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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第五章

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大ルアジュカ山脈編ー6





「ねぇ、ラック」


「ん? なんだ、ノジカ」



「ボク、下見を兼ねてちょっと村の中を見て回りたいんだけど、誰か案内してくれないかな?」

 


「下見か。あぁ、別にいいぞ。シーナ、セド、悪いんだがノジカの案内頼めるか?」 



 「はい、もちろんです領主様。任せてください。ね? セド」


 「う、うん」


 「そうか。助かる。んじゃ、そういう事だからノジカ。二人に案内してもらってくれ」


 「うん、わかったよ。シーナ、それからセド、二人ともよろしくね」


 ノジカが膝を折り笑顔で二人の前に手を差し出すとシーナは嬉しそうに、セドはおずおずと手を握った。


 「じゃ、行ってくるね」


 そう言ってノジカ達は仲良さげに手を繋いだまま村の散策に出かけると、この場に俺とラフィテア、それからドワ娘の三人だけが取り残された。



 二人の間に立たされ何となく気まずい雰囲気に、どうにかしてここから逃げ出せないものかと悩んでいると、ラフィテアが書類を片手に隣の席に腰を下ろした。



 「――ラック様」


 「ん? どうした、ラフィテア」


 「先ほどの件とは別にもう一つ問題があるんです」


 「別の問題?」


 「はい。実はここ最近、オルメヴィーラ領地への移住希望者が急増しておりまして、このままではいずれ食糧が不足する恐れがあるんです」



 「食糧不足か。それはまずいな。しかし、そんなに移住者が増えてるのか?」



 「はい、想定していた以上に……。今は交易に出す分を減らして対応していますが、このままのペースで増え続ければそれも時間の問題かと」

 

 ラフィテアは深刻そうな顔で資料を広げて見せた。


 食糧の出荷量から消費量、更には人口の増加比が事細かに記載されている。



 確かにこのままのペースで領民が増えていくと半年後には食糧不足に陥る可能性がある。



 もともとサビーナ村の農地自体がそれ程広いわけじゃなかったから、人が急激に増えれば生産が追いつかなくなるのも無理はない。


 とは言ってもここの作物の生育スピードは普通じゃない。


 農地を広げて作付面積を増やせば問題は解決すると思うのだが……。

 

 

 「――そうしたいのはやまやまなのですが、これ以上農地を広げられないのです」


 

 「どうしてだ?」



 「広げようにも大地が干乾び作物が植えられないのです」


 「そうか、雨か」


 「はい。この村の周辺には川や湖がありませんので、農業に必要な水の殆どを雨に頼っています。ですがその肝心の雨がここしばらく降っていません。いまは井戸水を使ってなんとか凌いでいますが、それにも限界があります。これ以上無理に農地を広げても作物をただ枯らしてしまうだけです」


 確かにラフィテアの言う通りだ。


 「これから先、農地を広げ安定的に作物を収穫できる様にする為にも、農業用水の確保が急務かと思われます」


 

 農業用水か。


 もともと雨の少ない領地。


 再び以前のような大干ばつに再び見舞われないとも限らない。


 いや、その可能性の方が大きいと言っていいだろう。


 干ばつの度に食糧が不足するようでは領民が安心して生活することなど出来るはずがない。



 つまり安定的に農業用水を供給できるようにしなくてはならない。



 考えられる一番簡単な方法は近くの川や湖から水を引いてくることなんだろうが、彼女の言った通り残念ながらそんなものはこの周辺にない。


 また新しく井戸でも掘るか?


 いやいやいや。、


 たとえ水が出たとしてもたかが知れている。農業に使えるほど大量に湧いて出てくるとは思えない。



 じゃ、村の近くに貯水池を造って、そこに水を貯めるか。


 それこそ無理だ。雨が降らないのにどうやって池に水を貯める。 



 次から次へとまったく。


 

 どうしてラフィテアがあんなに深刻な表情をしているのか、今わかった。


 彼女なりにずっと考えていたが、結局解決策が思い浮かばなかったのだろう。



 俺の極振りの幸運値に賭けるという手段もなくもないが、余りにも不確定要素が大きすぎる。


 それに俺が元の世界に帰った後の事も考えてやらなきゃならんしな。


 でなきゃ、あまりに無責任ってもんだろう。


 

 ラフィテアと資料を睨みながら思案にふけっていると、椅子に座り足をぶらぶらさせ退屈そうしていたドワ娘が突然、二人の間に割って入るように首を突っ込んできた。



 「……二人してなにをそんなに難しい顔をしておるのじゃ」


 「なにをって、お前にも聞こえてただろ? 雨が降らなくて作物を育てるのに必要な水が足りないんだよ」


 「水なら沢山あるではないか」


 「は? どこにあるんだよ」


 「あそこじゃ」


 そう言ってドワ娘が窓の外を指さした先には、雪化粧した大ルアジュカ山脈が広がっていた。





 「ちょっと待ってくれ。あそこって大ルアジュカ山脈のことか?」


 「そうじゃ。冬の間に降り積もった雪が春の訪れと共に冷たい雪解け水へと姿を変え、大地がその豊富な水を貯える。山脈の麓のどこかに大量の水が湧いて出ている場所が必ずある」



