竜の刀剣ー47 地下拳闘場ー7
「――もう入ってもいいわよ!」
待機室の外で待つこと数分、ようやくアーレアが扉の鍵を開けるとフエーゴは何故か警戒しながら部屋の中へと足を踏み入れた。
「どうかしら? 結構様になっていると思わない?」
満足気なアーレアはパーテーションの向こうのヴェルの手を引っ張ると自信作とばかりに衣装をお披露目する。
今までヴェルが着用していた服とは違い、上半身から腹部にかけては身体にフィットした黒いレザーアーマーを、下半身は防御より動きやすさを優先し、綿花で出来たハーフパンツを身に着けいていた。
「すげえ。まるで本物の拳闘士みたいだ」
試合が見れず不機嫌だったフエーゴも思わず感嘆の声を上げる。
「何言ってるのよ。彼女、これから試合なのよ? けど、まあ、確かに、フエーゴが驚くのも無理ないわね」
「パパ、どうかな? ヴェル似合ってる?」
「ああ、格好いいと思うぞ」
「ホント!? 良かった!」
「ヴェルさん、まだどこか気になる所はある? 極力動きの妨げにならないよう調整したつもりなんだけど」
ヴェルは肩の可動域、それから背中の翼をチェックすると何も問題ないと首を振って答えた。
「それにしても随分と背中が丸見えだな? 袖もないしがら空きだぜ?」
「しょうがないでしょ。翼を防具の下にしまうのは無理だったんだから。応急的な処置だし試合が終わったらちゃんとしたプロに作り直してもらった方が良いわ」
「袖の部分はわざと?」
「ええ、彼女が邪魔だからいらないって。まあ、試合の時は膝と肘にプロテクターも装着するから問題ないと思うわ」
「あとはゼッケンをつけて終いだな」
「そうね。そろそろ今の試合も終わりそうだし少し身体を動かしておかないと。ところでフエーゴ、彼女の試合のオッズどうなってるか知ってる?」
衣装の最終チェックを終えヴェルの髪を結い直していたアーレアはふとフエーゴに尋ねた。
「聞くまでもねえだろ? 対戦相手のオッズが1.10倍。嬢ちゃんのオッズは100倍くらいだったな」
「100倍か、思ったよりも付かないんだな。ヴェルの情報はある程度出てるんだろ?」
「まあな。じゃなきゃ誰も賭けようとはしないからな」
「……拳闘の試合が初めてで、しかもヴェルさんはこんな年端も行かない女の子。わたし正直試合として成立しないと思ったんだけど」
「あのオッズを見て一か八かに賭ける奴もそれなりにいるって事さ。まっ、けど、これ以上偏りが酷くなると相手のオッズはもっと下がるし、最悪の場合賭けは無効になっちまうかもな」
「フエーゴ、聞くまでもないと思うけど、勿論あなた、ヴェルさんに賭けたわよね」
「え? ああ、あ、当たり前だろ? このフエーゴ様、手持ちの金全部入れてやったさ」
「嘘おっしゃい。どうせ銅貨一枚が関の山でしょ?」
「ど、どうして分かったんだ!? って言うかそう言うお前はどうなんだよ。そこまで言うんならきっと金貨一枚くらい賭けたんだろうな?」
「え? 私? ん、まあ、一応銀貨1枚は……」
「なんだよ。お前だって俺と大して変わらねえじゃねえか! 他人の事散々言っていてけち臭い女だな。嬢ちゃんのこと応援してるんだったら金貨くらい賭けやがれっての!」
「けち臭いですって!? ああ、いいわよ。そこまで言うんなら賭けようじゃない。私だって別にお金が惜しいわけじゃないんだからね」
「おう! だったら今すぐ嬢ちゃんに賭けてきな」
「分かってるわよ!」
フエーゴに煽られカッとなったアーレアはポケットから財布を取り出すとそのまま部屋を後にしてしまった。
「へっ、馬鹿な女だ。どう考えたってこの嬢ちゃんが勝てるわけないのによ」
「おい、聞こえてるぞ」
「悪い、悪い。俺も悪気があるわけじゃないんだ。けど、普通に考えたらこの嬢ちゃんに勝ち目はないだろ?」
「普通、ならな」
まっ、それがこのオッズという数字に如実に表れている訳だが。
「パパもヴェルが負けると思っているの?」
「まさか! 俺はヴェルが必ず勝つって信じてる」
「それじゃあんたもこの嬢ちゃんに賭けたらどうだい? 折角の試合なのに賭けが不成立になったら勿体ない」
「ん、まあ、それもそうだな。それじゃ俺の分頼めるかな? なんせここに来るのは初めてだから」
「おう、いいぜ。それであんた、いくら賭けるんだ?」
俺は懐からコインを無造作に取り出すとそれを男に手渡す。
「金貨一枚か。あんたもかなりの勝負師だな」
「よく見ろ。金貨じゃない」
「は? あんた何言ってん――って、は、白金貨!?」
フエーゴは目を丸くし何度も白金貨を確かめる。
「それを全部ヴェルに賭けてくれ」
「おいおい、おいおい、嘘だろ!? 白金貨だぞ!? 馬鹿じゃねえの!? 絶対にやめた方がいいって! ってか、嬢ちゃんといいお前さんといい頭のネジがどうにかなってるんじゃねえの!?」
「そうかもな。でも、ヴェルが勝つかもしれないだろ? 試合は終わってみるまで分からない。それが勝負の鉄則だろ?」
「あーあ。こりゃダメだ。完全にイカれてる」
「なんだ? 買ってきてくれないのか?」
「いや、いってやるよ。買いに行ってやる。その代わり後で俺を絶対恨むんじゃねえぞ」
「分かってるって」
念を押すように何度も俺に忠告したフエーゴはもう一度白金貨を見つめると勿体なさそうにため息を付いた。
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