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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第四章

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ドワーフ王国のドワ娘姫ー18




トールキンはランタンの光に反射した指輪を見つけると、目を細め忌々しそうに腰を上げた。




「トールキン、てめぇこれは一体どういう事か説明してもらおうじゃねぇか!」




「説明? さて一体何を説明する必要があるというのですか」




「何をだと?!」




「……貴様がしていることは陛下にいやこの国に対する反逆そのものだ。なぜこの様な悪逆をしでかした」



それまでずっと黙っていたドボルゴだったが、今すぐにでも飛びかかりそうな勢いのガイアを手で押しのけると、殺意を押し殺した鬼神の様な顔つきでトールキンに詰め寄った。




「ドボルゴ。あなたがそれを聞いてどうするのです。理由を話せばこの私を許してくれるのですか?」




「貴様の行い例えどのような理由があったとしても、このドボルゴ絶対に許しはせん」




「……なら、私の言葉など必要ないではありませんか。あなた方が目にしているもの、それが事実であり全てですよ」



トールキンはランタンを左手に持ち変えると、腰に巻いて携帯していた暗殺用の腰帯剣を手に取りフレデリカの首元に剣先を押し当ててみせた。




「き、貴様っ!」



「てめぇ、自分が何をしているのか分かっているんだろうなっ!」




「えぇ勿論、そのつもりです。あなたの様に後先考えずに行動する愚か者と一緒にしないで頂きたいですね」




「心底むかつく野郎だな、てめぇはよっ!」




「それはお互い様です。……さて、これからどうしましょう」




「これからどうするって? この状況で何を言ってやがる。命が惜しけりゃ、姫様を今すぐ解放しろっ!」




「申し訳ありませんが、それは出来ませんね。確かに自分の命も惜しいですが、私はどうしても姫様に死んで頂きたいのです。……もちろん、あなたがたも、ですがね」




「姫様に、万が一のことがあれば、貴様の息の根はこのわしが必ず止める」



「トールキン、てめぇ、四対一のこの状況でここから逃げられると本気で思っていやがるのか?」



「えぇ、思っていますとも」




トールキンの剣がドワ娘の首筋に触れると透き通った赤い血が光に反射し、一滴、二滴と地面にポタリ、ポタリと音を立て滴り落ちた。





「き、貴様ぁぁぁぁ!」




「おっと、それ以上は動かないでください。私は非常に小心者。思わず手が滑ってしまうかもしれませんからね」



「くっ!」



「私もこのような事をするつもりはなかったのです。本来ならあの記事に書いてあった通り、姫様は人族の野盗に襲われ殺されるはずだったのです。



そう、私の筋書き通りにね」




なるほど、やはり全てはこいつの差し金だったわけか。



それにしてもあんな記事まで前もって用意していたとは恐れ入る。





「しかし、物事が思い通りにいかないのはこの世の常。折角、私が苦労して用意した舞台に予期せぬ人物が勝手に上がりこんでしまったのですから。


……おかげで全てが台無しになってしまった」



トールキンは俺とノジカを順番に睨みつけた後、酷く残念そうに首を横に振った。




「おかげで私が直接手を下さなくてはならなくなってしまいました。これは私の中で最も好ましくない結果です」



「トールキン! 貴様、あれだけ陛下に恩義を受けておきながら、なぜあの方を裏切るような真似をするのだ!」



「ドボルゴ。私はね、本当に陛下には感謝をしているのです。行き倒れの孤児だった私を陛下は我が子の様に育ててくださり、さらには大臣にまで取り立てて頂けたのですから……」



「なら、なぜっ!」



ドボルゴの問いかけに、トールキンは珍しく押し黙った。



そして僅かな沈黙が続いた後、トールキンはゆっくりと口を開いた。




「それはナウグリム陛下が愚劣種たる他種族をこの国に招き入れようとしていたからです」



「なぜそれがこんな事をする理由になる!」




「それは簡単な事です。ドワーフ族全ての民に他種族がいかに愚劣な生き物かを知らしめるためです。


姫様はその為の人身御供。



彼女の尊い犠牲によってドワーフの民は気づくのです。陛下の行いは浅短だったと……」









「なぜ、それ程までに他種族を忌み嫌う」



「多くの他種族がこの地に足を踏み入れるようになれば、必ずや罪のないドワーフ達が犠牲になる。それは自明の理なのです。なぜそうなると分かっているのに、大臣たる私が何もせずただただ指を咥えて、それを見ていることが出来ましょうか」



