忌まわしき赤竜の姫ー65
「――あれが、赤竜帝」
赤髪の少年が立ち去るや否や、俺たちはまるで腰が抜けた様に地面に膝をついた。
「あのようなものが本当に実在するのですね」
赤竜帝の存在を信じていなかったわけではないのだろうが、実際に彼の者を目の当たりにしたラフィテアは思わず言葉を失っていた。
「……魔族など比ではありませんわ。万が一にも、いえ、天地がひっくり返っても勝てる気がしませんの」
「同感じゃな。あれは間違いなくこの世の頂点。奴に喧嘩を売ろうという方がどうかしておる。魔族がこの地を避けるのも当然じゃな」
両手を付き天井を仰ぎ見たドワ娘は水晶に写った自分の小さな姿に憐憫の嘲笑を浮べていた。
「ラック、あんた本当にこの先に進むわけ?」
「ここまで来たんだ、当然だろ。ユシル、お前にも力を借りるからな」
「やれやれ、仕方ないわね」
「赤竜帝の試練か。試されているようでどうにも気が進まんの」
「それについてはわたしくも同意しますわ。……でも、やるしかありませんの」
「そうじゃな」
お尻に付いた砂を振り払うと、二人は意を決し立ち上がる。
ドワ娘は足元に転がっていた拳くらいの大きさの魔晶石を二つ手に取ると、片方をメリダに投げ渡し、もう片方はそのまま自分の懐に仕舞い込んだ。
「これくらい貰わんと割に合わん。そうじゃろ、メリダ?」
一瞬どうするか迷ったメリダだったがチラッと俺とラフィテアを見たあと、そのまま懐に入れてしまった。
「そ、そうですわよね。きっとこれくらい神様も見逃してくれますわ」
「あーっ! あんたたちだけ狡い! ねぇ、ラック、あたしも一つ欲しいんですけど!」
「ったくしょうがないな」
俺は手ごろなサイズの魔晶石を拾うとユシルに手渡してやった。
「やった! ありがと! 持ち帰ったら後で髪飾りに加工してもらおうっと。フレデリカ、あとで腕の良い職人紹介してちょうだい」
「それくらいお安い御用じゃ」
「ラフィテア、あんたも一つ貰っていきなさいよ」
「……え? あ、いえ、私は結構です」
「なんじゃ、耳長がいらんのなら、わらわが代わりにもう一つ貰っておくかの」
「おい、ドワ娘、そのくらいにしておけよ」
「分かっておる。冗談じゃ、冗談」
そう言いつつ、もう一つ懐に魔晶石を仕舞い込んだのを俺は見逃さなかった。
赤竜帝と直接相対すべく魔晶石の晶洞を抜けた俺たちは彼が指し示した通り道なりに歩みを進めていく。
岩肌剥き出しの洞窟から整然とした石造りのエリアに足を踏み入れ螺旋に続く灰壁の回廊を抜けるとそこには魔方陣の描かれた巨大な壁が道を遮っていた。
「――ラック様、赤竜帝が言っていた“ここに来るよう仕向けたのは僕だからね”という言葉、あれは一体どういう意味なのでしょうか」
これから挑まんとする赤竜帝の試練を前にそれまでずっと沈黙していたラフィテアが疑問を口にした。
「あの言い方はまるでこれまでの全てが赤竜帝によって仕組まれていた。私にはそう聞こえてならなかった」
「確かに。もし赤竜帝の言葉が本当ならヴェルを連れ去った本当の目的は、彼女自身じゃなく俺たちだったってことになる」
「そうですね。……けれど、赤竜帝ほどのものが私たちに用があるとは到底思えません」
「わたくしもそう思いますわ」
「仮に私たちに用があるのだとしてもどうしてこんな回りくどい方法を選んだのか」
「それもそうじゃな。普通に遣いを寄こせば良いものを、何か裏があるとしか思えん」
「そもそもなんだけど一体どこからどこまでが赤竜帝の仕組んだことなわけ?」
「どうじゃろうな。もしかしたらヴェルが山頂から投げ捨てられてたのも初めから――」
「そんな、まさか!?」
「わらわも信じたくはないが、可能性はゼロではあるまい?」
「そう、ですね」
「だとしたら、許せませんわね。それじゃあまりにもヴェルが可哀想すぎますわ」
「どちらにしろ、警戒すべきなのは確かじゃな」
赤竜帝の思惑か。
「ここまで来た以上、俺たちはもう後戻り出来ない」
「ですね。結局のところ、赤竜帝に会って話を聞かなければ何も先には進めない」
「そういうことだ」
覚悟を決め石壁に描かれた転移魔法陣に触れると俺たちの身体は淡い光に包まれ消え去った。
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