 「いや、まぁ、それは確かにそうなんだろうけど、どうやってその水をここまで運んでくるんだよ」



 さすがに大量の水をアイテムボックスに入れて運ぶのは無理だぞ。



 「ドワ娘、お前ここからどれだけ距離があるのかわかってるのか?」



 「そんな事はわかっておる。よいか――」


 ドワ娘は地図上に描かれたサビーナ村から大ルアジュカ山脈までの道のりにそってゆっくり指を這わせていく。



 「この地中深くには水の通り道である水脈が至る所にあって、それは大樹の根のように大地に張り巡らされておる。その水脈を利用して大ルアジュカ山脈の雪解け水をこのサビーナ村まで引いてくるのじゃ」


 水脈を利用して水を引いてくる? 



「おいおい、簡単言ってくれるけどそんな事出来るのか?」



「もちろんじゃ。わらわを誰だと思っておる」



「礼儀を知らないただのドワーフの娘でしょ」



 黙って真っすぐ地図に視線を落としていたラフィテアは、先程の仕返しとばかりに小さな声でボソッと呟いた。



 ドワ娘はラフィテアに何か言おうと口を開きかけたが、彼女を一瞥しただけで、視線を元に戻し再び話を始めた。


 

 「あの山脈からこの村までたとえ細くても水脈は繋がっておる。その証拠に井戸から水が湧いておるじゃろ」


 「まぁ確かに」



 「ただ今はそこに水が少ししか流れていないだけじゃ。水脈が繋がっているなら難しいことはない。あと魔法で強引に水の流れを変えてやればよい」



 「強引にってそれ、大丈夫なのか?」


 「土魔法で数か所水脈をせき止め、流れを変えるだけだから大丈夫じゃろ。まっ、影響があるとしたら水脈をせき止めた場所からは水が湧かなくなる事と、地下水の流れていた場所が空洞化して地盤が脆くなることくらいかの」



 「それ全然大丈夫じゃないだろ」


 「この領地にはここ以外、人は住んでいないのであろう?」


 「ん? まぁそうだけど」


 「なら問題ないじゃろ。地下水が湧かなくなるのもこの周辺ではないし、地盤が脆くなるとは言っても数千人規模の人が密集しない限り、そうそう崩れはせんじゃろ」



 「それもそうだな」



 「フレデリカ。その影響が出そうな場所というのは詳しくわからないのですか?」



 「いまはわからん。まぁ、水脈をせき止めた後なら調べることは出来ると思うぞ」


 「そうですか。ラック様、万が一のことも考えて崩落の可能性のある場所は調べて領民に知らせておくべきかと」


 「あぁ、そうだな。ついでに立ち入り禁止の立て看板でも設置しておくか。忘れないでおくとしよう」


 「はい、かしこまりました」


 「二人とも心配性じゃな」


 「何かあってからじゃ遅いからな。それでドワ娘。山脈から水を引いてくるのにどれくらい人手と時間がかかる?」


 「人手などいらんぞ。わらわが一人いれば十分じゃ。時間は……そうじゃな。かかるいっても一ヶ月といった所じゃろ」


 「そんな短期間で済むのですか?」


「多分の。大ルアジュカ山脈から水脈を辿って、地下水がこの周辺に流れる込むよう魔法で調整するだけじゃからの」



 「まぁ、実際にはここと大ルアジュカ山脈を往復するわけだから、実質2ヶ月くらいか」


 「そうなると急いで貯水池の場所の選定と準備を進めないといけませんね」


 「そうだな」


 「貯水池の場所が決まったら、その中心の場所に井戸と同じくらいの深さの穴を掘っておくんじゃ」


 「わかった、任せてくれ」



 こりゃ本当に休む暇もなさそうだ。



 「ラフィテア、悪いんだが貯水池と農作地の件、お前に任せていいか?」

 

 「はい、もちろんです。ラック様」



 貯水池と農作地の件はラフィテアに、建設全般はノジカに。これで一先ず村の事は大丈夫だろう。



 あとは――



 「ドワ娘。お前には俺と一緒に大ルアジュカ山脈までついてきてもらうからな」


 「言われなくてもわかっておる」


 「……お前、なんだか楽しそうだな?」


 「そうかの? まっ、あの退屈な国にいるよりお主と一緒にいる方が毎日刺激的な生活が送れそうなのは確かじゃな」



 「そりゃ、何よりだ」








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