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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー56






 「――人間の領主ラックよ、お前もそこの者達と同じくこの地で大人しく過ごすがいい」


 「大人しく過ごす? ニグルム、お前は俺たちを拘束したりしないのか?」


 「拘束? そんな事をして何の意味がある? この“リトリ・ニアヴァ”からは誰も逃れられない。拘束しようがしまいが行動の自由の差こそさえあれ何も変わりはしない」


 「……俺たちがヴェルを連れ出すかもしれないんだぞ?」


 「ふっ。出来るものならやってみるがいい。だが、お前たちは常に私の監視下にある。長生きしたいのなら精々愚かな真似はしないことだ」



 鼻で笑ったニグルムはそう忠告すると俺たちを残しフェデルマと共にその場を後にした。



 「――ラック様、本当に私たちを置いて行ってしまいましたね」


 「だな」


 「わたくしたちの目的を知っていながら野放しにするなんて信じられませんわ」


 「野放しじゃないさ。俺たちは逃げ場のない“リトリ・ニアヴァ”という監獄に閉じ込められたのさ」


 「そうですね。まず戦って勝てる相手ではありませんし」


 「それじゃこれから一体どうするつもりですの?」


 「それをこれから考えるのさ。先人たちの知恵を借りてな」


 「先人たち? 先人たちってもしや、わらわたちの事ではあるまいな?」


 「他に誰がいるんだよ」


 「……まぁ確かにわらわ達もこの地で数ヶ月過ごしているからの。おぬし達よりかはここの事を知っておるか」


 「そういう事だ」


 「やれやれ、それじゃ一旦場所を変えるとするかの。シーナ、今日はもう引き揚げるぞ」


 「あっ、はい、わかりました。私は後片付けがあるので皆さん先に帰っていてください」


 「分かったのじゃ」


 「ドワ娘、帰るって?」


 「あぁ、わらわとシーナが世話になっておる竜族がいるのじゃ。そやつの家を間借りさせてもらっておるのじゃ」



 シーナを残し大ルアジュカ山脈の山頂を出た俺たちは彼女たちが世話になっているという竜族の家に向かう事になった。





 「――ベディーネン、おるか? 今日は客人を沢山連れてきてやったぞ」


 フレデリカはノックをするでもなく、勝手知ったる我が家かの様に扉を開けるとずけずけと中に入っていく。


 その家はお世辞にもきれいとは言い難く切り出した岩を何段にも積み上げ、木の板で補強しただけのあばら家のようだった。


 とは言え建物自体はかなり広く母屋と隣接する別棟が中で繋がっていて、岩の隙間も粘土できっちり塞がれており雨風が吹き込むようなことはない。



 窓を開ければ心地よい風が通り抜け、暗がりの部屋にも明かりがさす。


 照明器具は一切見当たらないが壁の岩を手で撫でるとその部分だけが淡く発光し暗がりの部屋も明るく照らしていた。


 ドワ娘が両手に抱えた今日の戦利品をテーブルの上にどさっと置くと気配に気づいた竜族の女性がお勝手から顔を覗かせた。



 「お帰り! フレデリカ。今日は随分と早かったね。さてはお前さん、とうとうやられたんだね」


 「何を言っておる、ベディーネン! このわらわがそう簡単に負けるはずなかろう? ほれ、ちゃんと土産もあるではないか。今日はわらわの婚約者がやっと迎えに来たから、仕方なく切り上げ早めに帰ってきただけじゃ」


 「婚約者? あぁ、お前さんが前に話してくれた人間の領主様だっけか? ……あれ、お前さんの法螺話じゃなかったんだね」


 「法螺話などするか!」


 間髪入れずにツッコミを入れるドワ娘を退けると俺は前に出て彼女に一礼した。


 「初めまして、オルメヴィーラの領主ラックと申します。フレデリカとシーナがお世話になっているようで、なんとお礼を申し上げたらよいか」


 「これは、これはご丁寧に。あたしゃ竜族のベディーネンって言うんだ。よろしくね、領主様。しかし、あんたフレデリカと違って随分としっかりしてるね。それに大層いい男じゃないか。……なるほど、フレデリカがあんたに惚れるのも分かるような気がするね」


 「ばっ! な、何を言ってるんじゃ! べディーネン!」


 「なんだい、フレデリカ。柄にもなく照れてるのかい?」


 「て、照れてなどおるか!」


 「ふふふっ。まぁいいさね。それよりもフレデリカ、折角だから他の人たちも紹介くれないかい?」


 「なんじゃ面倒くさいの。――ほれ、そこのゴスロリ娘が拳法バカのメリダじゃ。セレナというイカレ鬼騎士団長に焦心中のなんとも可哀想な奴じゃ」


 「だ、誰が拳法バカですって!」



 顔を赤くし拳を握ったメリダに構わずドワ娘は紹介を続けていく。



 「それからその隣にいる耳長のエルフ、そやつが例のわらわとラックが拾ってやった不肖の従者じゃ」


 「私があなたに拾われた従者?」


 「あぁ、なるほどね。この二人がいつもあんたの話に出てくるメリダとラフィテアかい」



 お勝手から出てきたべディーネンはメリダとラフィテアに顔を寄せしばらくじっと見つめると、なぜか満面の笑顔を浮かべた。



 「そうかいそうかい。まさかあの二人に会えるなんて私もついてるね。フレデリカにはいつもあんたたちの楽しい話、聞かせてもらってるよ」



 べディーネンは吹き出しそうになるのを堪えると思わず手で口を押さえた。



 「……フレデリカ、あなた、私たちがいないからってこの方に一体どんな適当な話をこの人に吹き込んだのしら?」


 「はて? 一体何の事じゃ? わらわは今までの出来事にちょっと色を付けて話してやっただけじゃ」


 「へぇ、ちょっと色をね。あの、べディーネンさん、あとでフレデリカから聞いた話を私たちにも聞かせてもらえないでしょうか?」


 「あぁ、そんなのお安い御用さ。どれもこれも愉快で面白い話だったよ。特にあんたが尻を出しっぱなしで――」


 「べディーネン! あれだけ誰にも話すなと念を押したじゃろうが!」


 「あれ、そうだったけ?」


 「そ、う、じゃ!」


 「ラフィテアお姉さま、後でお話を聞くのが楽しみですわね」


 「そうですね」


 拳を鳴らし睨めつめる二人を前にフレデリカは引きつった笑顔で後退りした。


 「そんなことよりもフレデリカ、あと一人、あの娘もあたしに紹介しておくれよ」


 「あと一人?」


 「そうさ。あの領主様の頭の上にいる可愛らしい娘がいるだろ?」


 「一体、誰のことを言っておるのじゃ?」



 首を捻ったフレデリカは不思議そうな顔でべディーネンの指さす方を見やった。


 どうやらフレデリカにはユシルの姿が見えていなかったらしい。



 「――可愛らしいって私のこと?」


 すぐにはこの地を観光出来ないと知るや否やずっと俺の頭の上で手鏡を見ながら髪の毛をいじくりまわしていたユシルはおもむろに立ち上がると髪を靡かせ俺の肩に腰を降ろした。

 





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