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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十三章

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無詠唱魔法編ー9






 これは後からラフィテアに聞いた話なのだがジョワロフ公の長女キシリアはなかなかに男勝りの性格をしていたようだ。


 キシリアにとって同年代の学友と恋の話をするよりも一人剣を振るい、兄と一緒に馬に乗るのが何よりの楽しみで、休日には兵士に交じって戦闘訓練にも欠かさず参加していた。


 そんな彼女にとってもっとも煩わしかったのが貴族の宿命たる縁談。


 色恋沙汰に全く興味のなかったキシリアは両親の進める縁談をことごとく断り続け、二人のしつこさに家を飛び出すこと数知れず。


 友達や兄の家を転々とし、両親が根負けすると悪びれる様子もなくひょっこり家に帰ってきた。


 そんな彼女が年貢を納め結婚したと聞いたのだからラフィテアが驚くのも無理はないだろう。




 「――リヒテンシュタイン!?」



 キシリアの嫁ぎ先を聞いた刹那、俺とラフィテアは思わず顔を見合わせた。



 「えぇ、そうだけど。リヒテンシュタインがどうかしたのかしら?」


 「いえ、実はジョワロフ公に折り入って伺いたい事がありまして」


 「わしに聞きたいこととな?」


 「……はい」



 首を傾げるジョワロフに俺が周りの視線を気にしつつ黙って頷くと古老は何かを察し使用人を呼びつけ人払いをした。



 「それでこのわしに何が聞きたいというのかな」


 「ジョワロフ公は商業ギルド“ヘルメース”をご存じですか?」


 「……ヘルメースか。もちろん知っておる。西方の貴族で彼らの名を知らないものはいないからな。それでその”ヘルメース”がどうかしたのか?」



 古老の鋭い眼光。


 俺がヘルメースの名を口にした途端、ジョワロフの声のトーンが一つ下がっていた。



 「実は俺たち無詠唱魔法の件とは別にとある刀剣を探しにこの地にやって来たのです」


 「……刀剣とな?」



 俺はヴェルに関する話は避けつつも赤竜帝に聞いた神々の戦い、そして魔王について掻い摘んでジョワロフに語った。


 黙って話を聞いていたジョワロフはおもむろにパイプに火をつけるとゆっくり灰に煙を送り込んでいた。



 「……神々の争い、魂の残滓、そして魔王の誕生。どれも信じがたい話ではある。だが。わざわざおぬしがそんな法螺話を作って語るとも思えん」


 「ジョワロフ様、今の話、実際の所何が本当で何が真実なのか、正直私たちも分かりません。ですが竜の聖地で私たちが体験したこと、赤竜帝が語ったことが本当なら到底無視できるもではありません」


 「確かにそうだな。日に日に魔族の脅威が増している今日、今の話が本当ならわしらが魔王を倒すにはその“竜の刀剣”が必要不可欠」


 「竜の刀剣は古の魔王との戦いで力を失い今は深い眠りにつき目覚めの時を待っているとの話です」


 「その刀剣が商業ギルド“ヘルメース”にあると?」


 「いえ、それについてはまだわかりません。ですが世界中のありとあらゆる武器を収集し、王国に卸している巨大ギルドなら何らかの手掛かりを持っていてもおかしくはありません」


 「確かに。あそこなら使い古された骨董品からドワーフが手掛けた名刀まで大概のものは手に入る。……だが、よりによって“ヘルメース”か」



 渋い顔をしたジョワロフは溜息をつくように白い煙を吐き出した。



 「お前たちも知ってるとは思うがここ最近あまり良い噂を聞かないのだ。西方の貴族の大半が金で買収され、王国内部にさえ手が回っておる。貴族の後ろ盾をいいことに人身売買や麻薬の密売にまで手を出し、あまつさえ魔族と繋がっているという噂まである」


 「魔族!?」


 「そうだ。このバラマールは“ヘルメース”の影響は然程ないが、リヒテンシュタイン、クレモント、グロスターの三領は水面下で奴等の動向を探っていると聞く。……噂はどうあれ厄介な連中なのは間違いない」


 魔族か。


 その話が本当だとすると下手に刀剣の話をするのは得策じゃない。


 だが、なら一体どうやって刀剣を探せばいい?



 「ジョワロフ様、どうにかして“ヘルメース”と接触できないでしょうか?」


 ジョワロフは申し訳なさそうに首を横に振った。


 「残念だがこればかりはお前たちの力になれそうもない。良からぬ噂を耳にし始めてからわしは出来る限り奴等と距離を取ってきたからな」


 「……そうですか」


 「でしたらあなた、キシリアに頼んでみるのはいかがです?」


 それまで口を挟まず黙って話を聞いていたマリアナがそっとジョワロフに助け舟を出した。


 「キシリア様に、ですか?」


 「そう。あの子の嫁ぎ先は商売で成り上がった貴族の家なの。だからきっとギルドとも繋がりもあると思うわ」


 「その話本当ですか!?」


 「えぇ、本当よ。あなたはどう思う?」


 「うむ。……キシリアか」


 「なにか心配事でも?」


 「いや、なにキシリアに助力を求めることについては異論はない。……だが、あのヴェータ家の者たちが“ヘルメース”に取り込まれていないという保証はどこにもない」


 「それは、そうですけど」


 「キシリアを信じたい気持ちもわかるが“ヘルメース”はそれ程影響力があるギルドなのだ。――ラック公たちのことについてはわしの方からキシリアに伝えておこう。だが、目的や詳細については一旦伏せておいた方が良いだろう」


 「ありがとうございます、ジョワロフ公」


 「なに、構わぬさ。それよりもラック公よ、ハンス公にリヒテンシュタインへの来訪は知らせてあるのか?」


 「いえ、これからです」


 「それならばついでにリヒテンシュタインにも書状を送っておこう」


 「よろしいのですか?」


 「わしも“ヘルメース”については憂慮しておったからな。ラック公が自ら動いてくれるならば心強い。それでリヒテンシュタイン領にはいつ頃向かうつもりなのだ?」


 「出来れば数日の内に」


 「そうか。では早急に手はずを整えるとしよう」



 手を鳴らし再び使用人を呼び戻したジョワロフは彼等に何事かを命じ走らせた。


 それから一時間ほど続いた会食もようやくお開きとなり俺とラフィテアは再度ジョワロフ公に謝意を述べ屋敷を後にした。






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