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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー59





 最後の一切れを味わっていたドワ娘は口に含んでいた果実酒を思わず噴き出し立ち上がった。


 「り、竜の尻尾!? じ、冗談ですよね、ベディーネンさん」


 「冗談? 何言ってんだい。これは正真正銘、竜の尻尾のステーキさね。今朝方裏で切り落とした新鮮なあたしの尻尾だよ」


 「ベ、ベベベ、ベディーネン! わらわに何てものを食わせたんじゃ!」 


 「なんだい? あんたたち、もしかして竜の肉を食べちゃいけない決まりでもあったのかい?」


 「そういう問題じゃないわ! ベディーネン、お主自分の尻尾を切り落としてステーキにしたのじゃろ!?」


 「あぁ、そうだよ」



 動揺する俺らとは対照的にベディーネンは平然と答えた。



 「自分の肉を焼いて客人に振舞うなんて話聞いた事ないわ!」


 「そうなのかい? ここじゃ皆普通にやってることだけどね」



 みんな普通にやっているって、おい、おい。



 「ベディーネン、おぬし自分の尻尾を切り落として何ともないのか?」


 「え? 何とも? あぁ、この通り。尻尾なんてほっとけばすぐにでも生えてくるからね」



 そう言ってベディーネンが外衣を捲り上げるとその下には今朝方切り落としたとは思えない程立派な尻尾が生えていた。



 「し、信じられませんわ」


 「たまに隣近所と尻尾の交換なんかもするしね。凝ってる人なんかこのステーキの為に暫く果実だけを食べて過ごすくらいさね」


 「それで肉の味が変わったりするのですか?」


 「もう全然違うね。噛みしめた瞬間、肉から柑橘の匂いがして、あれはあれで美味しいもんだよ。――なんだい? あんた興味あるなら今度そいつに頼んで一切れ貰ってきてあげようか?」


 「い、いえ、結構です!」


 「そうかい? 遠慮しなくてもいいんだよ」


 「ベディーネンさん、折角ご馳走を振舞って頂いたのに申し訳ないのですけど、次から竜の肉はちょっと――」


 「あんな美味しそうに食べてたのに?」


 「おぬしは自分の尻尾を他人に食われて何とも思わんか?」


 「自分で振舞ったものだしね。それに美味しく食べてくれれば益々自分の身体に自信がつくってもんだよ」


 「……ダメじゃ、まるで話にならん」


 

 流石のドワ娘もあまりの価値観の違いに呆れた様子で腰を降ろした。



 「――あたしから言わせればあんたらの方が変わってると思うけどね。あんたらだって家畜を育てて食べてるんだろ?」


 「そ、それは、そうですけど」


 「それと何が違うんだい? ステーキにした相手が死んでるか、生きてるか。違いはただそれだけだろ? あたしはこうしてぴんぴんしているんだから気にする事ないんだよ。――ってまぁ、あんたらがそんなに嫌だって言うんなら次から出さない様にするよ」


 「すみません、ベディーネンさん」


 「なに、謝るような事じゃないさ」



 ベディーネンは特に気にする様子もなく俺の隣に腰かけると巨大なジョッキ片手に残っていた肉を次々口へと運んでいった。



 「……おぬし、よくもまぁそう平然と食べられるの」


 「折角作ったのに残したら勿体ないだろ?」


 「そ、それはそうなんじゃが――」


 「そんなことよりも、あんたたちさっき赤竜帝様の話をしていなかったかい?」


 

 お皿に取り分けた肉をすべて平らげ酒を流し込んだベディーネンはふと何かを思い出したかように箸を置いた。


 「はい。実は俺たち赤竜帝に用があってこのリトリ・ニアヴァに来たんです」


 「へぇ、赤竜帝様にねぇ」


 「ベディーネンさんは赤竜帝に会ったことはありますか?」


 「そりゃもちろんあるさね。この地に暮らす竜族で赤竜帝様に会ったことがない奴なんて誰一人としていないよ」


 「そうなんですの?」


 「そりゃそうさ。なんせ赤竜帝様はあたしら竜族の祖先にあたるお方だからね」


 「赤竜帝が竜族の祖先?」


 「そうさ。すべての竜族は赤竜帝様から始まり、彼の方の血を受け継いで生まれるのさ」


 「それはベディーネンさんが赤竜帝の子供、ということなのでしょうか?」


 「あたし? あたしは違うよ。あたしは赤竜帝様の実子の子、その子供のさらに子供の子供。もう何代離れているかわからないくらい遠い血筋の力のない竜族さね」

 

 「元を辿れば全員赤竜帝に繋がっていますのね」


 「そういうこと」


 「……赤竜帝の遠い血筋。それってここに住む竜族の大半がそうなのですか?」


 「まぁ、大体はね。――あたしの知り得る限り赤竜帝様の直仔は3人だけさ。竜族はあんたらと違って子孫を残すのに相手を必要としない。長い年月かけお腹の子供に力を分け与え、力を受け継いだ子供は親と同じ様に卵を産み次の世代へと命を紡いでいく。そうやって竜族はこの地で生きてきたのさ」


 「子孫を残すのに相手を必要としないとは何とも寂しい限りじゃの」


 「そうですわね。でも、生物として繁栄していくにはその方が合理的なのかもしれませんわね」


 「……合理的、か。でも、その割にはこの地で暮らす竜族の数が少ない気がしないか?」


 「確かにそうじゃな。下手をすればオルメヴィーラの領民より少ないかもしれん」

 

 「オルメヴィーラの領民より少ないってそれ種族として大丈夫なんですの?」


 「はっはっはっ! なにも問題なんかありゃしないよ。それに竜族の数が少ないのは仕方ないことなんだよ」


 「そうなのですか?」


 「あぁ、なにせ竜族は例外を除いて生涯に一つしか卵を産まないからね」


 「生涯に一つだけ?」


 「そうさ。卵を産むには自分の持つ力を分け与え続ける必要があるからね。余程力のある竜族以外は卵を産んで間もなく力尽き死んでしまうのさ」


 「……そんな。卵を産んだら死ぬ? 苦労して自分が産んだ我が子の顔も見れないなんて」


 「すこし寂しい気もするけど、こればかりはどうしようもない事だからね。あたしらだってどうせいつかは死ぬんだから子供に自分の力を託せるだけ有難いことだよ」








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