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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

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竜の刀剣ー8







 ハンスは立ち上がると窓の外に広がる賑わう街並みを見やった。


 「ヘルメースのおかげで確かに王国の経済は回復し、皆が豊かになったのは間違いない。そして彼等の支援のおかげで我々がなんとか魔族に対抗出来ているのもな。だが――」


 振り返り再び椅子に腰かけた彼の表情はまるで苦虫を嚙み潰したかのようであった。


 「ヘルメースは大きくなりすぎてしまった。いま彼等の頭の中にあるのは金儲けの事だけだ。奴等は儲かりさえすれば全てが許される。……その結果、王国の経済はヘルメースに左右され、国の意思決定さえ歪ませている」



 人身売買や禁止薬物の流通。


 もう、西方で彼等を縛るものは何もない。



 「どうしてそうなる前に手を打たなかったのですか? 西方の領主が揃って意見すれば王国もそれを無視できなかったはずじゃ」


 「もちろん私たちは幾度となく王に進言したさ。だが、彼等に対する王の信頼は厚く、貴族連中もまた、たかが1ギルドが王国に大きな影響力を持つとは思っていなかったのさ。――しかし、日を追うごとに勢力を拡大していったヘルメースは気が付けば西方の経済圏を手中に収めていた」


 ユークリッド王国は王都の西方を中心に経済が発展してきた。


 西方を牛耳るという事はつまりユークリッド王国を手にしたも同然なのだ。



 「……今からでも彼等の力を削ぐことは?」



 ハンスは考える間も無く首を振った。


 「奴等の手は王国の深部にまで及んでいる。貴族連中はヘルメースのおかげで多くの富を築き、聖リヴォニア教会も彼等から多額の寄付を受けている。そして王国が魔族との争いで破綻寸前の財政をなんとか維持しているのも……。もう既に私たち西方の領主が声を上げた所でどうにもならないのだ」


 「――なら、そのまま放っておけばいいんじゃない?」


 頭の上で退屈そうに寝そべっていたユシルは俺の肩に飛び降りると大きな欠伸をした。


 「ヘルメースが無くなったらみんな困るんだしそれじゃダメなわけ?」


 「国とはその地に住まう全ての民を守るために存在するのだ。それは決して金の為ではない。だが、民を守る王国が規律を失い利己に走れば国はいつか必ず滅ぶ」


 「ふーん。そういうもんかしらね」


 「各地に燻ぶる火種が王国全土に広がる前に何としてでも止めなければならない。――大火になる前に、今ならまだ小さな火傷で済むはずだ」


 「間違って大やけどしなきゃいいけど」


 「そうならない為にも、ラック公。貴公の力を借りたいのだ」




 翌朝、ハンス公爵の一団はノルバラント要塞を離れると海洋都市エルドルンへ向けて出発した。



 「よし、それじゃ俺たちも出発するか」



 遠くから彼等の出発を見届けた俺たちは急いで魔導帆船に乗り込むと、再び渓流を使い一路海洋都市を目指す。


 「あの人、本当に信用出来るんやろか」


 

 「ハンス公なら信用出来ると思う。ヘルメースを何とかしたいというのも本当だろうしな」


 「……ならええんやけど。まっ、あたしにとっちゃリヒテンシュタインの領主様が自ら動いてくれるなんて願ったり叶ったりやけどな」


 リッツァは窓の外に目をやりボソッと呟いた。




 「――さっき私はヘルメースを一掃すると言ったが、なにもギルドそのものを解体しようとは考えていない」


 ハンスは一旦俺たちを見やると一人頷き話始めた。


 「そこの可愛らしいお嬢ちゃんが指摘した通り、経済の根幹を担うヘルメースが無くなれば西方地域だけでなく王国全土が大混乱に陥る。もしそんなことになれば混迷した経済を立て直すのに数年、いや十数年を要するだろう」


 「それじゃ、どうするつもりなんや?」


 それまで黙って聞いていた話をリッツァは先の見えないない様に思わず口を挟んだ。


 「ヘルメース内部に巣くう病魔を取り除く」


 「病魔?」


 「ヘルメースのギルド長“ロイヴァ・カフカ”、そして各都市を治める幹部を退陣に追い込み一時的に私がギルドを管理する」


 「なるほど。確かにそれは名案や。けど、問題はどうやってその連中を吊し上げるかや。こう言っちゃ悪いけどあんたら今まで何一つ証拠を掴めへんかったんやろ?」


 「恥ずかしい限りだがな。だが、今回は数十人規模の内偵を忍ばせ、奴等の幹部の一人とも内通している」


 「幹部と!?」


 「そうだ。私はとある幹部と取引をし密約を交わした。取引の内容はここでは言えないが、今の所、奴の情報は信用に値する」


 「それじゃその情報を元にヘルメースを取り締まれば……」


 「きっとロイヴァ・カフカを追い詰めることが出来るだろう」


 「けど――」


 何か引っかかるのかリッツァは耳の後ろを掻きながら暫く考え込んでいた。


 「ロイヴァ・カフカは自分が目を付けられていることを承知しているはずや」


 「だろうな」


 「それを知ったうえであいつはハンス公爵を海洋都市に招待してる」


 「……つまりそれでも尻尾を掴ませない自信が奴にはあるという事か」


 「もちろんそれは私も承知している」


 ハンスは俺を見ながら笑みを浮かべた。


 「だからラック公、貴公に協力を頼みたいのだ。恐らく私はオークション開催中、常に奴等の監視下に置かれるだろう。内偵もバレ、幹部とのやり取りも筒抜けなのかもしれない」


 「はぁ? それってもう失敗してるって言ってるようなものじゃない」


 ユシルの言葉にハンスは素直に同意する。


 「そうかもな。だが、ロイヴァ・カフカにも想定外なことはある」


 「……なるほど。それがオルメヴィーラ領の領主か」


 「そういう事だ」


 「それじゃまるであんた自身も囮みたいね」


 「ははっ! これで王国が救われるなら囮くらい安い役回りだ。――どうだろうか、ラック公。一つ、この私に協力しては貰えないだろうか――」




 ハンス公を乗せた馬車は既にはるか後方。


 流れに乗った魔導帆船は一団を一気に引き離しリヴィエル川を下っていく。



 「結局あんた、あの公爵の手伝いをする事にしたわけね。まったくお人好しなんだから」


 「ヘルメースを放っておけば近い将来東方のオルメヴィーラにも関わってくるからな。悪い芽は早く積んでおいた方が良いだろ? それにハンス公と手を組んでいた方が色々と都合良さそうだしな」


 「ラックはん、あんた案外商人に向いてるかもね」


 「商人か。確かに少し興味はあるな」


 「パパ、領主辞めて商人になるの?」


 真面目な顔でそう尋ねてきたヴェルを俺は笑顔で否定した。


 「ははっ! ならない、ならないさ。俺には到底務まらないよ。クロマ達商人を見ていて本当にそう思う」


 「そうなの? ヴェルにはよく分からないけどパパなら何でもきっと出来そうな気がする」


 「俺はそれほど器用じゃないさ。さっ、そろそろ海洋都市エルドルンに着くぞ」


 

 大量の積み荷を降ろすのに時間が掛かってるのか、幾つもの船が川で入港待ちをしている。


 俺たちは魔導帆船を陸に上げると再び街道へと戻る




 ――海洋都市エルドルン



 広大な海を背景に赤いレンガ造りの街並みが俺たちの目の前に広がっていた。







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