竜の刀剣ー14
「……死んだの?」
「どうやらそうみたいだな」
体液をばらまき地面に倒れ込んだ男は白目をむいたまま動くことは無かった。
毒か?
いや、呪いや魔法の可能性もある。
どちらにしろ、情報が漏れるのを防ぐため殺されたのだろう。
しかし、どうやってこの男が裏切ったのを知った?
さっきからずっと周囲を警戒しているが俺たち以外の気配や視線は感じない。
「ねぇ、パパ、見て!」
隣にいたヴェルが異変に気付き男の口元を指す。
「どうした?」
「なにか動いている」
「動いてる?」
俺は仰向けに倒れた男の死体を注意深く観察する。
すると確かにヴェルの言う通り何かが男の身体の中でもぞもぞと動いていた。
な、なんだ、あれ。
身体の中に何かいるのか?
「ラックはん! う、後ろの死体も!」
リッツァは悲鳴にも似た声を上げ、思わず俺の腰にしがみつく。
皮膚の下を這いずり回る得体のしれぬ何か。
数え切れぬほど増殖したそれはあっという間に全身に至り最後は皮膚を食い破り、姿を現した。
「な、なんやあれ」
それは小指の先にも満たぬ小さな虫。
目は赤く複数あり、口や足も見て取てる。
蜘蛛にも近しいが俺は始めて見る昆虫だ。
身体の外に飛び出したそいつらは男の全身を覆うと一斉に皮膚に喰らいつく。
「こ、こいつら死体を食ってるのか!?」
見れば男の体内には骨すら残っておらず全て食いつくされていた。
気が付けばそこには、血の一滴、髪の毛の一本すら残っておらず、死体を平らげた虫たちは雲散霧消していた。
「い、いまのは一体!?」
思わず固まっていたキシリアは顔だけゆっくりこちらに向ける。
「わからない。けど――」
禁制品の取引現場を押さえても情報や証拠が全く得られなかったのは、いまのがもしかしたら関係しているのかもしれない。
「パパ、これからどうするの?」
「……そうだな。危険だがあの男が言っていた南東の建屋に行ってみよう。もしかしたらまだそこに監禁されてるかもしれない」
「そ、そやね。ここにおっても埒が明かないやろうし。けど、ほんまに今のは一体なんやったんや」
警戒しながら道なりに進んで行くと、そこには男の言う通り赤煉瓦の建屋が存在していた。
外見は至って普通の建物。
周囲にも同じような建物がいくつもあり、誰もここに奴隷が監禁されているとは思わないだろう。
裏口から建屋に入り、地下へと続く階段を降りてく。
地下室は思ったよりも広く、これならば十人程度監禁するには十分だろう。
「一足遅かったみたいね」
「ああ。ついさっきまで人がいた気配はするが、完全にもぬけの殻だな」
まっ、こんな事だろうとは思っていたけどな。
あれ程警戒心の強い相手なら、さっきの男二人を殺した時点で此処を引き払っているだろうからな。
「……仕方ない。諦めて俺たちも引き上げるとするか」
「こ、この子の母親を探してはあげないの!?」
キシリアは不安げな少女を抱き寄せると落ち着かせるように優しく頭を撫でた。
「もちろん探してはやりたいが、なんせ手掛かりが何もないからな。さっきの男二人は衣服すら残らなかった」
「そ、それはそうだけど、このままじゃ幾ら何でもこの子が可哀想じゃない!」
「そんなことは分かってる」
「なら――!」
「キシリア、俺は何もこの子を見捨てるなんて一言も言ってない」
「そ、そう、だったわね」
「闇雲に探してどうにかなるとは到底思えない」
「そやね。まずやるべきは情報集め。動くのはそれからや」
「リッツァの言う通り。だからここは一旦引く」
「……わかった。私も出来る限りの事は協力するわ」
「そうしてくれると助かる。そうだ、まだ、その子の名前聞いてなかったな」
俺は彼女を怖がらせないよう視線を合わせ優しく問いかける。
「名前何て言うんだい?」
「え、あっ、そ、その、わ、私、ヴィニャって言います」
「ヴィニャ、いい名前だ。なぁ、ヴィニャ。お母さんを助けたい気持ちはわかるけど今ここにいるのは危険なんだ」
少女は黙ったまま頷く。
「だから辛いだろうけど今は俺たちと一緒に行こう。決して悪いようにはしない」
俺の話を聞いていたヴィニャは判断を仰ぐ様にキシリアを見やる。
「私もそれが良いと思う。だからヴィニャ私たちと一緒に行きましょう」
「……はい」
少女は小さな声でそう答えると涙を浮かべ俯いた。
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