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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十四章

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竜の刀剣ー2




 「――武器はここにあるので全部なのか?」


 閑古鳥が鳴く店内。


 椅子に腰かけ暇そうに欠伸をする店主は客に売り込もうとする素振りさえ見せずただ煙草をふかしている。


 「ん? ああ、そうさ。なんだ、にいちゃん、何か探しものか?」


 俺は手に持っていた剣を鞘に収めると値段も見ずにそのまま棚に戻した。


 「年代物の刀剣を探してるんだ」


 「あ? なんだそりゃ? 年代物の刀剣? そんな物、この店にはねえよ。ここにあるのは全部新品だけだぜ」


 「そうみたいだな」


 埃を被ってはいてもどの剣も刀身に傷一つ見当たらない。


 「そもそも中古品なんてものはどこかしらにガタがキテることが多い。わざわざ打ち直してもう一度店頭に並べるなんてことは滅多にしねぇよ。自分の命を預ける剣だ、そんなものを誰が好き好んで買う? 大抵は次の武器の材料になってそれで終いさ」


 確かに武器は安いものではないが、余程金がない限り中古品を買うことは無い。


 中古品がもしあったとしてもそれは持ち主が使用する前に死んでしまった場合が多く、戦場に出る者にとっては縁起がいいとは言えない。


 「俺が探しているのは中古品というより骨董品なんだ」


 「骨董品? なんだ武器でも飾るのか? まるで貴族の道楽だな」


 「まっ、そんな所さ。それでこの辺りにそういった類のものを扱う店はないのか?」


 「……さぁ、そんな店聞いた事もねぇな。そもそも俺たちが売っている商品は全部“ヘルメース”から仕入れているもんだからよ。」

 

 「そうか」


 「大元締めに行けば何か掘り出し物もあるかもしれねぇが、俺たち一般人には無縁の場所さ」


 「わかった。ありがとう」


 やはり何とかして“ヘルメース”に接触する必要がありそうだな。


 「あっ、そういや――」


 店主は何かを思い出したかのように店の奥に引っ込むと、くしゃくしゃになった紙屑を俺に投げてよこした。



 「ヘルメース主催のオークション?」


 広げた紙にはそうでかでかと書かれていた。


 「ああ、なんでも来月リヒテンシュタイン領のエルドルンでヘルメース主催のオークションが開かれるらしいぜ。ヘルメースが世界各地から集めた希少なお宝も出品されるって話だ」

 

  希少なお宝か。


「あのヘルメースが周辺領地で大々的に宣伝しているくらいだ。そこでならあんたが探してる一品ももしかしたら手に入るかもしれねぇぜ」




 思わぬ情報を手に入れた俺たちは店主に煙草代を手渡すとそのまま店を後にした。



 その後、何件か店を回り店主に話を聞いたがそれ以上有益な情報を得ることは出来なかった。



 日も暮れ始め仕方なく一旦情報収集を諦めた俺たちはヴェストリスの中心にある食堂兼居酒屋で夕食を取ることにした。



 ――店の名は“渡り鳥の止り木亭”



 夕飯時ともあってどの店も混雑していたがこの辺では特にこの店が一番繁盛している。


 店内は思ったよりも広く、料理の味も上々、さらに値段も安いとなれば人気が出るのも当然だろう。


 勿論この店にもヘルメースのタペストリーがちゃんと飾られている。



 「――お客さん、三人かい? 相席ならすぐ座れるけど、どうする?」



 店先で呼び込みをしていた店員は俺と目が合うなり店内を確認し声を掛けてきた。


 「リッツァ、ヴェル、相席でも構わないか?」


 「あたしは別にかまへんよ。待ってる時間も勿体しね」


 「私もパパと一緒なら」


 「わかった。それじゃ案内頼むよ」


 「ありがとうございます! 店長! 追加、三名様ご案内っ!」

 

 「了解! いらっしゃいませ! お客様! 止り木亭へようこそ!!!」


 「では、どうぞこちらに」


 案内され混みあう店内を縫うように進んでいくと威勢の良い掛け声が俺たちを出迎える。


 席に着くなり隣のテーブルに配膳していた少女は俺の顔をちらっと見るとすかさずメニューを取り出し笑みを浮かべた。


 「――いらっしゃい! お客さん、この店初めてでしょ?」


 「そうだけど、わかるのか?」


 「あたし、一度見たお客さんの顔は忘れないんだ」


 「へぇ、そりゃすごいな」


 「ちょっと騒がしいけど料理もお酒も美味しいからゆっくりしていってね。あっ、今日のおすすめはコレとコレとコレね。注文が決まったら呼んでください!」


 





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