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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十一章

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領主のお仕事―10

 




 「――い、以上が今期の採掘量となってます。今後、今よりも採掘量を増やすとなると人手や装備が必要になってくると、思います。それからルアジュカ鉱山のこ、鉱石埋蔵量についてはもうすぐ調査結果が出るかと」



 おどおどした様子で手元の資料を読み上げると、ザックはホッとした様子で腰を降ろした。


 ドワーフ達の協力のもとルアジュカ鉱山の発見により必要不可欠な鉱物資源が安定的に採取できるようになった。


 ドワーフ王国ガラドグランからも鉱物資源の調達はしていたが、正直その量は十分ではなくルアジュカ鉱山のおかげで領地開発が飛躍的に進んだのは疑いようもない。


 更にこの鉱山からは超希少鉱石である魔鉱石ヴェンダーナイトの鉱脈も見つかっており、やはり更なる資金の投入は欠かせないだろう。



 「――わかった。引き続き鉱山の方はそれでよろしく頼む。採掘量に関して交易に出す分は当面現状維持、領地開発に必要な分はノジカと相談して適宜やってくれると助かる」


 「わ、わかりました」


 「それからバラマール領に納期することになったヴェンダーナイトについてはこっちで処理するから採掘に関しては今まで通りで頼む。――ラフィテア、そんな所で大丈夫か?」


 「はい、それで問題ないかと」


 「ザック、何かあればいつでも俺かラフィテアに報告してくれ」


 「は、はい」


 「えっと次は――」


 「はい、わたしでございます、領主様」



 俺が資料を捲るよりも先にザックとは対照的に堂々とした振る舞いのクロマがゆっくり立ち上がるとその場で一堂に向かって会釈した。



 「クロマ、最近交易の方はどうだ?」


 「はい、おかげさまで商売は順調そのものです、領主様。オルメヴィーラの品はとても質が良いと最近評判で特に売れ行きが良いと聞いています。今はドワーフ王国とも取引させてもらってますので貴族の方々との繋がりも少しずつ広がっております」


 「それはなによりだな」


 「本当にこれもすべて領主様のおかげでございます。ただ多少問題も抱えておりまして」


 「なんだ? 何かあるなら遠慮せずに言ってくれ。ここはその為に設けた場所でもあるからな」


 「はい、ではお言葉に甘えまして。日々、人の往来や交易が増えているのは大変喜ばしい事な

のですが、物量の増加に伴って荷馬車や人員、倉庫の手配が間に合っておりません。今はどうにかこうにかやりくりしていますが対応しきれなくなるのは時間の問題かと」

 

