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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十一章

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領主のお仕事―12


 


 


 雨が降らなく日照り続きのこの土地だが、逆を言えば非常に晴天が多い。


 燦燦と降り注ぐ太陽の光は植物の成長にとって不可欠なものだし、多少の肥料と水さえあれば彼等にはこの上ない楽園なのかもしれない。


 そんな上界へと変わりつつある領地内を久しぶりに視察する。



 家族総出で作物の収穫作業に励む彼等には笑顔が溢れ、停車していた魔導帆船に子供がもぎたての野菜を抱え駆け寄ってくる。



 「――領主様、どうぞ!」



 俺はお礼を言って遠慮なく野菜を受け取ると、子供はまだ歯が生えそろっていない口を大きく開け笑った。


 きちんと仕事にもありつけ毎日幸せな日常を送っている彼等だが、今はあの小さな少年でさえ立派な労働力として働いている。


 あの子の将来の為にも、そしてオルメヴィーラの未来の為にも彼等にはきちんと教育を受けさせてあげたい。


 そのためにも一つ一つ問題を丁寧に解決していかなければならないのだろう。



 どこまでも広がる空を見上げ、自分の背負っている責任を改めて感じる。


 遠くの空、ふと大ルアジュカ山脈に目をやれば、頂上付近小さな黒い点が上空をゆっくりゆっくり移動している。


 大型の鳥類だろうか。


 この辺りではあまりあの類の生き物を見かけないが、気にするほどの光景でもない。



 俺は再び魔導帆船に乗り込むと見送る彼らに手を振りぐるりと領内を一周し帰路に就いた。



 サビーナに戻り軽い昼食を済ますと、俺は再び休む間もなく次の仕事に取りかかる。


 数時間の間にまた溜まった書類に素早く目を通しサインを終えると、今度は別室に移動しエンティナ領とオルメヴィーラ領の治安対策に関してセレナ、ラフィテアを交え協議する。


 領主と言うのは普通国王から与えられた領地を適切に管理していくうえで、治安維持、そして外敵から領民を守るために自前の軍隊を抱えている。


 それは当然、必然な事ではあるのだがこれまでオルメヴィーラ領では魔物や外部の脅威に晒されることは殆どなくその必要性は皆無だった。


 とは言えこうして移住希望者が増え領民が多くなれば嫌でも様々な問題が発生する。



 こういう考え方はあまり好きではないが、適切な力は時に悪事に対して抑止力になる。


 さらに今俺はオルメヴィーラ領だけではなくエンティナ領に関しても気を配らなければならない。


 あの一件で領主を失い多くの犠牲者が出たエンティナ領はお世辞にも治安が良いとは言えない。


 街は未だに荒廃しているし、盗みや強盗、人攫いも横行していると聞く。


 一部の有志達が立ち上がり、日夜巡回を行っているようだが彼等にも生活があり、またエンティナ領全土に目を向けることなど不可能だ。


 だからこそオルメヴィーラ領そしてエンティナ領の治安を安定させるため一刻も早く部隊を組織しなければならない。



 とは言え、その分野に関してはラフィテアや俺はずぶの素人。


 そこで真っ先に白羽の矢が立ったのがセレナ・ベータグラムという訳だ。



 彼女は四剣聖の一人であり聖リヴォニア騎士団の団長を務める人物。


 冒険者上がりの俺などより十分軍隊に関して熟知しているし、彼女を置いて適任者は他にはいないだろう。



 「――まずはかつて兵士としての訓練を受けたことがある者、それから冒険者としての経験がある者を中心に人選を進めていきたいと思います」


 「だな。オルメヴィーラはともなくエンティナ領に関しては出来る限り部隊の編成を急いだ方が良いか」


 「えぇ。ただ、経験者だけで必要な人数を集めるのは難しかもしれません」


 「それは分かってる」



  魔族との戦いで徴兵され夫や父、息子を亡くした者は多い。


  そして前線では今も激しい戦闘が繰り返されているのだ。


  そんな中で人を集めるのは困難と言えよう。



 「ラック様、やはり時間はかかりますが、領民から希望者を募り一から訓練していくのが近道だと思います」


 「やっぱそれしかないか。わかった。まずは即戦力を集めるだけ集めて、それから新しく募集しよう」


 「わかりました」


 「希望者を募るにあたっての募集要項はセレナとラフィテアの二人で考えてくれると助かる。――費用に関しては見積もりを出して財源は……っとその辺は後回しにしよう。まずはどれだけ人が集まるかだ」


 「はい。この件に関しては出来る限り早急に草案まとめて提出いたします」


 「よろしく頼む。それからセレナ、新兵の教育に関して何だが――」


 「わかっています。後進を育てることも剣聖たる私の務め。彼らが一人前の兵士となってくれればそれはきっとこの国の為にもなるでしょう」


 「そうだな」



 まだセレナ自身万全ではないが彼等の訓練を通して彼女のリハビリになればいいと思っている。


 それからついでと言っては何だがセレナには学校で子供たちの剣の手ほどきもお願いしている。

  


 本当は子供たちがこの先武器を手にすることなんてなければいいが今は彼等にも自分の身を、そして己の大切な人を守るための力だけは養って欲しいのだ。




 ようやく本日予定していたスケジュールも全て終わり俺は凝り固まった身体をほぐす為背もたれに寄りかかり大きく伸びをする。



 窓の外の逆さまの景色。



 気が付けば日も隠れ外はもう薄暗くなっている。



 今日はもう温泉に入ってゆっくりするかな。


 考えこんだからといって良いアイデアが生まれてくるものじゃない。


 こういう時は気分転換も重要だからな。



 俺は自分自身にそう言い聞かせると誰もいなくなった部屋で一人机の上に広がった書類を片付ける。


 明かりを消し荷物を手に部屋を後にしようとしたその時、血相を変えた村長が突然慌てた様子で部屋に飛び込んできた。


 







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