竜の刀剣ー37 手紙
俺は別邸に戻るとヴィニャの母親を眠らせ昼間まで仮眠を取ることにした。
彼女には昨晩の一件について色々と話を聞きたかったが、俺も睡魔には抗えずベッドに横になるや否や直ぐさま眠りに落ちていた。
余程疲れていたのか、途中で目を覚ますことなく熟睡していた俺はカーテンの隙間から差し込む光に目を覚ます。
太陽は既に空高く昇っており、どうやら2時間ほど眠っていたらしい。
多少身体に重さは残るが仮眠を取ったおかげで頭の方はかなりすっきりしていた。
ベッドから降りた俺は未だ大の字で寝息を立てる精霊様を摘まみ上げると身支度を整え一階の大広間に降りて行く。
扉を開けた瞬間、鼻に香る焼きたてのパンの匂い。
どうやらキシリアが昼食を手配してくれていたようでテーブルにはバゲット、サラダ、スープ、それにローストエッグや塩漬けベーコンなども並べられていた。
「――おはよう、ラックはん。昨日は随分と大変やったみたいやな」
一人で先に昼食を取っていたリッツァは俺に気付くと手に持っていたサンドイッチを口の中に放り込みジュースで流し込んだ。
「まあな。けど、おかげでそれなりに収穫はあった。ヴィニャの母親も助けられたしな」
「やっぱり彼女は地下のオークションで?」
「奴隷として出品されたのを俺が落札した」
「……奴隷売買に手を出すなんてエルドルンいや、ヘルメースも地に落ちたもんや」
「おそらくだが、かなり前から禁忌品の取引は行われていたんだろう。オークション参加者も妙に離れしていた」
「そか。なら後は奴等が裏で糸を引いている証拠を掴むだけ」
「そうだな。だがそれが一番難しい。結局昨晩も地下オークションの連中とヘルメースが繋がっているという直接的な証拠は見つからなかった」
「やっぱりそう簡単には尻尾を掴ませてはくれへんか」
俺は項垂れるリッツァの前に座ると料理に手を伸ばした。
「確かに昨日は直接的な証拠は見つからなかった」
「ラックはん?」
顔をあげたリッツァに俺はこう続けた。
「さっき言っただろ? それなりに収穫はあったって。――昨日俺は地下オークションで魔族と遭遇した」
「そ、それ、ほんまか!」
「間違いない。なんせ数時間前まで俺たちは奴と直接やり合っていたからな」
「ま、魔族と!? ラックはん、よくそれで無事に――」
「無事、ね」
ヴェルが来てくれてなかったら今頃どうなっていたことか。
恐らく全身を魔虫に喰い尽くされ、俺と言う存在はこの世から消えていた事だろう。
切り札を失っただけで済んだのはある意味不幸中の幸いと言えるのかもしれない。
「けど、何で魔族が地下オークションに?」
「奴は地下オークションに侵入したクロの存在に気付き俺を始末する為に現れた。……ここからは俺の推測だが、今まで何の手掛かりも得られなかったのは裏で魔族がヘルメースに協力していたからかもしれない」
「ヘルメースに?」
「ああ。ヴィニャを攫った連中然り、昨晩のオークションの連中も然り、証拠になりそうな奴等は全て昨日の魔族に消された。それこそ髪の毛一本残らずな。だから今まで何一つ見つからなかったんだ」
「すべての証拠を消す為に魔族が……。もし仮にそうだとしたら魔臓が相手じゃあたしらどうすることも出来ひん。そもそも魔族が連中に協力して一体何のメリットがあるの?」
「それは、今は分からない。たが、きっと何か目的があるはず。奴等に協力し魔族が利する何かが」
嫌な予感がしてならない。
この街で一体何が起きようとしているのか。
「すべては俺の推測に過ぎない。だが調べてみる価値はある」
「……確かに。今まで魔族の噂はあったけど魔族を見た人はおらへんかった。何かが少しずつ動き出しているのかもしれない」
「まっ、そういう訳で俺の昨日の成果はこんな所だ。リッツァ、お前も街で情報を集めていたんだろ?」
「そや。けど、さっぱり」
リッツァはため息交じりに両手を上げた。
「怪しい話は仰山聞くけど、どれもこれも噂の域はでえへん。それからカフカの奴は、あいつ暫く海洋都市にはおらへんかったらしいんやけど、どうやら明日王都から帰ってくるみたいなんや」
「ロイヴァ・カフカ、今まで王都にいたのか」
「恐らくオークション開催の式典に会わせてエルドルンに戻ってくるんやろ」
カフカの名前が出た途端、リッツァの目の色が深く沈む。
「お前、本当にやるつもりなのか?」
「もちろん。その為にあたしはここにいる」
自分に言い聞かせるように言葉にしたリッツァの瞳はいつの間にかいつもの商売人の目に戻っていた。
「リッツァ、出掛けるのか?」
リッツァは昼食を終えフードを深く被るとトレードマークのリュックを背負った。
「もちろん。情報は多いに越したことはないからね。それに昔馴染みに会う約束もしてるから」
「昔馴染み? まぁ、いいや。それより分かってるとは思うが下手に動いて連中に目を付けられれば俺たちの身も危なくなる。なんせ教会、貴族、王国にまで手が及んでいるからな」
「わかってる。そんな下手を撃つほどあたしも馬鹿じゃない。あっ、そうそう、ラックはん。そう言えばさっき来客があって手紙預かってるんだった」
懐から一通の手紙を取り出したリッツァはすっとテーブルを走らせる。
「手紙? 俺宛に?」
「そや」
一体誰から?
そもそもここに滞在してることは誰にもまだ伝えていない。
もちろんラフィティアやドワ娘たちにも。
キシリアが誰かに漏らしたのか、いや、それとも他の誰かが……。
手にした封筒には差出人の名はおろか宛名すら書かれていない。
俺は日に封筒をかざし怪しいものが入ってないか確認すると、手元のナイフで封を開け手紙を取り出した。
するとそこにはよく見知った人物の名前が書かれていた。
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