 「荷馬車や人手が不足しているのか。……確かにそれは問題だな」



 資料に目を通すとクロマ商会が取り扱っている物量は月を追うごとに右肩上がりに増えていっている。


 クロマの言うように商売自体は順調なのだろうが、急激な物量の増加に設備や人員が追い付いていないのが現状なのだろう。


 クロマ商会には交易以外にもエンティナ領とオルメヴィーラ領の間の交通としても役割も果たしてもらっているし、今後エンティナ領の復興には彼らの力が必要となってくる。


 オスタリカにいた時クロマ商会を通じてオルメヴィーラと情報のやり取りもしていたし、更なる交易の拡大をする為にも物流に支障が出るのは避けたい。



 「クロマ、新たに荷馬車や人員を増やすとなるとどれくらいの時間が掛かる」


 「うーん、そうですな。……全て新しく用意するとなると少なく見積もっても数ヶ月。数によっては一年以上掛かるかと」


 「一年か。思った以上に掛かるな」


 「えぇ、まぁ。すべてを一からとなるとどうしてもそれくらいは。……ただ、今の問題を解決する為なら別の方法もなくはありませんがね」


 「別の方法?」


 「はい。手っ取り早く解決するなら別の商会を領主様が買収してしまえばいいのです」



 なるほど。


 たしかにそれなら人も荷馬車も物流拠点も一気に手に入れることが出来る。


 だがそれには――



 「相当な資金が必要になりますがね」


 「だろうな」



 クロマ商会と同程度の規模を買収しようとすれば、いま俺が動かせるすべての金を集めても足りないかも知れない。


 それはクロマもきっとわかっているはずだ。


 それなのにこいつがこんな無茶な提案をしたって事は――



 「クロマ、勿体ぶらないでお前の話を聞かせてくれ。何か面白い話があるんだろ?」



 クロマは顎に手を当てると目を細め、笑みを浮かべた。



 「さすが領主様。相変わらず鋭くていらっしゃる。実は以前からこうなる事を見越しておりまして手ごろな物件を色々と探していたのですが最近になって非常に面白い相手を見つけたのです」


 「面白い相手?」


 「えぇ。ユークリッド王国西方での交易の大半を担っている大メルシオ商会でございます」


 「大メルシオ商会?」



 初めて聞く名だ。


 とは言ってもこの世界にある商会の名前など俺は指の数ほども知らない。 



 「領主様はご存じない?」


 「あぁ、初耳だな」



 当然と言わんばかりに頷くと同席していたメリダが酷く驚いた顔でこちらを見ていた。



 「冗談ですわよね? 大メルシオ商会を知らない人がこの世界にいるなんて」


 「なんだ、メリダ。お前、知ってるのか?」


 「当然ですわ。メルシオ商会と言ったらユークリッド王国一の超巨大商会ですわ」


 「王国一? そんなに大きい商会なのか」


 「えぇ、西方の商会を全て吸収しあらゆる分野の交易を独占していると聞いた事がありますの。貴族や王国とも太い繋がりがあって教会も多額の寄付を受けていると聞いた事がありますわ」


 「……おい、クロマ。そんな大規模な商会買収できるわけないだろ。お前何考えてるんだ」


 「いえね。実はクロマ商会も大メルシオ商会のせいでなかなか西方には手が出せないのです。今後オルメヴィーラが交易の拡大を考えるのなら、やはり西方への販売ルートの確保は避けては通れないかと思いまして」


 「それはそうかもしれないけど、だからといって相手が大きすぎるだろ」


 「確かに正攻法で買収するのは無理かもしれませんが手立てがないわけでもありません」



 そう口にするクロマの商人らしい悪い顔に俺は嫌な予感を禁じ得なかった。



 「あそこの悪い噂はこの業界じゃ知らない者はいませんよ。汚いやり口で騙された同業者一家が全員自殺に追い込まれた、なんて話は耳に胼胝ができるほど聞く。今でもその権力を笠にかなりあくどい商売をしているともっぱらの噂です」


 「そのメルシオ商会ってのが碌な商会じゃないのはわかったけど、それが買収の話となにか関係があるのか?」


 「勿論です。あの商会が解体されるようなことがあればわたしどもにもチャンスがある。そう思いませんか?」


 「そんな大規模商会が解体? そんな事があり得るのか?」


 「――領主様、あの商会の頭領が魔族の者と深い繋がりがあるとすれば有り得るとは思いませんか?」



 「クロマ、お前、その話誰に聞いた」


 「前にも言った通り商人は非常に耳が良いのです。特に怪しい噂は自然とこの耳に入ってくるのです。――もしこの話が事実だとすればメルシオ商会はただでは済まない」


 「クロマ、お前の言う通り商会は解体されるかもな」


 「……今は確たる証拠を掴めてはないようですが近々向こうで大きな動きがあるとか。上手くいけば一気に事業を拡大できるチャンスかもしれません。領主様も西方に行く機会があれば今の話を頭の隅にでも入れておいて頂ければ幸いです」



 西方の大メルシオ商会か。



 「わかった。覚えておこう」




 エンティナ領と言い、領地対抗戦と言い、魔族が絡むと碌な事がない。




 ――どうか出来れば厄介ごとに巻き込まれませんように。




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