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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

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竜の刀剣ー28 



 

 ――迂闊だった。


 あんな魔族がいるなんて。


 奴の使役する虫は魔素の匂いを嗅ぎ分け居場所を特定する。


 このままでは奴に見つかるのも時間の問題。


 そうなれば竜の刀剣も探すどころではなくなってしまう。


 どうする。


 この状況を打開する策はあるのか?



 エントマにどう対処すべきか頭をフル回転させ思案していると、頭に飛び乗ったユシルが髪を引っ張り俺の意識をこちらへと引き戻した。



 「――ねぇ、オークションも終わったのに一体何時までここにいるわけ? オークション会場の場所も分かったのに早くしないと奴等に逃げられちゃうわよ?」


 「……そうなんだが、少し、いや、かなりまずいことになった」


 「はぁ? まずいこと?」


 何かを察したユシルはあからさまに怪訝な表情を浮かべた。


 「先行して会場に向かったクロが魔族と出くわした」

 

 「へぇ、魔族ね。……って、ま、魔族っ!? あそこに魔族がいるっての!?」


 「そうだ。どうやら昆虫を使役する魔族らしい」


 「虫ぃ? なによ、それ。気持ち悪ぅ!」


 「……ヴェストリスで聞いた魔族の噂、俺もこのオークションに奴等が関わっている可能性を考えなかった訳じゃない」


 「それってつまりここに魔族がいるかもしれないって分かってたって事でしょ?」


 「少なくとも関係しているとは考えてた」


 「だったら魔族との遭遇も想定内だったんでしょ? なのに一体何がまずいわけ?」


 「クロを使役している俺の存在に気付かれた」


 「……はぁ? 契約した対象を使役してるんだから裏で誰かが操っているのは当然じゃない。そんなの気付くも気付かないもないでしょ?」


 「問題は俺とクロが繋がっていたってことだ」


 「え? どういうこと?」


 俺はクロを通して得た魔族の情報をユシルに説明した。


 「魔素を探知する虫?」


 「ああ、奴の使役する虫は相手の魔素の匂いを嗅ぎ分け探知する能力があるらしい。クロの力の源は俺の魔素。クロは俺の影であり、影は常に俺と繋がっている」


 「それってかなりまずいんじゃないの!?」


 「だからそう言っただろ? すぐにクロを退き上げさせたが時間稼ぎになるかどうか」


 「魔素の匂い、そんなのどうやって対処しろっていうのよ。……そうだ! あの影は消せないわけ? 影さえ消えちゃえば奴等もここまでは追ってこれないんでしょ?」


 「いや、影は消せない。それに奴等が追っているのはクロじゃない。俺から染み出る魔素の匂いなんだ」


 「それじゃ、一体どうするのよ! まさかここで魔族を迎え撃つわけ!? まったく、なんであんたといるとこんな面倒なことばかり起きるのよ!」




 魔族の手が差し迫る中、オークションも終了し俺たち以外の参加者は全て会場を後にしていた。



 「――お客様、もう間もなくこの会場は閉鎖されます。こちらの送り状に記入の後、ご退出をお願い致します」


 俺たちの事情など知るべくもない従者は術式が刻印された用紙を淡々と差し出した。


 「これは?」


 「こちらはお客様がオークションで落札された奴隷のお届け先と日付、時間を記入する用紙でございます」


 「届け先か。場所の指定はどこでもいいんだったな?」


 「この海洋都市エルドルン内でしたら。それからお届け日時は今日から一週間以内と決まっております」


 「一週間以内?」


 「はい。一週間以内でございます。それ以外の日付を指定された場合、それがどんな理由であってもその商品は破棄させていただきますのでその点は十分ご注意ください」


 「もうそんなのどうでもいいじゃない。悩んでいないで早く書いちゃいなさいよ!」


 「どうでも良くはないんだよ」



 彼女はヴィニャの母親だ。


 折角助けたのだから無事彼女の共へ送り届けたい。


それに彼女はヘルメースに繋がる手掛かりになるかもしれない。



 俺はこちらの素性や居場所が特定されないよう慎重に書き記していく。



 ――送り場所


ヴェータ家や別邸は論外として人目のつく場所もあまり好ましくない。


 時間も、出来れば人通りのない時間帯がいいだろう。


 ユシルが急かすのを無視しチェックしながら一通り書き終えると手元にあった用紙は目の前で透過し、そのまま消えてしまった。


警戒する俺たちを他所に従者は泰然とペンを回収する。


 「ご安心ください。お客様のお荷物はご指定した場所に必ずお届けいたします。それではあちらの扉からお帰り下さい」


 従者が壁の方に手を向けるとそこにはいつの間にか魔方陣の描かれた扉が現れていた。


 入ってきた時と同じようにドアノブを握り押し開くとそこは長い廊下へと繋がっていた。


 「ここを出た後どうするつもりなわけ?」


 「まずは出来るだけここから離れて戦いやすそうな場所を探す」

 「探すってそんな余裕あるわけ?」


 「相手は俺の魔素を探知して追ってくる。それはつまり相手をこちらの好きな場所に誘導できるってことだろ?」


 「まっ、確かにそう言われればそうね」


 「待ち伏せできれば罠も張れるし、先手も打てる。そしてあとは朝が来るまでひたすら逃げ続ける」


 「はぁ? なによ、その作戦」


 「いいか、ユシル。俺は不思議に思っていたんだ。奴等はこの住人など容易く殺せるし街も簡単に破壊できる。なのに暴れもせず人知れず行動している。それって何かおかしいと思わないか?」


 「……何が言いたいわけ?」


 「つまり魔族には何か目的があるってことだ。今は表立って行動できない何かがな」


 「それってまだ魔族が自分の存在を皆に知られたくないってこと? その目的のために」


 「多分な。だから街が起きるまでの時間さえ稼げれば俺たちは助かる出来る可能性が高い」


 「なんかそれって都合良く考えすぎじゃない?」


 「だが、そうじゃなければ説明がつかないことも確かだ」


 「なんか腑に落ちないけど……まっ、ここに居て虫に喰い殺されるよりはマシか」


 「ユシル、ここを出たら教会とは逆方向の海岸へと向かう。落とされたら虫の餌食だ。振り落とされない様にしっかり掴まってろよ」


 そんな光景を想像したのか、一瞬身震いしたユシルは体勢を低くし俺の頭にしがみつく。


 「――いってらっしゃいませ」


そう言って深々と頭を下げた従者は最後まで俺たちに笑みを見せることはなかった。


俺は振り返ることなく建屋を飛び出すと久方ぶりの相棒を手に暗がりの海洋都市を駆けだした。


 







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