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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第四章

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ドワーフ王国のドワ娘姫ー24






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」



息遣いはさらに荒々しくなり、心臓が酸素を求め先ほどから何度も悲鳴を上げている。



喉の奥が焦げ付くように乾き、呼吸をするのも痛いくらいだ。



長く続いた坂をやっとのことで下りきるとその場で一旦足を止め、乾燥した喉を唾液で湿らし、2,3度大きく息を吸い込んだ。



さて、もうひと踏ん張りだ。



俺は疲れた体に鞭を打ち、休む間もなく再び出口を目指し走り出した。




先ほどまで小さな点にしか見えなかった光が、一歩前に進むごとに段々と大きくなっていく。


出口が近づくにつれ、外界から差し込む光が城内を明るく照らし、周囲の景色がより鮮明になる。




フレイとフレイヤ。



それはドワーフ王国を強く、そして優しい眼差しで見守る二人の女神。



威風堂々としたその立ち姿を目にした者は、誰もがその美しさに息を呑み思わず足を止めるのだろう。


……だが生憎、今の俺にそんな余裕は微塵もなかった。



なぜかって?



そんな事わざわざ言わなくてもわかるだろう?



答えはとても簡単だ。



 ――そう。



 奴がすぐ傍まで迫っていたからだ。




 ついさっきまで数百メートル以上は離れていたはずなのに、もうその距離はたった十数メートルにまで縮まっていた。




 ここでアレともう一戦交えるほどの体力は俺に残されていない。



 ここまで来たら、あとはもうただひたすらに足を動かし続けるだけだ。



 数分前までは小さくぼんやりとしか見えていなかった女神の彫像が、いつの間にか見上げなければ顔を拝むことが出来ないほど近くにあった。






 徐々に近づいてくる地を蹴る、いや抉る音、そして大気を震わすような叫喚がタイムリミットを告げていた。



 さて、そろそろ頃合いか。



 もう一度後ろを振り向くと手を伸ばせば届きそうな位置までトールキンが差し迫っていた。



 「せっかくここまで追いかけてきてくれたのに悪いが、もうそろそろ終わりにしようぜ、トールキン」




 俺は再び正面を向くとこちらを見守りタイミングを窺っているであろうドワーフの少女に向って左の拳を天高く突き上げた。







 ――数秒、いやコンマ数秒前まで俺がいた場所に身の丈を超すほどの大きな岩が突き刺さっていた。


 手を上げ合図するのと同時に頭上から幾つもの巨大な石塊が轟音を鳴り響かせ次々と転がり落ちてきた。



 鋭く尖った岩は勢いそのまま地中深くにまで突き刺さり、そのたびに激しく大地を揺るがす。


 そして巻き上げられた噴煙が城内を照らしていた光を遮り暗闇が広がり、次第に視界が奪われていく。




 間違いなく断言できることがあるとすれば、あれが頭の上に落ちるようなことがあれば、俺はほんのわずかな痛みさえ感じることなく、地面に一輪の赤い花を咲かすことになるだろう。




 もしトールキンに多少なりとも自我が残っていて正常な判断が出来ていたら、この岩石の降り注ぐ状況で前に進むなんていう愚かな選択はしていなかっただろう。




 だが、奴は躊躇する素振りさえ微塵も見せず後を追ってきた。



 「さすがは狂戦士」



 俺は追ってくるトールキンの姿を確認すると、自分の目と耳とそして幸運を信じ、無数に降り注ぐ落石の中に意を決し飛び込んでいった。






 あたり一帯は土煙に覆われ、ほとんど視界が利かない。


 一瞬、自分の進む方向を見失いそうになるが、外から差し込む僅かな光の明るさを頼りに前へ前へと進んでいく。



 正直この状況で止め処なく落ちてくる岩石を目視してから回避するのは不可能だ。



 そんな悠長なことをしていたらいくつ命があっても足りない。



 自分の直感だけを頼りに間一髪のところで躱していく。




 一方、後ろから迫ってくる狂戦士はというと、1メートル程はあろうかという大岩が直撃しようが全く物ともせず、勢いそのままこちらに向かって一直線に突き進んでくる。



 あの半分、いや十分の一の大きさでさえ、俺には致命傷になり兼ねないというのに、本当にどれだけ頑丈に出来ているのだ。





 ……だが、いくら丈夫なお前でもこれはさすがに無傷じゃいられないだろ?






 それは直上を覆っていた土煙の中から突如現れた巨大な岩塊。



 直径はおよそ10メートル、重さはかるく1000トンはあるだろう。



 まるで小型の隕石のような岩石が、俺の頭上すれすれをかすめると、すぐ背後まで接近していたトールキンを直撃した。



 その衝撃はなんとも凄まじく、大地が波のように激しく揺れ、いまだかつて聞いたことがないような爆音に耳がびりびりと震えた。



 地面には大きなクレーターが出来上がり、トールキンはその中心部で岩石の下敷きになっていた。



 「やったか?」



 ピクリとも動かないトールキンを見てそう思わず言葉を口にしたが、その直後、自分がフラグとしか思えない台詞を言っていることにすぐ気づいた。



 案の定とでも言うべきか、トールキンは砕けて散乱した岩を強引に押しのけると、何事もなかったようにむっくり起き上がった。




 おい、おい、おい。



 あれで死なないなんて非常識にも程があるぞ。



 それに見たところ、あまりダメージを負っていない。



 ガイアがなぜ震えるほど恐れたのかを今頃になって得心していた。



 今のでもダメか。



 ――どうする。



 誰がどう見ても絶望的な状況ではあったが、心の内は不思議と落ち着いていた。




 その理由は簡単だ。



 俺は視線を上に向けるとひとり小さく呟いた



 「残念。こっちが本当の切り札だ」






 何かがこちらに向かって近づいてくる。



 辺りを覆っていた黒い影がその大きさを次第に増していった。




 ただただ巨大なそれは空気中に舞う粉塵をすべて吹き飛ばし、地面に吸い込まれるように落ちてくる。





 その巨大な物体の正体は――





 女神フレイとフレイヤが手にしていた2本の剣。





 あの命がけの時間稼ぎは全てこの為。



 ドワ娘は俺の合図で剣を携えていた女神像の腕ごと魔法で破壊したのだ。



 今まさにその巨大な剣の塊が俺の立つこの場所に激突しようとしていた。



 さっきトールキンに直撃した岩石は彫像の極一部。



 あれに比べて今度のやつは数十倍以上の質量がある。



 如何に狂戦士と言えど、あの馬鹿でかい2本の剣をその身に受けて無事でいられるはずがない。



 ドワ娘は最後まで罰当たりだと言っていたが、これもすべてドワーフを救うため。



 女神様、悪いな。



 きっと神様ともなれば腕の一本や二本でぎゃーぎゃー喚くこともないだろう。



 まぁ、そんなことよりもだ。



 実はここに一つだけ大きな問題があった。




 それは、だな――





 そうこのままだと俺もトールキンと一緒にあの巨大な剣の下敷きになってしまうって事だ。




 “一生懸命”




 この時の俺の走りを表現するのにこれ以上の言葉は他にきっとないだろう。




 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」




 残り僅かな体力をすべて振り絞り、俺は全速力で女神様の下を駆け抜けた。








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