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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第五章

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大ルアジュカ山脈編ー8






一歩離れた場所からは鬱蒼としているようにしか見えなかったルアジュカ樹林だったが、実際に足を踏み入れてみれば、中は意外にも整然としていた。



高く真っすぐ伸びた針葉樹林が見渡す限り無数に乱立しているのだが、どういう訳か木々の一本一本がまるで誰かが測って苗木を植えたかのように等間隔で立っている。


ジャングルのような密林の中を分け入って突き進むのかと思っていたのだが、針葉樹以外の木々は殆どなく、新しい木の芽や草花さえも見当たらない。


唯一、枯れ落ちた細長い葉っぱだけがクッションのように地面に深く深く積み重なっていた。



確かこの森に足を踏みえれたのは昼少し前。



今日は雲一つない見事なまでの晴天で、先程まで太陽が己の存在感を嫌というほど主張していたのに、ここでは僅かな光さえ届いていない。



 空は針葉樹の葉で幾重にも覆われ、前に進めば進むほど闇の世界が広がっている。


 先頭を歩くドワーフ達は腰にぶら下げていたランタンに火をともすと、警戒しながらも何の迷いもなくどんどんと前に進んでいく。



 いま自分がどこにいて、どの方角に進んでいるのか、俺には皆目見当もつかない。



 暗く、そして同じような景色が永遠と続くこの場所で、もし彼らと逸れようものなら俺一人では二度と外界に出る事は出来ない、そんな気さえしてくる。



 俺は時折聞こえてくる木々が囁くような葉音に少し気後れしながらも、大ルアジュカ山脈を目指して一歩一歩足を進めた。






もうかれこれどのくらい歩いてきたのだろうか。

 

暗く代り映えのない景色に段々と時間感覚も乱れてくる。


道も次第にその勾配を増していき、疲れからか徐々に口数も減り、呼吸音だけがむなしく辺りに響いていた。


一言も発すること無くただ黙々と歩いていると、先頭を歩いていたドワーフがおもむろに足を止めた。

 


 「――領主様」



前の様子を窺っているとドワーフが一人こちらまで駆け寄ってきた。


「何か問題でもあったのか?」


「いえ、この先に丁度開けた場所があったもんですから、ここいらで一旦休憩してはどうかと思いまして」



「休憩か。……そうだな、少し休んでいくか」

 


 しんがりを務めていた俺とドワ娘は疲れた体に鞭を打ち荷物を背負い直すと、ドワーフの後を追って先頭集団がいる場所まで歩みを進めた。



 しばらく続いた急こう配を抜け坂の上に到着すると、そこには不可侵領域のような不自然に切り取られた空間が広がり、一行が休憩するには充分すぎる程の大きさがあった。



 「なんか不思議な場所だな」



 周りに生い茂っている木々たちもなぜかこの空間だけに入らぬよう、そして何かを守るよう立ち並んでいた。



「ほぉ。これはまた随分と珍しいものがあるものじゃ」



肩で息をしながらようやく広場に到着したドワ娘は、それを見つけるや否や重い荷物を降ろすのも忘れ感嘆の声を上げていた。



彼女の視線の先には樹齢数百年以上あろうかという一本の老齢の大樹が存在していた。



「これはまた随分と立派な木だな」



大人数人が手を回しても幹の向こう側には届かない。


一体どれほどの年月をこの木は生きてきたのだろう。



「こりゃ、トネリコの樹ですな」



 ドワーフの一人が驚いたように老木を見上げていた。



「トネリコの樹?」


「なんじゃ、おぬし。トネリコの樹を知らんのか?」



トネリコ、とりねこ、鳥猫? うーん、聞いた事ないな。



「旦那。トネリコの樹ってのは昔から神霊が宿る多幸の樹木って言われてるんですぜ」



 神霊、神霊ねぇ。 そう言われてみるとこの独特な樹形が神秘的と言えなくもない。千本以上もあろうかという枝が空に向かって扇状に広がり、幹は幾本かに分かれ地面から生え、その一本一本がうねり今にも根っこを引き抜いて動き出しそうだ。



ドワーフは老木に近づくと、ぐるりとゆっくり一周し幹に手を当て数度叩いてみせた。


 

「いや、これだけのもの早々お目にかかれるもんじゃありませんぜ。きっとこりゃこの森の主にちげぇねぇ」


「そんなに珍しい木なのか?」


「そうじゃな。元々自生している数がかなり少ないうえ、成木になるまでに数百年。ここまでの大きさになるには少なくとも数千年は経っておるじゃろ」


「数千年!?」


「うむ。それにこの樹の枝から作られる杖は非常に高い魔力を有しておっての、魔法を扱う者なら誰もが皆喉から手が出るほど欲しいはずじゃ」


「なるほど」


「そのせいもあってトネリコの樹の殆どが既に切り倒されてしまっておる」


「そんな貴重な樹だったんだな」


「おぬし、まさかこの樹を伐り倒そうなどとは思っておらぬだろうな?」


「思ってない。思ってないけど、売ればいい金にはなりそうだな」


「金か。まっ、命が惜しければやめておいたほうが良いぞ」


「なんだよ、命が惜しければって。伐ったらどうなるんだよ?」


「本当かどうか定かじゃねぇんですがね――」



トネリコの樹を見上げていたドワーフは音もたてずこっそりと近づいてきて、こう言った。



「この樹を伐った奴は一人残らず神霊に呪われて死んじまうって話なんですぜ」


「う、嘘だろ?」


「いや、それが本当らしいですぜ。聞いた話じゃ伐り倒したその日の晩、夢の中に樹の神霊が現れて両手でゆっくり首を絞められるとか。日を追うごとにその力がどんどん強くなっていって、最後には首を捩じり切られちまうらしいですぜ」


