忌まわしき赤竜の姫ー61
四枚翼の緑竜に姿を変えたベディーネンは俺たちを背に乗せると大ルアジュカ山脈の尾根を望みながら山頂に向かって飛び立った。
「――ベディーネンって本当に竜族だったんですわね」
服を脱ぎ竜の姿に変身するベディーネンを目の当たりにしたメリダは彼女の背に掴まりながら自分を納得させるようにそう呟いた。
「今更何を言ってるんだい。そんなの当たり前だろ? 一体あんたはあたしを何だと思っていたのさ」
「そ、それは勿論竜族だと思っていましたけど、こうして実際に見るまでは何と言うか、あまり現実味がなくて」
「そんなもんかね」
「わらわも正直、今の姿を見るまではベディーネンが本当に竜族かずっと疑っておったぞ」
「そうなのかい!?」
「そりゃそうじゃろ。おぬしはわらわが伝え聞く竜族の話とはまるで正反対じゃったからの」
「あたしら一体どんな風に思われてるのさ!? ……けど、それも仕方ないことか。竜族と外界との交流なんて殆どないに等しいからね。――おっと、そろそろ目的地に到着するよ」
翼を羽ばたかせ更に上空へと舞い上がると目の前には山脈の頂が顔を覗かせる。
「あの山頂に赤竜帝が?」
「え? あぁ、違う、違う。赤竜帝様がいらっしゃるのはもっと上の方さね」
「もっと上?」
首を傾げたラフィテアはベディーネンの視線の先に目をやるがそこにはただ空が広がっているだけ。
「……何もないではないか。さては、とうとうボケたな」
「失礼だね、まったく。あんたたちの目じゃ見えないだけだよ。ほら、いま空の境界線を越えるよ。しっかり掴まっておいで!」
「ち、ちょっと待って――」
ベディーネンは俺たちの返事も待たずに身体を傾けると空に向かって急上昇していく。
山頂を越え、宇宙に飛び出してしまいそうな勢いで飛翔するベディーネンに俺たちは目を瞑り必死に身体にしがみついた。
「べ、ベディーネン!」
いつまで続くとも知れない重圧に流石の俺も腕が限界を迎え思わず声を上げるが、次の刹那、俺たちの身体は重力の鎖から解放され、辺りはしんと静まり返っていた。
「――もう、手を放しても大丈夫だよ」
ベディーネンの穏やかな口調にゆっくり目を開けるとそこには常識では考えられない風景が広がっていた。
「……これ、一体全体どうなってるわけ?」
空を見上げたユシルは口を開けたまま呆然としている。
彼女が驚くのも無理はない。
俺たちもこんな景色を見たことがない。
それは湖に移る山の景色の様に大ルアジュカ山脈の山頂を境に逆さまになった山脈がもう一つ空に存在していた。
「こ、ここに赤竜帝が?」
「あぁ、そうだよ。なんでもここは赤竜帝様が作り出した写し鏡の世界らしいよ」
「写し鏡の世界?」
「そっ、あたしも詳しくは分からないんだけどね。まぁもし興味があるんなら赤竜帝様に聞いてみるといいさ」
ゆっくり山頂部に降り立ったベディーネンは内部へと続く入り口に俺たちを降ろすと再び翼を広げ飛び立った。
「その入り口から真っ直ぐ道なりに進んで行けば赤竜帝様がいらっしゃる“竜王の間”に辿り着けるはずだよ。あたしはちょっと買い出しに行ってくるから、みんな気を付けるんだよ」
「何から何まで本当にありがとうございました」
「いいさね、別に。そんな事よりあんたら赤竜帝様にお会いできると良いね」
「はい」
「じゃ、また後で迎えに来るよ」
そう言って飛び降りたベディーネンの姿は眼下に広がる空に飲み込まれあっという間に消えてしまった。
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