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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第四章

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ドワーフ王国のドワ娘姫ー15







ドワーフ王国ガラドグランを見守る様にそびえ立つファムスル山。



この山の豊富な資源がドワーフ族の繁栄の礎となったと言っても過言ではないだろう。



しかしいくら豊富だといっても消費すれば資源はいつか必ず枯渇する。



長年に渡ってドワーフたちが鉱山を掘り続けた結果、ファムスル山の鉱脈はすべて枯れ果て、いつしか誰も寄り付かない廃坑になってしまった。



そんな見捨てられたファムスル山を憂いた時のドワーフ王がこの地を自らの住まう王城へと作り替えたのだ。




ファムスル城。



目の前にそびえ立つこの山こそドワーフ族が誇る難攻不落の王城である。




王城の入り口には両サイドに一体ずつ、ガラドグランを見守るかのように剣を構えた巨大な女神像が山肌に彫られ、そしてその足元には巨大な斧を携えた屈強なドワーフの兵士が目を光らせている。



ガイアの話によると、この城の大きさは裕にユークリッド城が丸ごと4,5つは収まってしまう程広大で未だに手付かずの坑道もかなりあるとのこと。


一度でも道に迷えばこの地に住まうドワーフでさえ、そう簡単に外に出ることは出来ないという。



巨大迷路のようなこの城のどこかにドワ娘とナウグリム王は幽閉されているらしい。



俺は今日で何度目かのため息をつくと城内に一歩足を踏みいれた。




なんだか随分と涼しいな。




山の内部だからだろうか、ひんやりとした空気に肌寒さを覚える。



暖かさを求める様に城内に設置された炎の灯りに目が行くと照らされた光景に目を奪われた。



ここがかつて廃坑跡地だったとはにわかには信じられない。



一体どれ程の時間と労力をかけてこの城を作り上げたのだろう。



奥へと続く通路の白い深成岩の壁一面、さらには数十メートルほどの高さにある天井の細部にまで見事な彫刻が施されている。



そして一定のリズムで流れ落ちる水滴に炎の光が反射すると、キラキラとまるで流れ星の様に輝き、神秘的な光景が目の前で繰り広げられていた。



もしノジカがここにいたら、きっと大騒ぎしていたに違いない。




一瞬呆気に取られ足を止めてしまったが、前を行くガイアとドワーフ兵にとっては別段感慨もない見慣れた光景のようでスタスタと歩いて行ってしまった。



俺は二人に遅れまいと、急いでその後をついていく。



道中、幾人かのドワーフ兵士とすれ違ったのだが、異物でも見るような奇異の眼を向けられていたのは俺の勘違いではないだろう。



鉱脈に沿って掘られた坑道だから仕方ないのかもしれないが、やたら右へ左へと道が曲がっていて、さらには数えきれないほどの分岐がある。



あみの目の様に張り巡らせた坑道。


これなら何も知らない侵入者はまず王のいる場所まで辿り着くことは叶わないだろう。



それから幾つもの階段を上り、坂を下り、分かれ道を曲がりひたすら歩くこと十数分。



俺たちはやっとのことでこの場所までたどり着いた。









「――トールキン、久しぶりじゃねぇか」




「ん? ……あぁ、誰かと思ったらガイア。あなたでしたか」



なにやら忙しそうに書き物をしていた男はゆっくり顔を上げると筆を机に置き手を止めた。



トールキンは頭に司教冠の様な帽子をかぶり、足元にかけて大きく膨らんだゆるやかな外套を身に纏っていた。




「ガイア、あなたは二度とこの城に足を踏み入れないと思っていましたが――」




ガイアに言葉を投げ掛けていたトールキンだったが、俺の存在に気づくと会話を中断し憎悪と侮蔑が内包する、まるですべての人間を蔑むような白い目でこちらを見やった。



「……どうして人間族がここにいるのです」



「こいつは俺の知り合いだ。ここに連れて来ちゃまずかったのか?」



「まずかったかですって? あなたは一体何を考えているのですか。ナウグリム陛下の住まうこの王城にどこの馬の骨ともわからない輩を連れ込むなんて」



「馬の骨なんかじゃねぇさ。素性ならはっきりしてる。こいつはオルメヴィーラの領主。そして姫様の友人だ」



「……は? フレデリカ王女のご友人? この男が? ガイア、あなた以前から頭のネジが緩いとは思っていましたが、とうとう一本、いえ、すべてのネジが抜け落ちてしまったのですね」



「あぁ! なんだとてめぇっ!」



トールキンに挑発されたガイアの顔はみるみるうちに真っ赤になっていき、熱り立ったガイアは冷ややかな顔で腰掛けているトールキンに突然食って掛かろうとした。




「くっ!」



  

 ガイアが一歩踏み出すと同時に傍に控えていた衛兵が素早く前に立ちふさがりガイアの首元に剣先を突き立てた。


 「まったく、血の気が多いのは相変わらずですね」


トールキンが意地の悪そうな笑みを浮かべたまま、片手で合図をすると衛兵は剣を鞘にしまい後ろに一歩下がった。







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