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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第五章

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大ルアジュカ山脈編ー2




どうやら柄にもなく緊張しているらしい。



ドアノブを握ろうとした手はほんのりと汗をかいていた。



ゆっくり右へ回し押し開くと、立て付けの悪いドアは呼び鈴の代わりに、ギィィィと軋む音で主の帰宅を知らせた。


 「どちらさ――


あっ!」



 俺の顔を見て驚きの声を上げた少女は、一瞬時が止まってしまったかのように固まっていた。



しかし、それもほんの束の間。



 「領主様!」


すぐさま彼女の時計の針は動きだし、ぱっと笑顔の花を咲かせたシーナが俺のもとまでとことこと走り寄ってきた。



「領主様、お帰りなさい!」



「ただいま、シーナ」



久しぶりに見るシーナの屈託のない笑顔が村に帰ってきたことを俺に強く実感させてくれる。



「りょ、領主様、お、おかえりなさい」

 

「ただいま、セド」



シーナの少し後を追って現れたのは少し声の上擦ったセドだった。


相変わらず姉の後ろをついて回っているようだがこうしてちゃんと挨拶できるようになったのだから、セドも少しずつ成長しているのだろう。



俺はセドの目線の高さまで屈み優しく頭を撫でてやると、セドは気恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに顔をほころばせた。



 「セドばっかりずるい」



 ついセドの反応が面白くひとしきり頭を撫でていると、隣に立っていたシーナが頬を膨らませ抗議の声を上げた。 



 俺はシーナの態度に苦笑しつつも、空いているもう片方の手でシーナの頭を撫でてやると少女の機嫌はすぐさま直った。



 「二人とも元気だったか?」


 「はい、領主様」


 「そうか。それは良かった」



村長に面倒を見るよう頼んであったが、随分長い間この村を留守にしてしまったからな。



俺は二人の快活な声に心底安堵した。



「ところでシーナ」


「はい?」


「どうして二人がここにいるんだ?」


「あっ、それは――」



 シーナが口を開こうとした刹那、少女の言葉を遮るようにガチャリと音が鳴ると目の前の部屋の扉がゆっくり開き、奥から一人の女性が姿を現した。



 エルフ特有の長い耳と金色の髪。理知的な彼女にはやはり黒い眼鏡がよく似合う。



 不愛想な所は多少マイナス点ではあるが、久しぶりに見るラフィテアは相も変わらず美人だった。


 ラフィテアは俺と目が合うなり、手に持っていた書類を胸の前で抱え軽く会釈した。


 



 


「実はシーナとセドには、私の仕事を手伝ってもらっているんです」



  俺は久しぶりの我が家で、シーナの入れてくれたお茶を片手に、ラフィテアの話を聞いていた。



 「二人に?」



 「はい。シーナには書類整理やお客様の対応を。セドには帳票関係の手伝いをお願いしています」



  書類整理に帳票?



 「二人とも非常に物覚えが早く助かっています。特にセドの計算能力の高さには驚かされるばかりです」


 「そんなにか?」


 「えぇ。今ではほとんどの計算を彼一人に任せているくらいですから」


 「そりゃ、すごいな」



 シーナとセドにそんな才能があったとはな。



 「二人とも、俺のいない間ラフィテアを手伝ってくれてありがとう」


 「えへへっ。領主様に褒められちゃった!」


 「りょ、領主様のお役に立てて嬉しいです」



  シーナとセドはちょっぴり恥ずかしそうにしながらも、お互い顔を見て嬉しそうに笑っていた。



 ……そうか。


 

 本来なら二人ともまだ学校に通っていてもおかしくない年齢だ。

 


 魔王との戦いで親を亡くした子供は多い。



 この二人の為にも、子供たちが安心して勉強できる場も作らないとだな。



 学校、学校か。



 「――ところでラック様」



 「ん? なんだ?」



 「できればそちらの方々を紹介していただけると助かるのですが」


 ラフィテアの見つめる先にはテーブルの上に並ぶ採れたばかりの果物に舌鼓を打つ、猫人族とドワーフの娘の姿があった。



 あぁ、そう言えば紹介してなかったな。



 あまりにもこの場の空気に馴染んでいたので、すっかり忘れていた。



 「こいつは――」



 俺が右隣に座っていたノジカを紹介しようとすると、彼女はペロッと指先を一舐めし、左手で俺の言葉を遮った。



 「ボクは猫人族のノジカ。建築家のノジカだよ」


 「ノジカ? あなたがあの鬼才と言われた建築家のノジカなのですか?」



 「うーん、ちょっと違うかな。ボクがノジカなのは間違いないんだけど、鬼才って言われていたのはボクの親父なんだよね」


 「どういうことなのですか?」


 「あー、それはつまりだな――」



 困惑気味のラフィテアにノジカの父親の事、ゴトーでのゴタゴタについて掻い摘んで説明してみせた。



 「なるほど、そういう事でしたか」


 「親父の代わりになれるかは分からないけど、みんなの期待に答えられるようできる限り頑張るよ」



 「ノジカなら大丈夫さ。頼りにしてるぞ」


 「ノジカ様、これからよろしくお願いいたします」


 「うん、任せてよ」



 ラフィテアがすっと右手を差し出すと、ノジカは笑顔で彼女の手を握ってみせた。



 さて、と。



 ノジカは、まぁいいとして、問題はこいつか。



 ちらっと左隣に目をやると、俺の視線に気づいたのか、退屈そうに話を聞いていたドワ娘は軽く微笑んでみせた。



 ラフィテアにどう説明したもんか。


 色々とややこしくなりそうだから、余計なことは言いたくはないのだが……。



 しまったな。



 事前にドワ娘と口裏を合わせておけば良かった。



 「――そういう事だからよろしく頼むよ、ラフィテア」


 「はい、ノジカ様の件はわかりました」



  そう口にしたラフィテアの視線はノジカから既にドワ娘に向けられていた。



  ……ん? 気のせいか?



  俺の勘違いかもしれないが、ラフィテアの目つきが一瞬だけきつくなった様な気がする。


 「ラック様」


 「ん?」


 「確かラック様はノジカ様に仕事を依頼する為、この村を出発したと私は記憶しているのですが、どうしてドワーフ族の方がここいらっしゃるのでしょうか?」



  なにかラフィテアの言葉の端々に棘のようなものを感じる。



 「どうしてって――」



 「相変わらずエルフ族は口うるさいの」



 「お、おい、ドワ娘」



 「わらわはフレデリカ・ヴィオヲール。おい、そこのエルフ。どうしてわらわがここにおるか知りたいのか?」



 「えぇ、是非ともお答え頂きたいですね」



 「なに答えは簡単じゃ」




 ドワ娘は言葉の勢いのままに立ち上がりラフィテアに向かってこう言い放った。





 「わらわがこのオルメヴィーラ領主の婚約者だからじゃ」






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