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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

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竜の刀剣ー7






 着水と同時に強い衝撃に襲われ船内にあった機材や荷物は辺りに散乱していた。


 一旦水中に沈み込んだ船首は水飛沫を上げながら水面へと浮き上がり、船体は沈む事無くリヴィエル川を下っていく。


 揺れも収まり恐る恐る眼を開けたリッツァは自分の置かれた状況を確認すべく窓枠に手をかけ覗き込んだ。



 「……う、浮いてる?」


 「だから大丈夫だって言っただろ? この魔導帆船は初めから水陸両用として設計されてるんだ」」


 「水陸両用? そんな乗り物、あたし初めて聞いた」


 「実は俺も実際に試してみるのはこれが初めてなんだけどな」


 「え!? う、嘘でしょ!? こ、これ、沈んだりしないわよね!?」 


 「多分な」


 「なによ、多分て!」


 「大丈夫、大丈夫。数時間程度だったら浸水はしないだろうってノジカも言ってたし」


 「それ当てになるわけ!?」


 「おそらくな。まっ、ダメだったら陸に上がればいいんだし、それ程心配する事じゃないさ」


 「あんた、どれだけお気楽なのよ」


 「楽観的、積極的と言って欲しいね」



 俺は船体が倒れぬよう帆を操作し慎重に舵を切る。


 あくまで陸上をメインに造られている為、どうしても水上では安定性には欠けており、海などの波がある場所では、きっと直ぐさま転覆してしまう。


 今後、水上運用を考えるのであればこの辺は改良していかなければならないだろう。


 支流点に近づくと俺はバランスを崩さぬようゆっくりゆっくり舵を右に切り、川の流れに逆らうよう船体を反転させていく。


 リヴィエル川は傾斜がとても緩やかで川の流れも遅いため、この魔導帆船の出力を全開にしなくても十分遡上することが出来る。


 時折、船では通れない浅瀬も見受けられるが、車輪のおかげで船底は傷付くことは無くこの陸上運用できる帆船ではさしたる問題にはならなかった。



 街道の混雑を尻目にハンス公のいるノルバラントへ向け俺たちを乗せた魔導帆船は順調に突き進んでいた。


 晴天にも見舞われユシルは一人甲板にシートを広げ日向ぼっこ。


 リッツァは魔導帆船の操作に興味があったのか、俺に手ほどきを乞うと数分もしないうちに一人で船を操っていた。



 街道に沿って流れる支流を遡上すること数刻、気が付けばエルドルンに続く渋滞は消え失せ、高く昇っていた太陽もすっかり傾きつつあった。




 ハンス公爵の屋敷があるノルバラントは海洋都市エルドルンに次ぐ第二の都市で、エルドルンが海洋都市と呼ばれるようになるまでリヒテンシュタイン領最大の都市であった。


 今でこそ第二の都市などと言われるようになってしまったが地政学的に見ても、かつて魔族が大群をなし押し寄せてきた際、ノルバラントが最前線の砦となって王国を守ってきた歴史があり、拠点としての重要性は今も変わっていない。


 今現在北方のヴォルテール領が前線を維持しているが、もし万が一前線が破られれば再びノルバラントが戦禍の中心となる可能性は高いだろう。



 そんな危険と隣り合わせのノルバラントだが、ここ暫く魔族の進軍を許していないせいか街の雰囲気は至って穏やかだ。


 街を歩けば子供たちは楽しそうに辺りを駆け回り、陽気な音色を奏でる楽師と踊り子が通りを歩くお客相手に日銭を稼いでいる。




 そんな長閑な街並みも眼前の城壁を越えれば全てが一変する。



 戦禍の傷跡が未だ生々しく残ったノルバラント要塞。



 俺たちは魔導帆船を降りると街を見守るようにそびえ立つ城門をくぐり立ち止まった。








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