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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー26






 変わらぬ里の景色を見つめながら俺とラフィテアは世界樹を登っていく。


 この里でラフィテアに何があったのか知ってしまった俺は彼女にどう声を掛けたものかと悩んでいるとそんな俺を察してか、ラフィテアにしては珍しく自分の事を色々と話し始めた。



 「私がこの里を離れる際、お爺様と約束したことがありました」


 「サリオン長老との約束?」


 「はい。数年もの間、私は只ひたすらに本を読み漁り沢山の知識を得ました。それは言語や数学などの基礎的なものから、人種、国家、歴史、植物、医学、地学、魔法、剣術、ありとあらゆるものを。でも、それはあくまで紙の上に書いてあるだけの浅い知識」


 「なるほど。百聞は一見に如かずってところか」


 「はい。本に書いてある知識だけでどうにかなるほどこの世界は甘くはない。そうお爺様に忠告されました」


 「確かにその通りかもな」



 ――ラフィテア、世界を見て回ると言うならまずはジョワロフ公の元で世界を学びなさい。外界はお前が思っているよりも大きく、複雑で、そして過酷だ。いいかラフィテア、これだけは私と約束してほしい。



 「お爺様は以前から故意にされていたジョワロフ公に私が独り立ち出来るまで面倒を見てくれるよう頼んでくれたのです」


 「そうか、だからジョワロフ公はラフィテアの事を知っていたのか」


 「はい。バラマールで過ごした数年間、私は本当に数多くの事を学びました。剣の扱い方、狩りの方法、料理から礼儀作法、ダンスに他者との接し方。どれもみな私にとっては新鮮で決して知識からでは学べぬ貴重な経験でした」



 「サリオン長老はずっとラフィテアの事を気にかけてくれていたんだな」


 「そう、かもしれませんね」



  きっかけは何であれこうしてラフィテアがここに戻って来れたのはよかったのかもしれないな。


 「それでバラマール領を出た後は色々と各地を巡ったのか?」


 「はい、母様の日記に記されている地名の内、半分程度は見て回ったと思います」


 「あれ、でもラフィテアってセレナと一緒にファンユニオン王立学院に通ってたんだよな」


 「はい。セレナ様と初めてお会いしたのは確か――」


 

 当時を振り返り懐かしむように口を開こうとしたその刹那、突然後ろから駆けてきたメリダにラフィテアは話しの腰を折られてしまった。



 「ラフィテアお姉さま、用事とやらはもう済みましたの?」


 「えぇ、今しがた」


 「ならお姉さまも今すぐ水浴びに行った方がいいですわよ。髪も洗えて汗も流せて最高ですわ。世界樹のおかげか何だか肌も潤って、それに今なら誰も居ませんから」


 「そんなに気持ちいいなら俺も行ってこようかな」


 「あら、あなたもいましたのね。あぁ、折角ならセレナお姉さまも連れて来て差し上げたかったですわ。温泉も気持ちいいですけど、こちらもなかなか。正直甲乙つけがたいですの」

 

 「そうだ、ラフィテア。俺と一緒に水浴び行かないか?」


 「はぁ!? あなた、何を言ってますの!? 信じられませんわ、このケダモノ!」


 「じょ、冗談に決まってるだろ」


 「冗談? 完全に目が本気でしたわよ。ラフィテアお姉さま、こんなケダモノに近づいたら何されるか分かりませんから早く離れ――」


 「ラ、ラック様がその、よ、よろしければ」


 「「……は?」」




 顔を赤らめおずおずと答えるラフィテアに、俺とメリダは思わず顔を見合わせた。



 「な、なななな、何を言ってますの!? お姉さま! だ、だだだだ、駄目に決まってますわ! 男女七歳にして同衾せずって言葉を知りませんの!?」



 そんな言葉この世界にあるのかよと思いつつも提案した俺すらもコクコクと頷いてしまった。


 「じょ、冗談です。ラック様もメリダも本気にしないでください。でもラック様が本当に望むのでしたら――」



 「な、なんだ。冗談だったんですの? も、もうお姉さま驚かさないでください! はぁ、それにしてもラフィテアお姉さまがそんな冗談を言うなんて。……きっとこれも全部あなたが悪影響を及ぼしてるんですわ!」


 「なんで俺が!?」


 「なんでもなにもそうに決まってますわ。あぁ、イヤだイヤだ。――そうだ! セレナお姉さまにもこの男には特に気を付ける様に帰ったらまた言っておかないと」


 「またってどういういう事だよ、メリダ!」


 「さ、お姉さま、アレは放っておいといて二人で戻りましょう。夕食頂いたらまた後で水浴び行こうかしら。その時はお姉さま、ラフィテアお姉さまの背中、私が流して差し上げますわ」


 「ありがとう、メリダ」


 

 メリダはラフィテアの背中を押しながら楽しそうに階段を登っていく。


 全く酷い言われようだがラフィテアに笑顔が戻って本当に良かった。


 ラフィテアの抱える辛い過去が消えることは決してないが、彼女ならきっといつかその苦難を乗り越え自分の意思で再びこの地に足を踏み入れる日が来るだろう。


 先を行くラフィテアはおもむろにこちらを振り返ると何かを決心したかのように叫んだ。


 「ラック様、実はお爺様と約束したことがもう一つあるんです! そ、その、す、好きな人が出来たら必ずここに連れてこいって!」


 「え? そ、それってどういう――」



 彼女がどういう意味でそんな事を言ったのか、訳が分からず混乱しているとラフィテアはそれ以上何を言うでもなく一人アンナの待つわが家へと駆けて行ってしまった。









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