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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十三章

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無詠唱魔法編ー14







 ――その日の夜、魔法研究所から帰宅したドワ娘はひどく疲れた様子で言葉少なに夕飯を食べ終えると、そのままテーブルに突っ伏しぐったりしていた。



 「ラフィテア、ドワ娘の奴一体どうしたんだ?」


 「あぁ、きっと魔力の使い過ぎで疲弊したんだと思います」


 「魔力の使い過ぎ?」


 食後のデザートを堪能していたラフィテアは最後の一欠けを食べ終えると満足そうに箸を置いた。


 「えぇ。今日は昨日会えなかった研究員の方たちと顔合わせをして、それから午前中これまでの研究結果を基に“無詠唱魔法の運用に関する問題点”を再度全員で共有したのですが――」



 ――ガタンっ!



 話の腰を折るかのように突然椅子が倒れたかと思うと、凄い形相のドワ娘がいきなりラフィテアに詰め寄ってきた。



 「その後、この頭のおかしいエルフがもう一度一から全部検証し直そうなどと言い出したんじゃ!」


 「おかしい? 研究が行き詰っているのだから当然のことだと思いますが?」


 「これまであやつらが数年かけてやってきたものを全部検証し直すんじゃぞ? どれだけの時間と労力がかかると思っておるのじゃ!?」


 「その労力を考慮してもやる価値があると私は思っています。ほんの小さな見落としでも解決の糸口に繋がる事もありますから」


 「……それは確かにな」


 「研究とはあなたが思っている以上に地道で大変なもの。それが誰も成したことのない難題なら尚更です。それくらいあなたも分かっていたでしょう?」


 「ぐぬぬぬ! ふんっ! もういい! 疲れたからわらわはもう寝る!」



 余程イライラしていたのかドワ娘は残っていた酒を一気に流し込むとラフィテアを睨め付けながら舌を出しそのまま部屋を後にした。



 「あいつ、なんであんなにご機嫌斜めなんだ?」


 「膨大な魔鉱石を前に午後からずっとひとりで解析に当たっていましたから」


 「だからってあれはな」


 「魔鉱石の解析には非常に繊細な魔力操作が求められます。描かれた魔法陣にゆっくりと魔素を流し込み一つずつ動作を確認する。神経をすり減らすとても大変な作業です。それを一からすべてやれと言われたら私でも文句の一つも言いたくなります」


 「それでもやる必要があったんだな」


 「はい。おそらく無詠唱魔法のカギは魔鉱石が握っています。魔鉱石には未だ私たちの知らない未知の特性がある。そしてそれがきっと今の私たちが求めている最後のピース」


 「だったら魔鉱石の解析にもっと人員を割いて、ドワ娘の負担を減らしてやればいいんじゃないんか?」

 

 「そうしたいのは山々ですが残念ながら彼女ほど魔力操作に優れた人物はいません」


 「そうなのか?」


 「えぇ。不慣れな今でさえ専任の研究員の数倍の速さで解析を進めています。それに彼女の得意魔法が土属性なのも大きいのです」


 「なるほどね」



 あいつもあいつなりに結構頑張っているんだな。



 「なぁ、ラフィテア。その話、ドワ娘にしてみたらいいんじゃないのか?」


 「どうしてですか?」


 「どうしてってそりゃ――」



 人に認められ、期待されて悪い気分になる奴なんていないからだよ。


 

 そうラフィテアに伝えようと思ったが、俺は彼女の気配に気づきそのまま口を閉じた。


 

 

 




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