「おい、おい、幾ら何でも怖すぎるだろ」


「だから間違っても、この樹を伐ろうなんて馬鹿な事考えない方がいいですぜ」


「わ、わかった。気を付ける」



ギムリならこの話当然知っているのだろうが、念の為全員に知らせておいた方がいいかもな。 


 呪いなんてもの本来なら全く信じないのだが、ここでは何が起こっても不思議じゃない。気を付けておくに越したことはないだろう。



まぁ、神霊の呪い云々は置いといたとして、一度でいいから実物の神霊とやらに会ってみたいけどな。


 

 謎の怪談話を聞いた後に、ここで休憩というのは少しためらわれたのだが、他に良さそうな場所もなく結局トリネコの樹を囲むように休息をとることになった。



俺は胡坐をかいてトリネコの幹に背中を預けると、腰からぶら下げてあったランタンを目の前に置き、折り畳んでしまってあった地図を広げた。



「なぁ、ドワ娘」


「ん、なんじゃ?」


「いま俺たちがいるのはここ、ルアジュカ樹林」


「うむ」


「んで、このすぐ上にあるのが俺たちの目指してる大ルアジュカ山脈だろ」


「そうじゃな」


「この大ルアジュカ山脈の向こう側、つまり大陸の北側はどうなってるんだ?」



 俺の持っている地図には大陸全体の大まかな形は描かれているものの、山脈を超えた先は地名や詳細な地形などは一切記されていないのだ。


特にすぐさま情報として必要という訳ではないのだが、以前から何となく気になっていたのだ。



「おぬし、そんなことも知らんのか? よくそれでこの地の領主をやっておるの」


「しょ、しょうがないだろ。成り行きで領主になっちまったんだから。んで、ドワ娘。お前知ってるのか?」



 「当たり前じゃ! ……と言いたい所じゃが、わらわも正直そこまで詳しい事はわからん」


 「なんだ、分からないのかよ。お前も俺と大して変わらないじゃないか」


 「詳しい事はと言っておるじゃろ。大まかな事は分かるぞ。この大ルアジュカ山脈の向こう、カルド地方にはかつてバビロニア王国があった」


 「バビロニア王国?」


 「そうじゃ。獅子王レオパルドが治める獣人たちの王国。そこには多種多様な獣人族たちが暮らしていたらしい」


 「なぁドワ娘。かつてって事は、今はもう存在しない国なのか?」


 「そうじゃ。今から十数年前、魔王率いる魔族との戦いでバビロニア王国は滅んでしまったのじゃ」


 「そうか魔族に……。なぁ、ドワ娘。もしかしてノジカはバビロニア王国の生まれなのか?」


 「さぁどうじゃろうな。獣人族の国と言っても獣人たち全員がそこの出身とは限らないからの」


 「そうか」


 「気になるなら後で本人に聞いてみるのじゃな」


 「ん、あぁ、そうだな。機会があればそうするよ。それで話を元に戻すけど、バビロニア王国が滅んだ後そこはどうなったんだ?」

 

 「さぁな。そこまではわらわもわからん。じゃが、今も魔族がカルド地方を支配しているのは間違いないじゃろ」


 「つまり大ルアジュカ山脈の向こうに魔王軍がわんさかいるっていうのか?」


 「おそらくは」


 「おい、それって大丈夫なのか? この山を超えてオルメヴィーラ領に進軍してくるんじゃないのか?」


 「それはまず心配ないじゃろ」


 「なんでそう言い切れる。いくら険しい山だからって魔族だったら軽々越えてきてもおかしくないんじゃないか?」


 「だとしたら、とっくの昔にこの地も支配されていると思わんか?」


 「まぁ、そう言われてみれば、確かにそうだな」


 「おぬし、この山脈がなんと呼ばれてるかも知らんのか?」


 「なんてって、そりゃ大ルアジュカ山脈だろ?」


 「そうではない。いや、そうなのじゃが、この大ルアジュカ山脈はもう一つ別の呼び名を持っておるのじゃ」



 別の呼び名? 



 「それが何か関係あるのか?」


 「大ありじゃ。この山は別名、――竜の寝床、そう呼ばれておる」


 「竜の寝床? 竜ってあの竜か?」


 「そうじゃ。この山の頂には竜族の住処がある。いくら魔王軍と言えど、あの一騎当千の竜族を相手にそうそう簡単に手はだせんのじゃ」


 











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