忌まわしき赤竜の姫ー10
「――あんた、なんて事してくれちゃったのよ!」
「仕方ないだろ。ああでもしないとお前を連れ出せなかったんだから」
「そうかもしれないけど、そういう問題じゃない! あんた、世界樹の枝をぶった切っちゃったのよ! 分かってる? 例え一部だとしてもあの神聖なユグドラシルの枝を」
「悪かったって。けどここは世界樹の意識の中なんだろ? なら、実際にユグドラシルを傷つけたわけじゃないじゃないか」
「あぁまったくこれだから素人は困るのよ! 精神世界と表層世界は表裏一体なわけ。精神が傷つけば少なからず現実にだって影響があるに決まってるでしょ」
まぁ、確かに言われてみればそうなのかもしれないけど、たかが枝の数本切り落としたところでそれほど影響があるとも思えないが。
「はぁ、きっとあんたのせいで世界樹の葉が数枚散ってしまったでしょうね」
「……は? 世界樹の葉が数枚? 影響ってたったそれだけ?」
「それだけって何よ! それだけやれば十分罪に値するわ! 世界樹の葉はね、あんたみたいな人間よりもよっぽど希少で価値があるモノなの!」
「それは悪ったな」
「いいこと! 例えここが意識の世界の中であってもむやみやたらに世界樹を傷つけないで頂戴!」
「分かったよ。俺だってむやみやたら傷つけるつもり何てこれっぽっちもないんだけどさ――」
俺は文句を言うユシルの手を強く引っ張ると彼女の身体を引き寄せ、切り株を踏み台に思いっきり高くジャンプした。
――次の瞬間、地中から現れた無数の枝の触手が彼女を捕えようと幾重にもなって襲い掛かってきた。
伸びた枝は幾ら躱そうともすぐさまに向きを変え、まるで蛇の様にしつこく追いかけてくる。
「ユシル、しっかり掴まってろよ!」
「え? え? え!?」
慌てふためくユシルを抱きかかえたまま、道も分からずただ前へ前へと突き進んでいく。
うねりを上げる大地。
ざわめく樹海。
俺たちを逃すまいと世界樹に呼応するかのように木々も次々動き出し、巨大な樹木が二人の行く手を遮ろうと立ちはだかる。
よく考えればここは世界樹の意識の中。
初めから俺たちに逃げ場などないのかもしれない。
来た方向さえ、帰る道さえ分からぬ迷いの森を、俺はユシルを抱きかかえただひたすらに駆けていく。
変わらぬ景色、止まぬ追撃、一向に出口の見えぬいつの間にか俺たちは周囲を取り囲まれていた。
「――やっぱ簡単には見逃してくれないみたいだな」
「言ったでしょ。外の世界に行くなんて無理だって」
立ち止まった俺はユシルを地面に降ろすと剣を構え四方八方から迫りくる触手を打ち払っていく。
気が付けば周囲は世界樹の枝で覆われ、もう逃げ出す隙間さえ見当たらない。
くそ、どうすりゃいい。
このままではユシルは囚われ、またあの場所で一人っきりになってしまう。
せめて出口が分かれば強行突破するんだが――。
徐々に外の光も奪われ自由を失った籠の中でなんとかこの状況を打開しようと必死に頭を巡らせていると、ユシルがボソッと諦めたように呟いた。
「――ねぇ、もういいよ。ごめんね。あたし戻るよ」
「ここまで来て何言ってんだ。ユシル、お前、あそこに戻ったらまたずっと一人ぼっちになるんだぞ」
「うん。そうなんだけど、さ。やっぱりここから出るなんて無理なんだよ」
「そんなことは――」
「ううん。いいの。私の我儘であんたにこれ以上迷惑かけられないから」
「ユシル」
「――ねぇ、世界樹、お願い。もうやめて。私、あの場所に戻るわ。だからお願い」
前に進み出たユシルが膝を付き許しを請う様に願うとそれまで荒れ狂っていた世界樹の枝はゆっくり動きを止めた。
「なんか、色々とごめんね」
「ユシル、お前、本当にこれでいいのか?」
「……うん。まぁ、しょうがないでしょ。――けど、あんたのおかげで久しぶりにドキドキ、ワクワクした。正直、ちょっと怖かったけどね」
そう言葉にした彼女の笑顔はやけにぎこちなく俺の目には映っていた。
――いいわけがない。
本当はユシルだってあんな場所にずっといたいはずはないんだ。
だから俺は最後まであきらめない。
いや、諦めたくない。
気丈に振舞うユシルの頭に優しく手を置くと彼女の頭に止まっていた蝶々が何かを示すかのように羽ばたき飛んでいった。
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