 


瓢箪型の大きな窪地の一番底。


 その中心にひとりポツンと立たされていた少女は丘の上にいる二人を恨めしそうな目つきでずっとこちらを睨んでいた。


 声に反応したドワ娘はやっとかと言わんばかりの感じで手に持っていた杖を空に向かって二度三度くるくると回し合図を送ると、それから地中に向かって魔法の詠唱を始めた。


 窪地の中央には既に水の吹き出し口となる穴が地中深くまで掘ってあり、あとは大ルアジュカ山脈から苦労してここまで導いてきた地下水を繋げてやるだけである。



 「なぁ、ラフィテア」


 「はい、なんでしょう?」


 「ラフィテアも魔法使えたりするのか?」


 「魔法ですか? はい、一応は」


  だよな。やっぱりエルフ。魔法くらい使えるよな。


 「ちなみにラフィテアの得意な魔法ってなんなんだ?」


 「得意な魔法ですか。……そうですね、風魔法でしたら大抵のものは扱えると思います。あとは光魔法が少しだけ」


 風魔法に光魔法ね。

 

 「もしかしてエルフ族はみんな風魔法が得意だったりするのか?」


 「はい、そうですね。……御存じかもしれませんが、ドワーフ族は土、エルフ族は風と言うように種族によって得意魔法はおおよそ決まっています。ただ唯一人族だけが例外と言われています」


 「例外?」


 「はい。人族だけは決まった得意魔法というものがありません」


「じゃ、俺たちはどんな属性の魔法も使えるのか?」


 「その可能性があるという言い方が正しいかもしれません」


 「可能性ね」


 「人族がどの属性魔法も使える可能性があるのは間違いではありませんが、得意な属性はこの世に生まれ落ちた時に既に決まっていると言われています」


 「つまり他の種族は得意な魔法が予め決まっているのに、人族にはそれがないと。火属性を使える奴もいれば闇属性を使える奴もいるけど、それは生を受けた時点で決まっていて本人の努力でどうこうなる問題じゃないんだな」


 「はい、その解釈でおおむね間違ってないと思います」


 「つまりは、俺にも何かしらの魔法は使えるんだな」


 「そうですね。可能性はあります。ただ――」


  ラフィテアが次の言葉を紡ごうとした刹那、眼下にいたはずのドワ娘がぜーぜー息を切らしながら二人の間に割って入ってきた。



 「はぁ、はぁ、はぁ、こらエルフっ! はぁ、はぁ、こ、こやつからもっと離れるのじゃ!」


 「な、なんです、急に」


 「こやつの隣はわらわだけの場所じゃ。近くにいないのを良いことに、まったく油断も隙も無いエルフじゃ」


「そんな事を言うためにわざわざ駆け足で戻ってきたのですか?」


 「そ、そんな事とはなんじゃっ!」


 水と油、ドワーフにエルフ。


 しばらく会っていなかったから平穏だったのに目を合わせればすぐにこれか。


 どうしてこうもう少し仲良く出来ないもんかね。


 やれやれ。


 「そうだ、ラフィテア。さっき何か言おうとしてなかったか?」


 「え? あ、はい。先ほどラック様が魔法を使えるかどうかというお話でしたが……」


 「あぁ、そうだったな。で、どうなんだ?」


 「魔法を使える可能性はあります。ただ……」


 「ただ?」


「残念ながらラック様からは魔素をあまり感じられません」


 「魔素?」


 「魔素というのは簡単に言えば、魔法を使うためのエネルギーみたいなものじゃ」


 「つまり、それって……」


 「はい、残念ながらラック様に魔法の素養はあまりないかと」


  素養はない。つまりは、そういう事か。


  もともとの職業が盗賊だからしょうがないと言えばしょうがないんだけど、折角だから魔法、使ってみたかった。


 「そんな残念そうな顔せんでも魔法の一つや二つおぬしでも使えるぞ」

 

 「ほ、本当か?」


 「魔素が少なくても初歩の魔法なら大抵のものが使えるからの」


 「そうですね。もし興味がおありでしたら、あとで御自分の得意な属性を調べてみてもよいかもしれませんね」


 「そうだな、そうしてみるよ」


 得意な属性か。楽しみだな。


 後でどうやって調べるのかラフィテアに聞いてみよう。




 「――と、そんな話をしているうちに、そろそろ時間になったみたいじゃぞ」


 

 ドワ娘は突然俺の手を自分の方へと強引に引っ張り腕に組みつくと、ニンマリ笑みを浮かべ空を見上げた。


 「おっ!?」


一瞬気のせいかと思えるほど小さな微振動が足の裏を走り抜けたかと思うと、次の瞬間、間欠泉が水と蒸気を吐き出すがごとく、地下に住む巨大なクジラが潮を勢いよく吹き出し、頭上高くまで舞い上がった地下水は太陽光に照らされ瓢箪の窪地に大きな七色の虹の橋を架けた。



 地下水は勢い衰えることなく湧き続け、最初は茶色く濁っていた水も水位が上がるにつれ徐々にその透明度を増し、次第に青く輝く水晶の様に澄み切った色に変わっていった。


 「どうやら無事成功したみたいだな」


 「わらわが手を貸したのじゃから当然の結果じゃ」


 「そうだったな。ありがとう、ドワ娘。これで領地が水不足で悩まされることはなくなりそうだ」


 「えぇ、そうですね。この様子でしたらこの窪地も数日のうちには水で湛えられるかと」


 「そうか、思っていた以上に早いな。そういう事なら早速皆を集めて農地開拓を進めていこう」


 「はい。住人の皆さんには事前にある程度説明してありますので、直ぐにでも作業に取り掛かれると思います」


 「そりゃ助かる」


となると、灌漑設備も同時進行で進めていかなきゃならないか。


 取り敢えず、簡易的な用水路の建設と水車にそれから風車は用意する必要がある。


 その辺の設計やら施工はノジカ達にお願いするしかないわけだが、これ以上仕事を頼むのは流石に気が引ける。


とは言え他に適任者がいるわけでもなし、こればかりは頭を下げるほかないか。


 しかし、ようやくではあるが何とかここまで漕ぎつけた。


 人のいなかったサビーナ村に住人を集め、ノジカを探しにゴトーへと。ひょんなことからドワ娘と一緒にドワーフ王国ガラドグランに行きドワーフ達の協力を得てサビーナ村は大きくなろうとしている。


 やらなきゃいけないことは大ルアジュカ山脈より高く山積している。


 だが、彼らがいればその山もきっと乗り越えられるだろう。


 ゆっくりだが、着実に一歩一歩前に進んでいる。


 俺ももっと頑張らないとな。


 この山を登り始めたのは俺自身なんだから。


 「……ラック様。どうかなさいました?」


 「いや、なんでもない。さっ、ラフィテア、ドワ娘、村に戻るとしようか。やることはまだまだいっぱいあるからな」


 「やれやれ。貧乏暇なしじゃな」


 「まっ、そういう事だ。ドワ娘、村に戻ったら俺と一緒にノジカに頭を下げてくれよな」


 「はぁ? なぜ、わらわがあの猫娘に頭を下げねばならんのじゃ」



 怪訝そうな顔をしているドワ娘の背を押し馬車に乗り込むと、俺たちは一路サビーナ村へと丘をゆっくり走り下っていった。







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また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)


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