竜の刀剣ー43 地下拳闘場ー3
「……はぁぁぁ」
受付の女性はヴェルに目をやると額に手を当て大きなため息を付き、それから特段の笑顔でフエーゴを見やった。
「フエーゴ、あんたと違って私たちは今とても忙しいの。ねぇ、分かるわよね?」
「ん? ああ、勿論だ、アーレア」
「次の試合ももうすぐ始まるし、払い戻しの準備だってあるのよ」
「そんなこと分かってるよ」
「分かってる? そう、ああ、分かってるのよね。そっか、分かってるのか。だったら――」
いきなり立ち上がったアーレアはフエーゴに詰め寄り男の耳を引っ張ると大きな声でがなり立てた。
「くだらない冗談で仕事の邪魔をしないでよっ! こんな可愛い娘が拳闘士の試合に出るわけないでしょ!」
「冗談じゃないんだって! 痛てててっ! おいっ! 馬鹿! アーレア、そんなに強く引っ張るな!」
フエーゴの言葉に少しも耳を貸そうとはせず、アーレアは男の耳を引き千切らんばかりにさらに強く引っ張り上げた。
「痛ててててっ! 止めろ! おい! 止めろって! お、お願いします! 止めてください!」
控室に響く男の悲鳴に皆一瞬何事かと作業の手を止めこちらを見やったが、誰も彼女を止めようとはせず、まるで何事も無かったかのように仕事を再開していた。
「おい! あんたたちからも言ってやってくれよ! 俺は冗談なんか言ってないって!」
「フエーゴ、あなたまだそんな事――」
涙目になりながらそう懇願するフエーゴに俺は仕方なく救いの手を差し伸べた。
「この娘が拳闘士の試合に参加するっていうのは本当なんだ」
「……え?」
信じられないとばかりに俺とヴェルを交互に見やったアーレアはゆっくりフエーゴに目をやると申し訳なさそうに男の耳から手を離した。
「だから言ったじゃねえか! この娘が試合に参加するってよ!」
――怒りの収まらないフエーゴは腫れあがった耳を押さえアーレアに抗議していた。
「し、しょうがないじゃない! 普通信じられないでしょ? こんな可愛らしい女の子が拳闘士とやり合うなんて!」
「はっ! そもそもお前! 始めから俺の言う事なんて全く信じてなかったじゃねえか!」
「それはあなたの日頃の行いが悪いからでしょ!」
「あっ! なんだと!」
「あのな、痴話喧嘩は他所でやってくれないか。俺たちはさっさと話を進めたいんだが」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
机を叩き二人揃って立ち上がったフエーゴとアーレアは互いに目が合うと顔を背け同時に腰を降ろした。
「はぁぁ、それで本当にこちらのヴェルさんが拳闘士の試合に参加すると?」
「そうだ」
「ヴェルさん本当によろしいのですか? 嫌ならちゃんと断ってくださいね。これは誰かが強制できるものではありません。参加するかどうかははあくまで本人の意思。ヴェルさん、どうしたいですか?」
出来れば思いとどまらせたい。
そんな気持ちが伝わってくるアーレアの問いだったがヴェルの答えは変わらなかった。
「……そうですか。ではこちらの書類にサインをお願いします。この“オクタゴン”で行われる試合では選手が怪我、または死亡した際、運営側が責任を負う事は一切ございません。またあなたが相手に怪我をさせたり、死に至らしめてしまった場合でも一切責任は発生しませんのでその点はご安心ください」
一通り契約書に目を通しヴェルがサインをするとアーレアは書類を持ち部屋を後にした。
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