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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー49






 ――陰りと共に薄暗い夜の空に一等星が光瞬いている。


 アルフヘイムを発った俺はラフィテア、メリダ、ユシルと共にあの記憶の本で見た景色を眼下に望みながら大空を舞っていた。




 

 「-―ラック公、あなたが持ち帰った世界樹の記憶によれば竜族の地へは特別な方法でしか行けないようです」



 記憶の書庫から戻った俺はエフィロス長老たちと共に評議会場に戻ると竜族に関する記憶を詳らかに説明した。


 俺があの書庫で見た記憶、それはかつてこの里のエルフたちが竜族の助勢を求め大ルアジュカ山脈に住まう彼等の元へ赴いた時の記憶であった。


 

 今と変わらぬ姿の世界樹。


 その記憶がいつの時代のものだったのかは俺には分からないが、少なくともここに居るエルフの長老たちは誰一人としてその本の中には登場しなかった。



 「良いですか。竜族の里にはある特殊な転移魔法でしかたどり着けません」



 俺が一通り話を終えるとエフィロス長老は壇上に立ち、皆に解説しながら分かりやすく一つずつ書き出していった。



 「特殊な転移魔法?」


 「そうです。世界樹の記憶では竜族の支配する地に転移する為、先人たちは四つの異なる魔法陣を同時に展開していました」


 「エフィロス長老、それってやっぱり魔方陣が複数ある事に何か理由があるのかい?」


 「もちろんです、クルゴン長老。――ラック公、あなたが記憶の本で見たというその魔法陣、皆に見えるよう黒板に書き出してもらえますか?」



 俺は皆の視線が集まるなか前に出ると、指示に従い記憶の本で見た四つの魔法陣を寸分の狂いなく描いていく。


 それは複雑な記号や図形が組み合わさった難解な魔法陣。


 本来ならそんな細かい所まで覚えておくことなど出来ないはずだが、不思議なことにあの本で見た記憶は今でも鮮明に思い出すことが出来た。



 「ありがとうございます。先ず初めにこの魔法陣は今現在私たちが使用しているものとは構成や体系がいくつか異なります。……おそらくですが、これは竜族が独自に構築したものでしょう。これが最初の魔法陣、次がこれ、そして三番目と四番目。この転移魔法陣、一見するとさほど差異が無いように見えますが、それぞれが転移する座標をミリ単位で指定いて次の座標に転移するためには定められた地点からでなければ先に進めない仕組みになっています」


 「……それってつまり“竜の地”へ行くためにはある決められた座標からしか転移出来ないってことでしょうか? そしてその座標に転移する為にはまた別の決められた座標にいかなくてはならない」


 「そういう事です、ラフィテア。そして"竜の地"へ行く為のスタート地点はここ、エルフの里があるこの世界樹に設定されていました」


 「それはまた念入りなことだね」


 「……どうして竜族はそこまで部外者の侵入を警戒しているのでしょうか?」


 「ん? どういうことだ、ラフィテア」


 「いえ、あれほどの力を有している存在なら、悪意ある侵入者など簡単に一掃できそうなものですが――」


 「確かにそうだな」


 「……もしかしたら彼らは僕たちじゃなくもっと違う何かを警戒しているのかもしれないね」


 「違う何か? それはどういう意味なのでしょうか、クルゴン様」


 「いや、なんとなくそう思っただけだよ、何となくね」



 「――転移魔法陣については完成に多少時間を要しますが、ラック公の手伝いがあればさほど難しくないでしょう」


 「そうだね。魔方陣の起動に関しても僕たち長老四人がいれば問題はない」


「つまりこれでわたくしたちヴェル達を助けに行くことが出来ますのね!」


 「……いえ、それが、まだそうもいかないのです」



 エフィロス長老は喜び勇むメリダを見て少し申し訳なさそうに首を振った。


 「え? どう言うことですの?」


 「“世界樹の若木” これがなければたとえ転移魔法陣が完成したとしても"竜の地"へは行けません。世界樹の記憶によれば“若木”がなければ"竜の地"の周囲に張り巡らされた結界を突破することが出来ないようなのです」



 確かに過去の記憶でも世界樹の若木を手にした一行だけが竜族の結界を突破し"竜の地"への入出を許可されていた。



 「まったくどれだけ用心深い種族なんだろうね」


 「全くだな。それにしてもよりによって“世界樹の若木”か。……クルゴン長老、どうにかして手に入れられないものか」


 「サリオン、いくら僕でもちょっとそれは無理な話だよ。君も知っているだろ? "世界樹の若木"は言ってみれば小さなユグドラシル。こればかりはたとえユシル様に願ってもどうにもならないだろうね」


 「……そうだな。余程の事がない限りいや余程の事があったとしても我々に託すことなどありはしないか。-―なにか別の手段を考えるしかないかもしれないな」


 「あのサリオン長老――」


 「なにラック、そう落ち込むな。"世界樹の若木"が無理でもきっと他に手はある。諦めなければいずれ道は見つかる。それに私たちもここでお前たちを見捨てたりはしない」


 「サリオンの言う通りさ。僕も出来る限り力を貸そう。そうだよね? エフィロス長老」


「わ、分かっています! 反対していた私が言うのも変な話ですが一度手を貸すと決めた以上、私も責任をもって魔方陣を完成させましょう」


 「ありがとうございます、ってあの、そうではなくて、あの、俺、持ってるんです」


 「え? ……持ってる? 何を?」


 「だからその“世界樹の若木”を、です」


 

 その場にいたエルフ族の長老三人は互いに顔を見合わせしばらくの間きょとんとすると、それからそれぞれがゆっくり俺を見やった。



 「ち、ちょっと、ぼ、僕の聞き間違えかな? え? 君が"世界樹の若木"を持ってるって? そ、そんな馬鹿な! 僕たち長老ですら実物を一度も見たことも手にしたこともないっていうのに、ね、ねぇ?」


 「そ、そうです。こんな時に嘘をつくなど不謹慎にも程があります!」


 「いえ、だから嘘じゃなくて本当に持ってるんです」


 「……本当に持っている? な、なら今すぐ皆に見せてください!」


 「わ、わかりました」


 彼等にとって“世界樹の若木”は余程価値があるものなのか一向に俺の言葉を信じてもらえず、仕方なく懐から若木を取り出し彼らの前に差し出した。


 というかそんな大事なものを何の迷いなく俺に預けるとは世界樹の精霊様はいったい何を考えているのだろうか。


 俺の手の平の上に乗っていた若木を覗き込むように顔を突っ込んだクルゴン長老は震える手でその若木を持ち上げまじまじと見つめていた。



 「ラ、ラック君、君、こ、これをどうやって?」


 「その、世界樹の精霊エレファ様から預かりました。ユシルが、いえ、ユシル様が俺たちと同行するのにこれが必要だと」


 「ラ、ラック公、あ、あなた、エレファ様にもお会いしたのですか!?」


 「えぇ、まぁ」


 再び顔を見合わせた三人は驚きのあまり言葉を失い、互いの顔、俺、世界樹の若木の順番に目をやった。


 ただソロンディール長老だけは一人向かいの席に座り腕を組みながら黙って頷いていた。







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