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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー21





 「――良かったら、こちらをどうぞ。きっと疲れが癒えますよ」


 「ありがとう」


 目の前に差し出されたのは入れてくれたばかりの暖かいお茶。


 嗅いだことのない新緑の爽やかな香りに手を伸ばすと喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干してしまっていた。


 お、美味しい。

 

 それに不思議と疲れが取れた気がする。



 「アンナさん、このお茶は?」


 「アンナと呼び捨てで結構ですよ。このお茶は世界樹の新芽を摘んで炒って乾燥させたお茶です」


 「世界樹の葉で作ったお茶?」


 「はい。このエルフの集落ではよく飲まれるんですけど、外の人たちにとっては珍しい飲み物かもしれませんね」


 珍しいも何も世界樹のお茶何て聞いたことがない。


 商品化して売り出せばきっと飛ぶように売れるに違いない。


 それこそ王侯貴族の連中に、っていや、いや、いや。


 何を考えてるんだ。


 俺は別に商売をしにここに来たわけじゃないんだ。


 いまはこのお茶よりももっと気になることが他にある。



 「――なぁ、アンナ。アンナはどうしてラフィテアがこのエルフの里を離れたのか知ってるのか?」


 俺の問いにそれまで笑顔だったアンナの表情は急に深く沈んでしまった。



 「……どうしてお嬢様がこの里を出て行ってしまわれたのか、その本当の理由はお嬢様しか知りえません。ですが、この里で何があったのかアンナは知っています」


 「その話詳しく聞かせてもらえないか?」


 「それは、……ごめんなさい。お嬢様のご友人とは言え軽々しく話すことは出来ません」


 「そうか。無理を言って悪かったな。――ところでこの家って昔ラフィテアが住んでたんだろ?」


 「はい、そうです。ここにはラフィテアお嬢様とお嬢様のご両親が一緒に生活しておりました」


 「そうか。やっぱりここがラフィテアの実家だったんだな。それでラフィテアの両親はいまここに住んでいないのか?」


 「――お嬢さんのご両親は、もう当の昔に亡くなっております」


 「そう、だったのか」



 過去を思い出し俯くアンナに俺も思わず言葉を詰まらせる。 



 エルフには寿命というものが存在しないと言う。


 だが、彼らに“死”というものがない訳ではない


 エルフにも死は訪れる。


 ラフィテアの両親が亡くなった理由。


 もしかしたらその事が原因でラフィテアはエルフの里を、アルフヘイムを離れる決心をしたのかもしれない。

 

 気が付けばアンナは薄っすら涙を浮かべ、悲しみに身体を震わせていた。



 カチカチと木製時計の音が響き渡る。



 「――ごめんなさい。もうすっかり涙も枯れ果ててしまったと思っていたのに」



 そう言って涙を拭ったアンナは顔を上げると気丈にも笑顔を浮かべてみせた。



 「折角、お嬢様が帰って来たっていうのに泣いてなんかいたら精霊様の罰が当たっちゃうわ。ラック様、わたしが泣いてたって事はどうかお嬢様には言わないで頂けますか」


 「わかった」


 「ありがとうございます。――さっ! お嬢様の為にも美味しいご夕食準備しなくちゃ。ラック様も私の手料理、期待していてくださいね。こう見えて料理には自信あるんですから」


 

 二人の間に流れる重々しい空気を変えようと明るく振舞うアンナに俺の心も自然と軽くなる。


 「それじゃアンナの腕前に期待してようかな」


 「はい、どーんとお任せください!」



 ラフィテアに何があったのかは分からないが、彼女という存在がラフィテアの心を救ったことは間違いないのだろう。


 ラフィテアに何があったのかは気になる所だが、俺が根掘り葉掘り聞くことではない。


 もし知る必要がある事なら、必然と耳にすることになるだろう。



 胸を叩き、腕まくりをするアンナを見て思わず二人で声を立て笑っていると背後から突然扉をノックする音が聞こえてきた。



 「――アンナ、ラック殿はこちらに?」


 アンナが扉を開けると見知らぬエルフが扉の前に立っていた。


 「え? あ、はい。ここにいますよ」


 「それは良かった。ラック殿、サリオン長老がお呼びですのでご同行頂けますか?」


 「分かりました。すぐ準備するので少々お待ちください。――それじゃ、アンナ。ちょっと行ってくる。夕飯楽しみにしてるからな」


 「はい。このアンナにお任せください」



 念の為軽く装備を整えると、ラフィテアの実家を後にする。



 「――ではラック殿、ご案内致します。どうぞこちらに」



 案内人の後に続いて緩やかな坂を下っていく。

 

 振り返ると扉の隙間から心配そうにアンナがずっとこちらを見やっていた。




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