忌まわしき赤竜の姫ー58
真っ赤に熱せられたの鉄板に置かれた肉の塊。
ジュージューと音を立て香ばしい匂いを放つそれは空腹の胃袋を問答無用で刺激する。
果実酒と肉から染み出る肉汁が鉄板の上で混ざり合い、香味の効いたソースの味を更に一段上へと昇華させていく。
天井が焦げんばかりに立ち上った赤と青の炎がようやく静まるとベディーネンは肉の頂から鉄板に向かって豪快にナイフを突き立てた。
「――はい、お待ちどう様! これこそリトリ・ニアヴァ名物、竜の山脈ステーキだよ!」
天に向かって立ち上る蒸気の様はまるで空を支配した竜のごとし。
何とも豪快な一品にみな話も忘れ、目の前の料理に釘付けになっていた。
唾を飲み込み待ちきれない様子のユシルにベディーネンは手慣れた様子で肉を切り分けていく。
見たこともない程大きな肉塊は外側からウェルダン、ミディアムレア、レアと綺麗なグラデーションを描いており、刃を入れる度に切り口からは大量の肉汁が滴り落ちる。
如何にも固そうなバゲット、それから摘み取ったばかりの野草サラダと赤い果実酒が食卓に並び、この場にいる誰もが餌を目前に涎を垂らしながら飼い主の許しを待つ従順な犬の様にステーキを見つめていた。
「はっはっはっ! そんなにじーっと見つめてないで早くおあがんなよ。折角の料理が冷めちまうだろ?」
「それじゃ折角だし、ベディーネンさんのお言葉に甘えて頂くとするか」
「やった! 肉じゃ、肉! 久しぶりのステーキじゃ!」
我慢の限界に達していたドワ娘は我先にと目の前の巨大な肉にフォークをぶっ指すと人目も気にせずそのまま豪快にかぶりつく。
「ラック、早く私のお肉も切り分けて頂戴!」
「ユ、ユシル、わかったからそんなに俺の耳を引っ張るんじゃない」
「だって早くしないと私の分が無くなっちゃうでしょ!」
「はははっ! 安心しなよ、ユシルちゃん。 いっぱいあるからゆっくりお食べ」
俺は大きな肉の塊を皿に乗せるとまずは焼き加減ごとに切り分け、さらにそこからユシルが食べやすいよう小さくサイコロ状にカットしていく。
大きな肉の塊の割に肉質は非常にきめ細かく、筋っぽさはまるでない。
程よい弾力、それでいて柔らかい肉質は正に最上級の品質と言っていいだろう。
丁寧に切り分けたステーキにベディーネン特製ソースをかけてやると、ユシルは待ってましたとばかりにテーブルに飛び降り肉を頬張った。
「……な、なによ、これ。う、うまぁぁ! わ、私こんな美味しいお肉初めて食べたんですけど! あぁ、神様、私をあの世界樹の牢獄から解放してくれて感謝します!」
うっとりとした表情で祈りを捧げたユシルは再びフォークを握ると世界樹の精霊とは思えない勢いで肉を平らげていく。
満足した様子で黙々とステーキを食べ続けるユシル。
静かになった精霊を横目にようやく俺もステーキにありつく。
「――た、確かにこれは美味いな」
ベディーネン特製のソースもさることながら、兎に角この肉自体が美味い。
臭みなどは一切なく、噛み応えのある赤身は濃い味わいがあり、霜降り部分は口どけが良く芳醇でいてしつこくない。
直火で焼かれた表面も非常に香ばしく、香草の香りが更に食欲をそそる。
真ん中に近づくにつれ程よく脂が溶け出し、中心部の赤身はなめらかでしっとりしている。
これまで食べてきた肉とは、はっきり言って何もかもが違う。
あっという間に肉を平らげ皿に残ったソースにバゲットを浸すと果実酒と共に一気に胃の奥へと流し込んでいく。
甘酸っぱい味わいに口の中もきれいさっぱり洗われ、再び肉塊へと箸を伸ばす。
皆一様に黙々と肉塊を切り分け、次から次へと喰らっていく。
あれだけあった肉の山脈も今ではもう向こう側の景色が望める程少なくなっていた。
「どうだい? 竜族の伝統料理の味は」
「最高よ! 最高!」
「こんなにおいしい肉今まで食べたことがありません」
「そりゃよかった」
「ベディーネンさん、この肉いったい何の肉なんですか? 牛とも豚ともましてや他の家畜とも全然違う」
「そりゃそうさ。さっきも言っただろ? これはリトリ・ニアヴァでしか食べられない伝統料理だって」
「それってどういう――」
「つまりこれは私の、竜の尻尾を使った特別なステーキなのさ」
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