「そんなのはてめぇの只の妄想だろうがっ!」



「いいえ、妄想などではありませんよ。現に私の両親、そしてまだ幼かった妹は愚かな人族によって、私の、この私の目の前で無残に殺されたのですから!」



それまで冷静沈着だったトールキンが突然、怒気を含んだ声を上げた。




「今でもあの光景を思い出します。……ドボルゴ、それにガイア。あなた方に私の苦しみは理解できますまい」



「トールキン、てめぇ……」




「まぁ、あなた方に理解してほしいなどとは微塵も思っていませんがね」



「トールキン。貴様にどのような過去があったかは知らないが、だからと言ってこのような真似をしていい理由にはならん!」



「では、どうします? 私を止めますか? その立派な斧でこの私を刎ねますか? まぁ、私の剣が姫様の首元を切り裂く方が先だと思いますがね」



「くそっ!」



「なぁ、あんた。なぜそこまで一族の事を大切に思っているのに、ドワーフ王に進言しなかったんだ?」



「人族のお前には関係のない事です」



「関係なくなんかないさ。俺はそこにいるドワーフ族の姫様の友人なんだからな」



「ふんっ、人族の友人だと!? なにを馬鹿な事を」



「ボ、ボクだってフレデリカの友達だよ!」



「だから何だというのです」



「お前の言うように人族には愚かな奴が確かにいっぱいいる。だが全員が全員そうじゃない」



「何を言うのかと思えばくだらない。そのような事は分かっています」



「なら、どうして?」


「たった一人、たった一人愚か者がいるだけで十分ではありませんか。それがどれだけのドワーフを苦しめることになるか。あなたには分からないのです」





「――お、お前は優しい奴じゃな、トールキン」



「フ、フレデリカ王女!」



「「ひ、姫様!」」



その聞き覚えのある優しい声の主は気を失い倒れていたドワ娘のものだった。




「ラックにノジカ。それにガイア、ドボルゴ。どうやら心配をかけたようじゃな」



「あぁ、全くだ。余計な心配かけさせてくれて。礼は更に弾んでもらうからな」



「ふっ、分かっておる。……トールキン、お前と話すのは随分と久しぶりじゃな」



「そうでございますね、フレデリカ王女。もう二度と言葉を交わすことがないと思っておりましたので、感慨の至りでございます」



「そうか。なら、わらわの首に向けられた剣をどかしてはくれまいか?」



「残念ながら、いかにフレデリカ王女の頼みと言えどそれはできません」



「お前はわらわが死ぬことが本当に一族の為になると考えておるのか?」



ドワ娘は心の奥底を覗き込むような真っすぐな視線で言葉を投げかけ、トールキンもまたそれに応える様に迷いのない表情で頷いてみせた。



「……そうか。ならこれ以上お前に言うことはなにもなさそうじゃな」



「申し訳ございません、姫様」



「トールキン、お前が謝る必要はない――」



そう言うとドワ娘は突然、首に突き立てられていた剣を素手で強く握りしめた。



「なぜなら、わらわもお前に殺されるつもりはないからな」



「フレデリカ王女。このままではあなたの指がすべて無くなってしまいます。どうかお放しください」



フレデリカの手からは大量の血が流れ落ちていたが、一切痛みを顔には出さず、なぜか可笑しそうに首を横に振っていた。



「トールキン。わらわを殺そうと言うのに、指の心配をしてくれるのか。お前はおかしな奴じゃ」



「確かに、確かにそうかもしれません」



トールキンもなぜ自分がそんな事を言ったのかわからず、思わず苦笑していた。







――事態が動いたのは突然だった。



二つの黒い影が俺の両サイドを風を靡かせ猛烈な勢いで通り過ぎたのだ。



機を窺っていた百戦錬磨のドワーフがこの千載一遇のチャンスを見逃すことはなかった。







ドボルゴとガイアは事前に示し合わせたかのような阿吽の呼吸でトールキン目がけて斬りかかったのだ。



トールキンは咄嗟に剣を手放すと、ギリギリの所で二人の攻撃を交わしじりじりと壁際まで後退した。



「ラック、ノジカ! 姫様の手当てを頼む」



「うん、わかった!」



ノジカは急いでドワ娘に駆け寄ると、血で染まった手を水で綺麗に洗い流し、炎の金づち亭から持ってきたハンス特製の薬を取り出し傷口に塗った。




「……どうやら、これで形勢逆転のようだな、トールキン」





「形勢逆転? そうですか。確かに逃げ場はないかも知れませんが、ここであなた方を殺してしまえば何の問題もないでしょう?」




「はぁ? 元とは言え王宮兵士長のこの俺を相手に随分と強気じゃねぇか」



この追い詰められた状況で、なんであんなに奴は落ち着き払っていられるんだ。


……なにか嫌な予感がするのは俺だけか?




「私はいざという時の為に、常に切り札というものを用意しているのですよ」




あれが切り札?



トールキンが懐から取り出したのはどす黒い液体の入った古めかしい只の小瓶だった。



 「ガイア、あなたはこれに見覚えがありませんか?」



「あぁ? 見覚えだと? ……おい、てめぇ。ま、まさかそれは!」



「えぇ、そのまさかですよ。あなたの察しの通り」



「トールキン、お前それをどこで手に入れやがった!」



「それは秘密です」



トールキンはニヤリと笑うと小瓶の蓋を指で回し開け、中の液体を一気に飲んでしまった。







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