無詠唱魔法編ー5
「――ふわぁぁぁぁ。あー、よく寝た! 昨日は流石にちょっと飲みすぎちゃったわね。……って、何かあったの?」
魔法研究所に向かう馬車の車内。
異様な雰囲気に気付いたユシルは俺の髪を伝い恐る恐る顔を覗き込んできた。
「ラック、なにそんな怖い顔しているわけ?」
「俺に聞くなよ」
「何よそれ。随分とご機嫌な斜めね。ははーん、さてはフレデリカ、あんたまた何かやらかしたわね」
「ふんっ!」
ユシルの指摘に図星を指されたドワ娘は唇をすぼめそっぽを向いた。
「なに!? 本当に何かしちゃったわけ? ねぇ、ねぇ、ラック、この娘、何をやらかしたの?」
「俺は知らない。話したくもない」
「何、何、気になるじゃない! ねぇ、教えてよ。ねぇ、ねぇ。ラフィテア、あんたは何か知ってるんでしょ? 教えなさいよ」
「はぁ、実は――」
重苦しい雰囲気の中ラフィテアが口を開くとユシルが腹を抱え転がりながら一人大声で爆笑していた。
「あははっ! マジで!? 超うけるんですけど! フレデリカ、あんた最高ね!」
「何が最高なもんか。最低最悪だろうが! 今回は特別の特別にジョワロフ公が許してくれたけど大貴族相手に下手をしたら極刑だぞ」
「ふんっ! ワザとではないのじゃから仕方ないではないか! あんな大物が奥底に控えておるとは思ってもいなかったんじゃ!」
あの部屋中に広がる酸味と酒の匂い。
魔王を前にした時よりも背筋が凍った。
「いいか、フレデリカ。お前は金輪際、飲酒禁止だ」
「なっ! そんな! ドワーフに酒を飲むな、なんて死ねと言っているようなものじゃ!」
「何を言われようとダメなものはダメだ。また同じようなことがあったらたまったものじゃないからな」
「今回ほんのちょっとばかり飲み過ぎただけじゃというのにあんまりではないか!」
「お前の為を想って言ってるんだぞ!」
「そんな気遣い無用じゃ。この先何があっても酒だけは止めんからの! 酒が飲めないくらいなら死んだ方がましじゃ!」
「お前な!」
「まぁ、まぁ、まぁ、落ち着きなさいよ、二人とも。フレデリカだって反省していないって訳じゃないだろうし、いきなり禁酒は厳しくない? それにダメって言ったって陰でこっそり飲むに決まってるわよ」
「確かにそうですね」
「適度に嗜むのは気晴らしにもいいだろうし、あんたももうちょっと大目に見てあげなさいよ」
「けどな、……わかった、わかったよ。今回だけだぞ。次に同じような事があったら絶対に酒は止めてもらうからな」
「ふんだ!」
「フレデリカ、あんたも程ほどにしておきなさいよ。あたしもあんたと飲めなくなったらつまらないんだから」
ドワ娘の頬を指で突っついたユシルは手を叩き手打ちにした。
「はい、この話はこれでお終い! 最後にフレデリカ、あんた、みんなに何か言う事は?」
「う、うむ。……そ、そのめ、迷惑かけて、わ、悪かったの」
「はい、よく言えました! ラック、あんたもこれでいいわね?」
「仕方ない」
まさかユシルの奴に仲介されるとはな。
今回だけは大目に見てやるか。
「それはそうとあたしたち、どうして馬車に乗ってるわけ?」
馬車の窓に張り付いたユシルは離れていくジョワロフ公の邸宅を遠目に見ている。
俺たちの乗った馬車は前を行くジョワロフ公を追ってメルカルンの街を東へと突き進む。
住宅街を抜け大通りの先、緑生い茂る城塞都市の壁面沿いに目的の場所は存在した。
周囲を頑丈な壁に囲まれたその場所は先程までいたジョワロフ公の屋敷よりも数倍広く研究棟らしき建物も二つある。
時折イクスと同じ制服を着た者が建物に出入りし、隣の広場では魔法の実証実験らしきものも行われていた。
馬車を降りた俺たちはイクスから入室許可証を受け取ると地下へと続く研究棟の階段を一歩一歩降りて行った。
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