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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十三章

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無詠唱魔法編ー6





 魔法研究所の地下は俺たちが想像していた以上に広く深い。



 敷地の半分ほどもあろうかという巨大な空間。


 地下一階、二階と下っていき最下層の三階に辿り着くとイクスは足を止め魔方陣の描かれた石壁にそっと手を触れた。



 魔法陣から手を放し彼女がおずおず振り返ると背後の壁面にバラマール領の紋章が淡く浮かび上がり不意に研究室へと続く扉が現れた。



 「み、皆さん、どうぞこちらに」



 イクスが研究室に足を踏み入れると一斉に明りが灯り、淀んだ空気が部屋の外へと流れていく。


 いかにも研究室といった部屋で巨大な黒板には描きかけの魔法陣。


 年季の入った分厚い本や彼女が殴り書きしたであろうメモ書きがテーブルに散らばっている。


 最下層は無詠唱魔法の研究のみに割り当てられているようでこの部屋には魔鉱石の加工場や試験室、はたまた台所や仮眠室なども備え付けられていた。



 「す、すみません、散らかっていて。いま、片付けますので――」


 「よい。それよりもイクス、他の者達はどうした? ……皆の姿が見えないようだが?」


 ジョワロフが部屋を見渡すが研究室に俺たち以外の姿は見当たらない、


 「あっ、はい。今日は、その、皆、お休みで。……最近研究が行き詰っていて偶には気晴らしをしようって」


 「そうか。……他の研究員もラック公に紹介しておきたかったのだがな」


 「無詠唱魔法の研究にはどれくらいの人数が携わっているのですか?」


 「え、えっと、その、わ、私以外の主要研究員は3名です。そ、それ以外には実証実験で数名にお手伝い頂いています」


 「たったの4人じゃと!? ……という事はわらわ達を含めても6人しかおらんではないか」


 「こういうのは頭数が多ければいいってもんでもないからな」


 「いわゆる少数精鋭ってやつね」


 「なにが少数精鋭じゃ。これではまるで隅に追いやられたお荷物部門ではないか」



 ドワ娘は床に散らばった資料を拾い上げるとこれから始まるであろう前途多難な毎日にがっくり肩を落とした。




 俺たちがテーブルに着くと主任研究員のイクスは緊張した面持ちで手元の資料を読み上げていく。


 

 「――わ、私たちが研究している無詠唱魔法は魔鉱石ヴェンダーナイトを媒体として利用するものです。


 本来、魔法は詠唱することで魔方陣を構築し超自然的な力を行使するものですが、魔鉱石に魔方陣を記憶させることで詠唱そのものを省略し、即座に魔法を行使することが出来るようになります」



 噛まずに読み上げたイクスは息継ぎせず顔を真っ赤にしていた。


 彼女の説明を聞きながら俺たちも資料に目を通したが、イクスの話は以前ジョワロフ公から聞いたものと大差なかった。


 今まで俺たちが魔鉱石を使用してきたのとは全く違う用途であり、魔方陣を記憶させ何時でも使用可能となれば戦略の幅は一気に広がる。



 だが、領主対抗戦以降、未だに課題は解決されていないという。



 「――つまり欠陥品というわけじゃな」


 説明を一通り聞いたドワ娘は資料を放るとテーブルに片肘をついた。


 「おい、ドワ娘!」


 「だってそうじゃろ? 1種類しか魔方陣を記憶できず使ったら消えてしまう。これを欠陥品と言わずして何と言う? 確かに切り札としては使えるかもしれんがあまりに汎用性が無さすぎる」


 「だからって言い方ってものが――」


 「い、いいんです。ほ、本当の事ですから。これが今の私たちですから……」



 ドワ娘の忌憚のない意見にイクスは俯くと垂れた前髪が彼女の表情を覆い隠してしまった。



 「――問題はどうして1種類しか記憶させられないのか。そしてどうして魔法を行使すると魔方陣が消えてしまうのか。その辺りについての今の段階でなにか分かっている事があるなら、あなたの考えを聞かせてもらえないかしら?」


 気落ちしていたイクスにラフィテアが質問すると、彼女は顔を上げ自らを奮い立たせ黒板に手を伸ばした。


 「ど、どうして一つしか記憶させられないのか。そ、それを説明する前に魔鉱石の特性についてせ、説明させてください。私が調べた所によると、ま、魔鉱石は魔素の結晶であり通常内部では核を中心に魔素が周回し続けています。ですが、外部から魔素を供給したところ、いつもとは異なる動きを見せたのです」


 「異なる動き?」


 「はい。外部から侵入してきた魔素対しそれまでずっと同じ軌道を巡っていた魔素はまるで異物を嫌うかのように突如軌道変え周回し始めたのです」


 「それは非常に興味深い結果ですね」


 「私はそれを見て外部から魔素の流れをコントロール出来ないかと考えたのです」


 「……なるほど。つまりそれによって魔鉱石に魔方陣を描き記憶させたのですね」


 「はい! 実験は見事成功し無詠唱魔法も完成間近に思えました。……で、ですが、もう一つ魔方陣を記憶させようとしたところ魔方陣と魔方陣が互いに干渉し魔法自体発動しなくなってしまったんです」 


 「それはなにが原因だったんだ?」


 「……おそらく一筆書きで二つの魔法陣を描こうとしたことが原因だと思います。魔方陣は形、模様、全てに意味があり、始まりと終わりが繋がることで完成します。ですが、魔素によって互いが繋がったことで魔方陣としての形が崩れてしまったのかも……」


 「なんじゃ、原因が分かっているなら2つを切り離せば良いではないか」



 イクスは静かに首を振った。



 「――魔素の流れは川のと同じ。流れを変えることが出来ても途中からその流れを切り離すことは出来ないのです」



 黒板に描かれた2つの魔法陣。


 試行錯誤を繰り返し、解決方法を見出そうとしていたようだが塗りつぶされた魔法陣の痕に彼等の苦悩が見て取れた。










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