表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

407/422

竜の刀剣ー33




 魔虫の波は休む間を与える事無く次々と襲い掛かってくる。


 第二派、第三派を辛うじて凌いだ俺だったが足を踏み込むたびに激痛が走り、気が付けば肩で息をしていた。


 やはり一対多の戦闘は明らかにこちらが不利か。


 せめて範囲攻撃魔法を使える味方がいれば形勢は変わったかもしれない。



 だが、いまはそんな事を言っていても仕方がない。


 問題はどうやって残りの時間を稼ぎ生き抜くか、だ。



 俺は未だ寝静まっているメルカルンの街並みに目をやる。



あの小型の魔虫を相手に建物の中に逃げ込んでも意味はない。


剣やバックラーを振り回すことも出来ないし、逃げ場を失い追い詰められるのは俺の方だ。


だから始めからあえて市街地ではなく遮蔽物の少ない海岸を選んだのだ。


 

 このまま魔虫の群れを相手にしていてもジリ貧なだけ。


 だとしたら答えは一つしかない。


 奴を、エントマを何とかするほかない。



 俺は第四波を掻い潜るとそのままエントマに向けて短剣を放ち挑発した。


 「どうした? そんな所で高みの見物を決め込んで。気が変わったんじゃなかったのか? それともまさか魔族のくせに人間相手に怖気づいたのか?」


 短剣を指先で受け止めたエントマは怪しく笑みを浮かべるとそのまま俺の足元に短剣を投げ返した。

 

「それってもしかしてこのボクを挑発してるつもり? その状況でキミ、面白いね。フフフッ、けど、そうだね。キミの言う通りだ。ボクは怖気づいていたのかもしれない。人間をこの手でなぶり殺す快感を再び思い出してしまうことを――」


エントマは両手の刃をこちらに向け背翼を大きく広げる。


「あの快感癖になったら止めるのが難しいんだ。きっとこの街の人間を全員殺しても足りない。まだ我慢しなきゃいけなかったのに、キミのせいだよ」


空を蹴ったエントマはあっという間に魔虫の群れを追い越し、俺の脳天目掛け鋭い刃を突き立てた。


一瞬でもタイミングを見誤っていたら、俺はこの世に存在していなかっただろう。


エントマが刃を振り下ろした瞬間、俺はバックラーで刃の攻撃点をずらし寸でのところで受け流すことに成功した。


しかし、その破壊力は凄まじくバックラーはいとも簡単に砕け散り、その衝撃で俺の身体は数メートルも吹き飛ばされてしまった。


 「へぇ、そんな方法でボクの攻撃を躱すなんてキミなかなかやるじゃない。でも、その奇跡、あと何回続くかな?」



海岸に出来た巨大なクレーターから魔虫に指示を出したエントマは再び夜の空に舞い戻る。


魔虫は俺を取り囲むように群れを成すと四方八方から攻撃を仕掛けてくる。


どうやら俺の逃げ場を封じ次で確実に仕留めにくるのだろう。


俺はエントマを見失わぬようギリギリのところで魔虫の攻撃を躱していく。


そしてエントマが再び背翼を大きく広げた次の瞬間、俺はアイテムボックスから取り出した煙玉に点火し地面に強く投げつけた。



「煙幕? 今更そんなものでこのボクの目を。いや、違う。もしかしてそれって――」



 大量の白い煙と共に得も言われぬ匂いが辺り一帯に立ち込める。


 やがて煙に巻かれた魔虫の群れは藻掻くように次々地面に落ちていく。




 数多のモンスターと戦いを繰り広げるMMOで虫系のモンスターと遭遇することはさして珍しいことではない。


ましてや虫系モンスターと言えば平野、荒野、森林、洞窟など世界中のありとあらゆる場所に広く分布している種族の一つと言える。


そんな相手に対し魔法の使えないソロプレイヤーの俺が何の対策もしていない方がおかしいだろう。


食糧、罠、薬など様々な物を自分で作成・調達していた俺はモンスターの系統に有効なアイテムを作り常備していた。


アルカロイドという物質を植物から抽出し薬品と混ぜて作った特製の煙玉は虫系に対して絶大な効果を発揮し、ボスモンスターが相手でも一時的に動きを封じることが出来た。


「そんな便利なアイテムがあるんだったら最初から使いなさいよ!」



確かにユシルの言う通り。


俺もこの殺虫弾が魔虫に対して効果があるのは分かっていた。


だが、この数相手に有効打を与えようと思ったら一度に手持ち全てを使用する必要があった。


それに海風が強い海岸ではおそらく効果も半減する。


だから使うタイミングが重要だったのだ。



徐々に白煙が辺りを覆い、あれだけ苛烈だった魔虫の攻撃が止んでいく。



「殺虫効果のあるアイテム。つくづく忌々しい人間だよ。けど、その程度の毒がボクに効くなんて本気で思っているの?」



エントマは空に舞い上がる白煙を意にも介さず、両手を大きく広げ真っ直ぐこちら目掛け突っ込んでくる。



下級の魔物が相手ならまだしも、さすがの俺も魔族相手に殺虫弾が利くとは思っていなかった。




既にここは奴の射程圏内。


俺は再びバックラーを構えると重心を低くし覚悟を決めた。



 羽音が減ったおかげでかなり聴覚が利くようになり、白煙を切り裂く湾曲刃の音が聞こえる。


不意に風の音が途切れ息を飲んだ次の瞬間、眼前には死神の鎌が踊っていた。



思考よりも早く反応する俺の右手。


刃を往なし再度エントマの攻撃を躱したかに思えたが、死の円舞曲を踊っていたのは一刃ではなかった。


 それはまるで枯葉のように脆く、見るも無残に崩れ落ちてしまった。 


 悲鳴すらなくただ足元に転がったゴミ屑を見たエントマはこの結果を予期していたのか動揺せずほくそ笑んでいた。


「やっぱりこっちは外れ、か」


エントマの放った斬圧で周りを覆っていた白煙はすべて吹き飛び視界が露わになる。


切り刻まれたバックラーの亡骸


だがそこに俺の骸は存在していなかった。



「じゃ、今度こそこっちが正解だ」



振り返ることなくエントマが放った刃の先には短剣を構えた俺の姿があった。



そう、バックラーを構えエントマに切り伏せられたのは俺を模したクロの影だった。



殺虫弾には魔虫の数を減らすと言う効果も期待していたが、それとは別に煙幕を利用しエントマの目を欺く目的があった。


奴には視覚以外に感知機能がある可能性があり、分の悪い賭けだったがどうやら勝ったのは俺の方だった。


そして殺虫弾をこのタイミングで使用した一番の目的



それは――



俺が手にした短剣はクロの影を纏い、黒い刃を成している。



この一撃に全てを賭け俺はこの身を囮に奴をこの距離までおびき寄せた。


晴れた空。


月明かりが奴を照らし、エントマの影が真っ直ぐこちらに伸びている。



恐らくエントマは始めからどちらかが偽物であることを理解していた。


そして例え初撃で外れを引いても、次の一手で俺を倒せると、そう考えていたのだろう。


だが、エントマが外れを引いた時点で俺の勝ちは確定していた。


 「遅い」


俺の言葉が奴に届いたかどうかはわからない。


そんなことはどうだっていい。


ただ、奴の刃が俺の首を刎ねるよりも早く漆黒の剣はエントマの影を切り裂いていた。






この作品を少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂けたら下にある評価、ブックマークへの登録よろしくお願いします('ω')ノ


”いいね”もお待ちしております(*´ω`)


また、ブクマ、評価してくださった方へ。

この場を借りて御礼申し上げます(/ω\)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