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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー32




 


 ――緊張した面持ちの四長老たちは一斉に地面に片膝を付くと彼らはかしづく様に頭を垂れた。


 天から舞い降りた彼女は世界樹の枝に腰をかけると満足したように彼らを見下ろしそっと髪をかき上げてみせた。



 円卓を囲む長老たち。


 誰が賛成、反対に回っているのか明らかなこの状況で既に議論の大半は尽くされ、何か意見を言うでもなくただ時間だけが淡々と流れていった。



 世界樹の幹に流れる水音が聞こえる程の静寂。


 クルゴン長老は突然何かを思いついたかの様に掌を打ち、おもむろに手を上げた。



 「エフィロス長老。エフィロス長老にもう一度訊ねたいことがありました。……よろしいでしょうか?」

 

 「なんでしょう、クルゴン長老」



 沈黙の中、時間を持て余していたエフィロスはクルゴンの問いに一瞬怪訝な顔をすると警戒するように身構えた。



 「どうしてエフィロス長老は今回の議案に対して反対の立場を取っておられるのでしょうか?」


 「それは先程も答えたはずですが――」


 「はい。ですが是非とも今一度お答え願いたいのです」



 クルゴン長老の意図を図りかねていたエフィロスだったが、もう一度クルゴンに促されると仕方なく立ち上がり口を開いた



 「私の立場は最初から一貫して何も変わりません。この世界樹には過去の様々な記憶が蓄積されています。その記憶の重要性はこの場にいる長老たちなら誰もが理解してるはずです。そんな大切な記憶の数々に部外者を触れさせるわけにはいきません」


 「……なるほど、よく分かりました。ところでエフィロス長老、もしも彼らの身元や素性がハッキリしており、その目的が人命救助だったとしてもその反対の立場は変わらないのでしょうか?」


 「えぇ、変わりません。人はいつか必ず死を迎えます。遅いか早いか死に方に違いはあれどそれは平等に訪れます。もし人命を理由にするならば私たちは全てを受け入れ人々の為に尽くさなければならないでしょう」


 「確かに彼等だけを贔屓するわけにはいきませんね」


 「それに彼らは“世界に破滅をもたらす忌み子”を助けに行くと言うではありませんか。世界の秩序、安寧の為に生きる私たちがそれを許すはずがありません」


 エフィロス長老の言葉は最もであり、彼女の考えからすれば今回の評議会で彼女が賛成に回るのは難しいだろう。


 だが、それでもクルゴンは何か秘策があるのか、彼女の話に同意しながらもそのまま話を進めていく。



 「――赤竜帝の忌み子。確かにその話が事実だとするならば非常に由々しき事ですね。ですが、残念なことにその事実を確認する術を僕たちは持ってはいない。僕としては竜族と接触しこの際、真実をはっきりさせたい所ですが……。もしかしたらその娘を助け出すことが竜族の言う”破滅”を回避する唯一の手段なのかもしれないのだから」


 「あり得ません!」



 円卓を強く叩き否定するエフィロスをクルゴン長老はいつもと変わらぬ様子で彼女に微笑んでいた。



 「あり得ない? どうしてそう言い切れるのですか、エフィロス長老? 何か根拠がおありなのですか?」


 「そ、それは、……クルゴン長老、今の発言は訂正致します」


 「赤竜帝の話は、一先ず置いておく事にしましょう。ここでいくら議論を交わしても結論は出ませんからね。では、話を戻しましょう。エフィロス長老、あなたは先ほどから世界樹の記憶が部外者に見られるの事を非常に危惧する発言をしていましたよね?」


 「え、えぇ。悪意ある者にとってはとても有益になる記憶が数多く存在する聞いています」


 「なるほど、なるほど。……エフィロス長老、あなたが危惧している理由、果たして本当にそれだけでしょうか?」


 「本当にそれだけ? それ以外にどんな意味があるというのですか」

 

 「あなたにとって絶対に知られたくない秘密が世界樹の記憶に隠されているとか。……例えばそう、昔にあったサリオン長老との関係について、とかね」


 「な、ななななな、何を言っているの! ク、クルゴン!」



 それまで冷静だったエフィロス長老はクルゴンの意味深な発言にひどく動揺し顔を真っ赤にしていた。



 「どうしたんです、エフィロス長老。……おや、まさか、図星だったのですか?」

 

 「ず、図星なわけないでしょ! クルゴン、あなた議案と関係ない話をするのは反則よ!」


 「いえいえ、関係なくはないです。なにせ世界樹の記憶に関しての話ですから。しかし、変だな。僕の記憶違いか? 昔、世界樹の記憶に触れた時、確かに見たよう気がしたのですが」


 「ク、クルゴン! あ、あなたどこまで知っているのですか!」


 「どこまでってそれは昔エフィロスがサリオンと付き合ってた時に――」


 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ! ク、クルゴン長老、あ、あなたそれ以上一言でも喋ってみなさい! 瞬きする暇もなくそのお喋りな口ごと頭を粉砕してあげるから!」


 「イヤだな、エフィロス長老。冗談ですよ、冗談。いや、でも、もしエフィロス長老とサリオン長老の過去にやましい事が何もないんだったら、彼らに世界樹の記憶に触れる許可を出してほしいな、なんてね」


 「クルゴン長老、あなた私を脅迫しているの?」


 「言い方が悪いな、エフィロス長老。僕はただ、あなたに協力を求めているだけです、ね?」


 「協力ですって? エルフの評議会は公明正大? この私に向かってよくもそんな事が言えたわね!」


 「どうです、エフィロス長老。この議案に対し再度一考して頂けませんか? でなければ僕のこの軽い口のせいで里中にあなたのあらぬ噂が立ってしまうかもしれません」



 鬼の形相で歯軋りを立てるエフィロスを前にクルゴン長老は表情一つ変えず笑顔で彼女に微笑んでいた。





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