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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十二章

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忌まわしき赤竜の姫ー14






 「――折角、ご希望通り外の世界に来れたのに、なんでそんな暗い顔してるんだよ」


 「あ、た、し、は! 退屈しのぎが出来ればそれで良かったの! 外に出たいなって一言も言ってないわよ! それなのにあんたのせいでこんな事になるなんて……。もう、ホント最悪!」



 ユシルは思いつく限りの文句を一通り並べると俺の手の平の上で両膝、両手を付き、大きくため息を付いた。



 「あまり悪い方にばかり考えること無いんじゃないのか?」


 「あんたは他人事だからそんなこと言えるのよ!」


 「他人事ってな。俺もお前を連れて魔族の支配する領域に行かなくちゃならないんだが」


 「ふん! 自業自得でしょ! あぁ、今となってはあの平和な世界が懐かしいわ」


 「……なら今からでもあの場所に戻るか?」


 「それは――」



 思わず冷静になったユシルはあそこで過ごした日々が頭を過ったのか俯き首を横に振った。



 「なに、エレファ様もこの件は後回しでもいいって言ってたし、それまでせいぜい道中を楽しめばいいんじゃないか?」


 「あんたってどうしてそう楽観的に考えられるわけ? ……はぁ、けど、そうね。どうせ後戻り出来ないならとことん楽しんでやらなきゃ損よね!」



 泣いたり、笑ったり、落ち込んだり、怒ったり。


 まったくもって変わった精霊様もいたもんだ。



 「よし! そうと決まれば、まずはどこに行こうかしら。有名な観光地? それともお買い物? 美味しい食事ってのも悪くないわね!」

 


 あれだけ文句を言っていたのに一転して掌の上で楽しそうにするユシルの頭を俺は指で軽く小突いてやった。



 「痛っ! あんた、この私に向かってなんて事するよ!」


 「あのな、道中楽しむとは言ったけどそんな寄り道している余裕、俺たちにはないんだよ」


 「はぁ? 何でよ!?」


 「言っただろ? 俺は竜族に連れ去られた仲間を助けなきゃならないって」


 「ふんっ! そんなの私の知ったこっちゃないわ。あんたたちだけで助けに行ってくればいいじゃない」


 「お前、もしかしてコレの事忘れてやしないか?」



 俺はユグドラシルの精霊エレファから預かった世界樹の若木を懐から取り出して見せた。




 「――エレファ様、これは?」


 「それは芽吹いたばかりの世界樹の若木。私たち精霊はあなたたち人間とは違って肉体というものを持ち合わせてはいません」


 「肉体がない?」


 「はい。精霊は元々高次元の意識や精神といった存在。私たちが外の世界で活動する為には依り代に受肉し顕現する必要があります。そしてその為には膨大な魔素を必要とするのです」


 「――つまり簡単には外界に降りれないってこと。そうだよね、エレファ」


 「えぇ。ミーミルの言う通りです。付け加えて言うならたとえ顕現に成功たとしても長時間その肉体を維持することは非常に困難なのです」


 「それじゃどうやってユシルを魔族の支配する領域まで連れていけばいいのですか?」


 「あなたに渡したその世界樹の若木。それは言わば彼女の半身。多少の制約は受けますがその若木さえあれば魔素の供給なしに肉体を維持し続けることが出来るでしょう」

 

 「つまりこれが無ければ精霊は外で自由に活動できないのか」


 「簡単に言えばそうですね」


 「え? そうなの? そうなの? ミーミル!」


 「あれ? もしかしてそんな事も知らなかったの、ユシル姉」


 「え? じゃ、え? どうして私こんなことになってるのわけ!? あそこから逃げ出したのってまるで無意味じゃない!」



 一人混乱しているユシルを他所にエレファはそのまま話を続けた。



 「いいですか。先程もいいましたがこの若木は彼女の半身そのもの。世界樹とは言え力を使い果たし若木が枯れるようなことがあれば外界で顕現し続けることは難しい。ですからそれまでにユシルを、彼女を魔族の領域まで連れて行ってほしいのです」



 要はそれがこのクエストのタイムリミットってことか。



 「それから注意する点がもう一つ。この世界樹の若木の力が及ぶ範囲は精々数メートル。ですからあまりユシルと離れることのないようにお願いします」









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