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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー72




 「――やったのか?」


 

 皆が見守る中、高熱を帯びた溶岩が魔王を捕らえると大量の水蒸気を放出しながら急速に固まっていく。


 ドーム状の石牢に閉じ込められた魔王は触手を放ち何度もくびきを破壊しようと試みるが、なぜか“巨石の牢獄”を突破することは出来ず、鋼鉄すらいとも簡単に切断してしまうチャクラムでさえ石牢の前では無意味だった。



 「“巨石の牢獄”を只の封印だと思ってもらっては困るの。この牢獄は強い力が加わると一瞬だけ粘性の高い溶岩に変化し、そしてすぐさま元の強固な牢に戻る性質がある。つまり物理的な攻撃で破壊することは不可能なのじゃ」



 ――なるほど。


 道理でさっきから奴のチャクラムの攻撃が全く効かないわけだ。


 チャクラムの刃先が石牢に触れた瞬間、強固な牢獄は溶岩に変化し破壊される事なく戦輪を飲み込んでいく。


 そして巨石の牢獄に取り込まれたチャクラムは高熱の溶岩に焼かれ石牢の一部と化していた。




 魔王ケイオスが“巨石の牢獄”に閉じ込められてから数分、身体の自由を奪われ成す術を失った魔王はまるで石像のようにピクリとも動かなくなってしまった。



 「――はぁ、はぁ、はぁ。どうじゃ、赤竜帝! 見ての通りこのわらわが魔王ケイオスを討ち果たしてやったぞ!」

 


 魔素を使い果たし地面に片膝を付いていたドワ娘はふらつきながらも何とか立ちあがると勝どきを上げ赤竜帝に向かって魔杖を振りかざした。



 「約束通りこれでヴェルは返してもらうからの!」


 「忌み子を返すだって?」



 ドワ娘の言葉に赤竜帝は思わず顔をしかめた。



 「何を言っているのさ。いつ僕が君たちとそんな約束をした? それにまだこの試練は終わっちゃいない」


 「なに? 言うに事欠いて試練は終わってないじゃと? 魔王はあの通りわらわが封じた。これ以上おぬしはわらわ達に何を望むのと言うのじゃ!」


 「封じた、ね。もし、それが事実なら僕も認めないわけでもないさ。けど、あれはとてもじゃないが封じた何て言える代物じゃない」


 「な、なんじゃと!?」

 

 「はぁ、そんな事もわからないなんて本当に残念だよ。――あっ、そう言えばさっきの話の続きがまだだったね」



 再び地面に降り立った赤竜帝は憤るドワ娘に目もくれず巨石の牢獄に向かって歩き始めた。

 

 

「――ノルドの眠りから幾年、大地から漏れ出たカオスの瘴気は世界を覆いこの世に“魔”という悪しき存在を産み落としたんだ。


 瘴気から生まれた“魔”は欲望のまま破壊の限りを尽くし、混沌から生まれた絶望が更なる瘴気を呼び寄せた。


 やがて溢れんばかりに膨れ上がったカオスの瘴気は散り散りになった己の魂の残滓さえ取り込み始め、自我の一部を取り戻しこの世に蘇ってしまった。



 ――そう



 それがこの魔王と呼ばれる者の正体なのさ」



 話を終え赤竜帝が巨石の牢獄に触れた瞬間、魔王ケイオスを封じていたはずの石牢は砂上の楼閣のように崩れ去ってしまった。









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