竜の刀剣ー48 地下拳闘場ー8
「――さあ! お集りの皆さん! 大変長らくお待たせいたしました! 只今次の試合の準備がようやく整いました!」
司会進行役の男はオクタゴン試合会場に上がるとお立ち台に登り観客席に向かって大きな声を張り上げた。
「この場にいらっしゃる皆様は非常に運が良い! 今夜、このオクタゴンに数か月ぶりの飛び込み拳闘士が現れたのです!」
観客を盛り上げるよう男が両手を大きく広げると会場左右にある巨大な壁面に二人の拳闘士が映し出される。
「皆さま、ご覧ください! 彼女が新人のヴェル・オルメヴィーラ! なんと! 飛び込みとしてはこのオクタゴンが始まって以来初の女性挑戦者! しかも、獣人族とは言え見ての通りまだまだ若い!」
映し出された映像を食い入る様に見つめる観客達。
すらっとした身体。
仮面で顔を半分隠しているとはいえ、そのあどけない、そして美しい表情に驚きの声が上がっている。
「彼女が我々にこれからどんな試合を見せてくれるのか! さあ、拳闘士たちの登場だ!」
会場全体の照明が落ち、司会進行役の男がそそくさ退出すると舞台にスモークが焚かれ闘技場壁面の灯りが一つずつ順番に灯されていく。
会場は試合開始前の緊張感で一気に静まり返ったが、舞台を覆っていた煙霧が一斉に晴れるとそれまで溜め込んでいた熱が一気に爆発した。
舞台中央で相対する二人。
対戦相手の男は観客の声援にゆっくり拳を突き上げるとヴェルを見下し余裕の笑みを浮かべている。
一方のヴェルはというと対戦相手にも観客にも全く興味がないのか、準備運動の為軽く身体を動かすと俺を見つけ手を振っていた。
「――あのジャロン・ノーマンっていう拳闘士、どれ程のものなんだ?」
関係者席の最前列に座っていた俺は賭札を受け取るとヴェルの対戦相手についてフエーゴに尋ねた。
「ん? ああ、そうだな。所詮Ⅾランクの選手だしあまり強くはないさ」
「戦績は5勝8敗ね。一度Ⅽランクに上がったこともあるけど、最近は不調でⅮランクに落ちてからはあまりパッとしないわね」
アーレアの手元の戦績表にはこれまでの試合の記録が記されている。
「けど、その割にはかなりオッズに差があるな」
「そりゃそうだろ。いくら落ち目の選手が相手とは言え、素人同然の嬢ちゃんに賭けるのは馬鹿ってもんだ」
「でも、ヴェルさんが登場してから多少オッズは下がってきてるみたいね」
丁度ここから正面、観客席上部には現在の二人のオッズがでかでかと掲示されている。
「そりゃあれだ。これだけオッズが付けば大概の奴は欲に目が眩む。冷静に考えればどちらが勝つかなんて火を見るよりも明らかなのに馬鹿な連中だよ。まっ、そのおかげでオクタゴンも商売が成り立ってるんだろうけどな」
「ふんっ! 馬鹿で悪かったわね! ――ヴェルさん、お願い! 勝ったら後で美味しいものご馳走しちゃうから、頑張って!」
キッとフエーゴを睨みつけたアーレアは賭札を強く握りしめると身を乗り出し大きな声でヴェルに声援を送っていた。
試合開始まで残りわずか。
好カードの試合が終わり空席の目立っていた会場も今は既に満員となり、あちらこちらで声援が飛び交っている。
無名選手同士の試合なのにどうしてこれほど盛り上がっているのかフエーゴに尋ねると、どうやら彼等は先程までの負け分を一気に取り返そうと手持ちの資金の大部分をこの試合に賭けているらしい。
投票が締め切られオッズが確定するとまだ試合が始まっていないというのに違った意味で会場は白熱し場内は異様な熱気に包まれていた。
進行役の男が砂時計をひっくり返すとヴェルとジャロンは挨拶代わりに拳を突き合せ既定の位置まで下がっていく。
相変わらず緊張の色を見せず冷静なヴェルに対しジャロンも余裕の態度を崩さない。
さらさらと音を立て落ちていく砂の欠片。
積み上がる小さな砂丘に両者が戦闘態勢を取った次の瞬間、開始のゴングが高らかに鳴り響き両者の戦いの火ぶたが切られた。
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