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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー36






「――まったく、ユシル様の御意思なら初めからそうと言ってくれれば良かったのに」



 クルゴン長老は頭を掻くと小さくため息を付いた。



 「世界樹ユグドラシルの言葉は僕たちにしてみれば神の命、絶対に等しい。だからあんな評議会なんて開かなくても君たちに協力出来たはずさ」



 世界樹の精霊が高位の精霊だという事はフェアノールの説明で何となく理解はしていたが、彼等にとって彼女がそこまで大きな存在だとは思ってもみなかった。



 “ユシルの言葉は絶対に等しい”か。



 だったらユシルの奴も初めから俺たちに協力してくれればよかったのに。



 「――ラフィテア、君もユシル様の事を知っていたのなら、せめてサリオンだけには話しておいて欲しかったな」


 「申し訳ありません、クルゴン様。ですが仮にユシル様の名を出したとしても長老の皆様方が私の言葉を軽々に信じるとは思えなかったのです」


 「……あぁ、まぁ、確かにそれはそうかもしれないね。まっ、最終的に上手くいったのだから良かったのかもしれないけどね」


 「はい。これもすべてクルゴン様の御助力のおかげです」


 「そう言ってもらえて何よりだよ。じゃなきゃ僕が身を削った意味がないからね」



 前を行くエフィロス長老にクルゴンが笑顔で手を振ると、彼女は侮蔑するような目つきで睨みつけそっぽを向き歩いていってしまった。

 


 「あは、あはははは。……はぁ。はてさて、これからどうやって彼女のご機嫌を取っていったものかな」


 「クルゴン様。結局エフィロス長老の秘密って一体何だったんですの?」


 「それはだね――」



 何気ないメリダの質問に思わず口を滑らせそうになったクルゴンはエフィロスの鋭い殺気に気づき、自らの口に手を当てると首がとれてしまうのではと心配になるほど首を横にぶんぶんと振った。



 「イ、イヤだな、メリダちゃん。あ、あれは僕のちょっとした冗談だよ、そっ! じょ・う・だ・ん!」


 「そうなんですの?」


 「そっ、冗談なんだよ、冗談!」


 「なんだ。何か面白い話が聞けるかと思ったのに残念ですわ」


 「そりゃ悪いことしちゃったね。この僕に免じて許してくれると助かるな。あはは、あははははは!  はぁぁぁ」



 空気を読まぬメリダにクルゴン長老の乾いた笑い声と憂鬱たっぷりの溜息が辺りに響き渡っていた。




 ――エフィロス長老の魔法によって転移した俺たちは小さな明かりを頼りにゆっくり下へと降っていた。


 そこは木とカビと水の臭いがする空間。


 ここが世界樹の内部であることはすぐに理解出来たが外とは断絶されており、今どこを歩いてどこに向かっているのか一切見当が付かなかった。



 「――着きました」



 暗がりの中、先頭を行くエフィロス長老が足を止めると掌の上で周囲を照らしていた光の魔法の球を強く握り砕きその破片を辺りに振りまいてみせた。


 そこは世界樹の幹に覆われた球体状の空間。


 壁に付着した光の欠片が夜空の星々の様に周囲を照らし、その部屋の中央には上下から伸びた頑丈な蔦が何かを守るように幾重にも生えていた。



 「ここが世界樹の中枢とも言える“記憶の廊”」


 「記憶の廊?」


 「そうです。ユグドラシルが見たこの世界のすべての景色がここに集まり記憶されます。あなたにも分かるでしょう? この空間に集まる膨大な魔素の量を――」



 俺はエフィロス長老の言葉に頷いた。


 魔法の苦手なこの俺でさえここに集まる魔素の量が尋常ではないことをすぐに理解した。



 「ここに流れくる一粒一粒の魔素の粒子には今現在ユグドラシルが観察しているすべての事象が書き止められています。そしてそれらの情報は全てここに集められ世界樹ユグドラシルが吸い上げ記憶しているのです」



 つまりここは世界中に張り巡らされた情報ネットワークの中枢のようなもの。

 

 そしてその蓄積された情報量は数千、いや数万年以上にも及ぶ。



 「――さぁ、オルメヴィーラの領主よ。私の手を握りなさい」


 

 俺は差し出された左手を握るとエフィロスはもう片方の右手で世界樹の蔦に手をやり何やら魔法を唱え始めた。



 「これからあなたを世界樹の記憶へと誘います。私が合図をしたら私と同じように左手でユグドラシルの蔦に触れなさい。そうすればあなたはユグドラシルの記憶の世界に引きずり込まれることでしょう」


 「引きずり込まれる!?」


 「そんなに心配しなくても大丈夫です。その為に私があなたの手を握っているのですから。とは言え、もし万が一あなたがこの手を離すようなことがあれば、あなたの意識はこの世界樹に取り込まれてしまい二度と目覚めることはないでしょう」


 「そ、そんな!」


 「ごめんなさい。今のは少し意地悪でしたね。――安心してください。私がこの手を離すようなことは決してありませんから」


 「わかりました。エフィロス様の言葉を信じます。それで俺は記憶の世界に着いたらどうすればいいのですか?」


 「記憶の世界にはユグドラシルの記憶を管理する司書のような者が存在します。まずは彼女を探し出しなさい。あなたが情報を得るには管理人の協力が必要になるはずです」



 宇宙のように永遠と増え続ける世界の記憶の中で必要な情報をピンポイントで探し出すことなど不可能に近いのだろう。


 

 「もし管理人を探し出し情報を得ることに成功したら繋いだ私のこの左手を意識し強く握りなさい。それを合図に私はあなたの意識を記憶の世界から引っ張り上げます」


 「わかりました。……他に何か注意すべきことはありますか?」


 「……そうですね、記憶の世界はあなたが思っている以上に広大です。あまりに古の記憶に触れようとすれば私との魔法の繋がりが切れこちらの世界に戻れなくなってしまうでしょう」


 「では、どうすれば?」


 「あなたが世界樹の記憶に触れることが出来る領域の範囲は私の魔力量に比例しています。ですから、進める限界が近くなったらあなたの手を引いて知らせましょう」


 「はい」


 「それからユグドラシルの記憶の世界はあなた自身の記憶にも少なからず影響を与えます。無防備な意識のまま記憶の海に飛び込むのですから当然でしょう。ですから、何度も世界樹の記憶に触れることは出来ないと思っていてください」


 「心に留めておきます」


 「そして最後にもう一つ。私の魔素が枯渇すればあなたをこちらの世界に連れ戻せなくなる。もしあなたが竜族に関する記憶を得られなかったとしても、その時は強制的にあなたを連れ戻します。分かりましたね?」


 「はい、エフィロス様」


 「ではそろそろ出発しましょう。心の準備はいいですか?」



 エフィロス長老の描く魔方陣が光を放つと彼女と俺の魔素が徐々に繋がっていくのが分かる。



 「ラフィテア、メリダ、行ってくる」


 「ラック様、どうかお気をつけて」


 「竜族の里の情報が見つかるまで戻ってくるんじゃありませんわよ」


 「絶対に見つけるさ」



 ヴェルを助け出す為にも必ず竜族に関する記憶を見つけ出しここに帰ってくる。



 「お願いします、エフィロス様」



 エフィロス長老が頷くのを確認すると俺はゆっくり手を伸ばしてく。

 

 皆が心配そうに見つめる中、左手が世界樹の蔦に触れた瞬間、俺の意識は記憶の世界へと引きずり込まれていった。






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