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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

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竜の刀剣ー3




 俺たちが案内されたのは店内奥の十名ほどが座れる大きなテーブル。


 既に席には中年男性二人と四人グループの男女が座っており、彼等は料理に舌鼓を打ちながら世間話に花を咲かせていた。


 「――ねぇ、ラック、私はコレと、コレと、コレね。あっ! あとコレも食べてみたいんですけど」


 席に着くなり頭の上から飛び降りたユシルは我先にとメニューを指さし料理を選んでいく。


 「リッツァはお酒飲むのか?」


 「あたし? あたしは滅多に飲まへんな」


 「そうなのか? でも飲めないってわけじゃないんだろ?」


 「うん。まぁ、けど今日は止しておく」


 「なに、リッツァ、あんた遠慮しているわけ? どうせこいつが払うんだから気にせず好きに飲めばいいのに」


 「ユシル、お前な」


 「別に遠慮してるんやない。……ただちょっとお酒を飲むと記憶がなくなって気が付いたらいつも、その、全裸で寝てるんよ」


 「ぜ、全裸?」


 「……そや」



 お酒を飲むといつもとは違った一面を見せる人は多い。


 陽気になったり、泣き出したり、暴れたり。


 どうやらリッツァは無意識に服を脱ぎだしてしまうらしい。


 俺の友人にも同じような奴がいたが、確かにあの時は大変だった。

 


 「いいじゃない別に。裸になるくらい。どうせ見られたって減るもんじゃないし。ねぇ、ラック」


 「俺に同意を求めるな! ユシル、本人が飲まないって言ってるんだから無理強いするな」


 「なによ、ラック、あんた善人ぶっちゃって。無料でリッツァの裸が拝めるのよ? あんたも見たいと思わないわけ?」


 「え!?」



 一瞬、目が合ったリッツァは得も言われぬ形相でこちらを見ている。 



 「見たいわけあるか! ユシル、お前のその親父的な思考、段々ドワ娘に似てきたな」


 「ち、ちょっとそれ凄く心外なんですけど! それはそうとラック、あんた、そんなに強く否定しなくてもいいんじゃない? それじゃまるでリッツァに女の魅力がないみたいじゃない」


 「誰もそんな事言ってないだろうが!」


 「じゃ、少しはリッツァの裸、見て見たいって気持ちがあるわけ?」


 俺が彼女に視線をやるとなぜかリッツァは両手で服の胸元を抑えた。


 「そ、それはだな、……ま、全く見たくないと言ったら、その、嘘になるがー ―」


 「そりゃそうよね。だってリッツァこんなに可愛いんだもの。そう。良かったわね、リッツァ。この変態、あなたの裸見てみたいんだって」


 「え!? ち、違う! 違うぞ、リッツァ、そう言う意味じゃ――!」


 俺が慌てて言い訳しようとすると隣に座っていたはずのリッツァはいつの間にか向かい側のヴェルの隣に移動していた。



 ジト目で俺を見るリッツァ。


 それを見てユシルは一人爆笑していた。





「――エールとサワー、それからシトラスティーを二つね。あとオナガドリの岩塩焼おまちどうさま」


店内は満席だと言うのに注文してものの数分でドリンクと料理が運ばれてきた。


頭が付いたまま直火で焼かれた鳥は皿の上で骨ごとぶつ切りにされ並べられている。


表面の皮は僅かに焦げているがカリっと焼かれ、切り口からは肉汁があふれ出している。


「これ、このまま食べてもいいけどそこのスパイスをかけてライムを絞ると更に美味しいよ。骨はこの容器に捨ててくださいね。それじゃごゆっくりどうぞ」


 店員の女性は小さめの壺をテーブルの端に置くと誰にもぶつからず器用に厨房へと戻っていく。


 店名の渡り鳥というのがどうやらこの料理に使われているオナガドリであるらしい。


 たしか店先にも毛の毟られた鳥が何羽もぶら下がっていた。



 俺は軽く手を合わせつつ早速骨付きどりに手を伸ばす。


 周りのテーブルを見回せば例外なくゴミ捨て用の壺が置いてあり、これがこの店人気№1料理であることは明白だった。


 味付けはシンプルに岩塩のみ。


 渡り鳥というだけあって肉質はすこし硬めで筋肉質だが身がしまっているおかげかとても濃い味をしている。


 一口頬張れば香ばしい香りと塩気のある肉汁が口いっぱいに広がり、驚くほど酒が良く進む。


 骨に近いほど肉の味が濃く、みな人目も気にせずしゃぶりつく。


 あっという間に一切れ食べ終わると、今度はライムを絞り数種類あるスパイスの中から辛みのあるものを選び振りかける。


 これだけスパイスが揃っていれば途中で食べ飽きることはまずないだろう。


 素材が良いからこそ出来る絶品料理にユシルさえ黙々と喰らいつき、気が付けば目の前の皿は空っぽになっていた。









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