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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第五章

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大ルアジュカ山脈編ー7




 村長主催の歓迎会が行われた翌週、俺たちは英気を養う間もなく大ルアジュカ山脈を目指し出発する事となった。



 目的はもちろん鉱物資源の採掘と木材の調達、それから農業用水の確保である。



 

このクエストの為にクロマ商会から借りた馬車も含め3頭引きの大型馬車が計6台用意され、広場に集まった男たちが次々と馬車に乗り込んでいく。



 今回のメンバーは俺とドワ娘、それからドワーフ族が18人。さらにサビーナ村からも体力自慢の男たち20名。



計40名というかなりの大所帯となった。



ドワーフに関して言えば半数以上が大ルアジュカ山脈に向かう事になったのである。



「えーっ! そんなに連れて行っちゃうの!?」



 と、ノジカは終始ぶーぶー文句を言っていたが、俺の説明にしぶしぶ納得すると残ったドワーフ達とこれからの計画を練り直していた。



 そんなこんなで必要な機材や食料も揃い荷物の積み込みが終わると、俺たちはすぐさまサビーナ村を後にした。



 サビーナ村から大ルアジュカ山脈の麓まではそこそこ長旅なのだが、道中、特にこれといった難所はない。領土の大半を占める荒野には時折朽ち果てた低木や雑草が散見されるだけで、視界を遮るものは殆どなく、ただただ平坦な荒野が広がっていた。



 代わり映えしない景色と晴天についウトウトしてしまうのだが、下は舗装など一切されていないデコボコの荒れた道。車輪が岩に乗り上げる度に車体は激しく揺れ、移動中ちっとも眠ることが出来なかった。

 


 サビーナ村を出発し馬車に揺られること数日。一行を乗せた馬車はようやく大ルアジュカ山脈の麓に広がる樹林帯の入り口に到着したのである。


 


 「……こりゃ、また凄いな」  



 馬車を飛び降りると眼前には針のような葉を枝先につけた細長い樹木が鬱蒼と生い茂り、それが右の端から左の端まで延々と続いている。かと思えば、後ろには地平線まで広がる荒野があり、いま立っている場所を境に実に両極端な景色が同時に存在していた。



 しばし時を忘れ、この得も言われぬ景色に目を奪われていると俺の後に続いて降りてきたドワ娘が天高く伸びた木々を見て酷く億劫そうに呟いた。



 「ここから先、馬車での移動は無理そうじゃな」


  

 「そうだな。さすがにこの中を馬車が進むってのはな。木材の調達はここを拠点に作業してもらうとして、採掘組はここから荷物を担いで進むしかなさそうだな」



 「難儀じゃの」


 「全くだ」



 ここからあの密林の中を重い荷物を担ぎ、数キロ程の距離を歩いて行かなきゃならない。考えただけでもげんなりしてしまう。



 吐き出しそうになった溜め息をこらえ、そびえ立つ樹林帯をもう一度見上げると猛禽類らしき鳥の群れが樹林帯の向こうに飛び去っていった。


 

 ここまで来てうだうだ言ってもしょうがない。


 さて、気合入れて取り掛かるか。



「――おい、みんな聞いてくれ! ここから班を二手に分ける。事前に伝えてあった通り、各自班長に従って作業を始めてくれ。それから採掘班はここから先、徒歩で向かう。準備出来次第すぐ出発するぞ」



 全員に聞こえるよう声を張り上げ指示を出すと、男たちは旅の疲れもなんのその、各班長の元、馬車の荷台から次々と荷物を下ろし始めた。




「――ギムリ、ちょっといいか」



「はい、何でしょう」


 

 作業の手を止め駆け寄ってきた男は、今回木材調達班のリーダーを任せたドワーフ族の青年ギムリである。


 薄茶色の髪を後ろで縛り上げ、年季の入ったゴーグルを身に着けたこの男は班長を決める際に真っ先に名前が挙がった人物であり、ドワ娘曰くドワーフ族の中でも木工の技術や知識に関して彼の右に出るものはないらしい。


 

 「ここを木材班の作業拠点にしようと思うんだが、それで大丈夫か?」



 「はい、これだけの広さがあれば全く問題ありません。しかしそれにしても随分と立派な森ですね。木々の一本一本がしっかりしてるし、これなら間違いなく一級品の木材が取れますよ」

 


 「そりゃ、良かった」


 「ギムリ。お前を推薦したわらわの顔に泥を塗らぬようにしっかり励めよ」


 「は、はい、姫様っ! このギムリ、姫様のご期待に沿えるよう誠心誠意務めさせていただきます。安心してお任せください!」



 ドワ娘に声を掛けられると、ギムリは緊張した面持ちで背筋をぴんと伸ばし直立不動になった。

 



 ドワ娘といつも普通に話している俺からすると、ギムリの反応がすごく滑稽に思えて仕方がないのだが、よくよく考えればドワ娘はこれでもドワーフ王国の姫君なのだ。    



 ギムリのこの反応も至極当然なものなのかもしれない。



 そう思うとドワ娘に対していつも不遜な態度をとっているような気がしなくもない。


 改めてこいつを見ると、何となく威厳を感じるから不思議なものである。


 

 「ギムリ、ちょっとひとつ頼みたいことがあるんだ」


 「はい、なんでしょうか?」


 「この地図を見てくれ。いま俺たちがいるのはここ。樹林帯の入り口だ。ここを拠点に作業を始めてもらうわけだが、出来れば山脈に向かって伐採を進めてもらいたい」


 「はぁ、それは構いませんが、何か理由でも?」


 「あぁ。ここから山脈まで道を整備して、採掘した鉱物を村まで運べるようにしたい」


 「なるほど。そういう事ですか」



 鉱山入り口まで馬車が通行できるようになれば、運搬にかかる時間はかなり短縮される。

 

 毎回毎回この樹林帯を歩いて抜けるのは非常に億劫だからな。木材を調達しながら道まで作ってしまう。正にこれぞ一石二鳥。




 「最低でも馬車二台が横に並んで走れる広さは欲しい。どうだ、やれそうか?」

 

 「馬車二台分ですか……」


 「なにか問題でもあるのか?」

 


 「そうですね。木材調達から道の整備の方に数名人手を割く必要があるので、木材調達の進捗ペースが遅れるかもしれません」


 「当然そうなるよな。とは言え後々の事を考えると、時間がかかっても道は造っておきたいんだよな」


 「なら、こうしてはどうです? まず馬車一台分が通れる道を整備して、後から道幅を広げていくというのは。これでしたら予定していた期間内でなんとかなると思います」



 元々人手が少ない訳だし、そうそう無理ばかり言っていられないか。



 「わかった。それじゃ、一先ずそれで進めてもらっていいか?」


 「はい、了解しました」


 「ギムリ、負担ばかりを増やして悪いな」


 「いえ、とんでもない。ご期待に沿えるよう頑張ります」


 「あぁ、よろしく頼む」



 そう言って俺がギムリの肩を軽く叩いてから手を差し出すと、ギムリは驚いたように目をパチクリさせていたが慌てて直ぐズボンの裾で手を拭くと、おずおずと俺の手を握った。

 

 

 それから幾つか細かな打ち合わせした後、俺とドワ娘は出発の準備を終えた採掘班と合流した。

 





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