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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十三章

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無詠唱魔法編ー18

 




 翌朝、身支度を終え屋敷を出た俺たちは門前に止めてあった魔導帆船に荷物を詰め込むと、丁度時を同じくしてリッツァが姿を現した。


 「――ラックはん、おはようーさん!」


 近所に響き渡るような元気な声に二日酔いのドワ娘は思わず耳を塞ぐ。


 「おはよう、リッツァ。今日も朝から元気だな」


 「当たり前やん。活力は商売の源や。陰気な顔して俯いとったら目の前の商機も運気も逃してまう」


 「そういうものか?」


 「そういうもんや」


 そう言って巨大なリュックを荷台に乗せるとリッツァは我先にと帆船の先頭に乗り込んだ。


 「まったくもって朝からうるさい奴じゃ。西方の商人というのはみんなあんなに騒がしいのかの?」


 「さぁ、どうだろうな。でも、明るく元気なのは悪いことじゃないと思うぞ」


 「そりゃそうじゃが、ものには限度というものあるじゃろ? 昨晩なぞ、あやつ息を吸うのも忘れて一人で喋っておったぞ」


 「リッツァさんも“ものには限度がある”なんてあなたにだけは言われてくないと思いますが」


 「なんじゃと! それはどういう意味じゃ!」


 「文字通りの意味ですよ。――そんなことよりも、ラック様、向こうでキシリア様に会いましたらこの手紙をお渡し願えますか?」



 ラフィテアがしたためた手のひらサイズの手紙を受け取ると俺は無くさぬよう大切に仕舞い込んだ。


 「そのキシリアって誰だったっけ?」


 「リヒテンシュタインのヴェーダ家に嫁いだジョワロフ公の長女だよ。ユシル、お前も昨日の話聞いてただろ?」


 「そう言えばそんな話してたわね。私には関係ないから忘れちゃった」

 

 「関係ないことにだろ」


 「関係ないわよ。私はこれからバカンスに行くの! 海洋都市でバカンスよ!」


 「パパ、バカンスって何? ヴェル達、刀剣を探しに行くんじゃないの?」



 目を覚めてから以前にも増して俺の傍から離れなくなったヴェルが不思議そうに首を傾けた。



 「ヴェル、この頭が馬鹿ンスな奴のことは気にするな。俺たちはヴェルの言う通り刀剣を探しに行くんだ」


 「あんた、いま、世界樹の精霊であるこの私を馬鹿呼ばわりしたわね!」


 「するわけないだろ。お前の聞き間違えだよ。さっ、馬鹿話してないでそろそろ出発するぞ」


 「あっ、また馬鹿って言ったでしょ!」


 「はい、はい」


 

 騒ぐユシルを無視し魔導帆船に乗り込むと俺は刻印が刻まれた魔晶石をセットする。



 「――ラフィテア、俺も出来る限り連絡は取り合うつもりだが、何か問題があった場合は昨晩の打ち合わせ通り行動してくれ」


 「はい、かしこまりました。ラック様、どうかくれぐれもお気をつけて」


 「二人もな」


 「ラフィ、安心して。パパはヴェルが守るから」


 「そうね。ヴェルがいれば安心ですね」


 「うん!」


 魔晶石から噴き出した風が船体を包み、帆が大きく靡く。


「それじゃ、行ってくる」


「ふん!」


 不貞腐れ顔を背けたドワ娘だったが、俺を見て何か言いたげに手を伸ばす。


 ハンドルを握り、ブレーキを解除すると魔導帆船は徐々にスピードを上げ、気が付けば二人の姿はもう見えなくなっていた。







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