忌まわしき赤竜の姫ー45
登壇に立ち力強く演説を行っていた男は話を終えると鳴りやまぬ拍手の中、意気揚々と天幕へ戻っていた。
「――ドゥキアス王よ。相変わらず人心を掌握するのが上手いな」
席に着いたドゥキアスは剣を立てかけると盃に注がれた酒を一気に飲み干し息を吐いた。
「それは褒めて頂いていると思って良いのですかな? ドワーフ王よ」
「もちろんだ。我々混成軍がこうして結束していられるのもお前のその弁舌のお陰かもしれん」
「まさか! 私の演説などほんの気休めにしかならないことを自分が一番よく知っている。それよりもマールス、魔族の動向に進展は?」
「……それなんだがタラム平原の向こうに魔族が集結しておる」
「数は?」
「数十万」
「……そうか」
「――どうするよ、ドゥキアス。敵の大軍を前に尻尾を巻いて逃げるか?」
支柱に寄りかかり酒をあおっていた獣人族の男は持っていたグラスを投げ捨てると果実を掴みドゥキアスの隣に腰かけた。
「それともお前の得意なその演説とやらで敵の大将を説得してみるか?」
「やめんか、フォーヴ王よ。今はそんな冗談を言っている場合ではあるまい」
「うるせぇ! ドワーフの老いぼれ爺が! こうなったのも全てこいつのせいじゃないか! こいつの口車に乗って魔族に戦いを挑まなきゃ、こんな事にはなっていなかった!」
「……今更そんなことを言うなんてつくづく愚かね」
長椅子に腰かけていた女はドゥキアスに突っかかるフォーヴに嫌気がさしたのか、腕に乗せた猛禽を愛でながらボソッと呟いた。
「あ? 飛ぶことしか能のない有翼人種は黙ってな!」
「地を這う事しか出来ない獣風情に言われたくないわね」
「……オルニス・ヴォーヴィル。てめぇ、いま何て言った?」
「何度でも言いましょう。地を這うことしか出来ない獣風情が」
「おい、オルニス、表へ出な! 今ここでその邪魔くせぇ翼を捥いで無翼人にしてやるよっ!」
「やめんか、二人共! 苛立つ気持ちも分からんでもないが、今はそんなことをしている場合ではないかろうが!」
「はっ、やってれるかよ!」
怒り任せに木箱を蹴っ飛ばしたフォーヴは得物を掴むとオルニスを睨みつけそのまま天幕を後にしてしまった。
「全くあの激しい気性にも困ったものだ」
「しかし、彼らの力が無ければここまで魔族たちと渡り合う事は出来なかった」
「そうだな。……オルニス女王よ、あまりフォーヴ王の神経を逆なでしないでもらえると助かる」
「あれでよく獣人族の王が務まるものです」
「そう言ってくれるな」
「はぁ、仕方ありません。勇敢なドワーフの王マールスの顔に免じてここは私が折れましょう。仲間内で争うのは私も本意ではありませんから」
「ありがとう、オルニス女王」
「それで話を戻すが、ドゥキアス王よ。これから一体どうするつもりなのだ。まさかフォーヴの言うように尻尾を巻いて逃げるつもりなのか?」
「……逃げる、か。この私に尻尾が付いていればそれも良かったのかもしれない。だが、もう手遅れだろう。私たちがここを放棄すれば我々の同胞は皆殺しにされ二度と生きてこの地に立つことは叶わないだろう」
「そう、だな。フォーヴ王が言うように魔族に従っていればもう少し長生きできたかもしれないが辿る道は同じこと。それはあやつ自身も分かっていたのだろう」
「だから、嫌々ながらもこの混成軍に参加したのでしょう?」
「だが、結果として何も変わらなかった。私たちの作戦はことごとく奴等に看破され、もはや我々は風前の灯火に等しい」
「どうしてこんなことになってしまったのか。まるでこの中に裏切り者が、……いやそれだけは有り得ん。魔族が我々との約束を守る事など決してない。表面上は友好的に取り繕っていても最後は良いように利用され殺されるだけだ。それはここに居る誰もが知っている」
マールスの言葉にここにいる全員が深く頷いた。
「最後の頼みの綱はもう一つしかあるまい」
「……竜族、か」
「そうだ。この絶望を打ち払う事が出来るのは彼等をおいて他にはあるまい」
「しかし、竜族など本当に存在するのかしら。万物を司る神の僕。けれどその姿を誰も見たことがない。まるで絵空事のようだわ」
「確かにそうだな。――だが、オルニス女王よ、竜族はこの世に存在する」
「どうしてそう言い切れるのですか、ドゥキアス?」
「どうして? その答えは簡単だよ。――私はかつて一度だけ竜族に会ったことがある」
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