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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十一章

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領主のお仕事ー9




 サビーナに戻ってから早数日、あの日の夜の温泉での乱痴気騒ぎやノジカとのデート騒動があったものの、今はようやくいつもの日常が戻りつつあった。



 朝起きて朝食を済ますといつもの様に机の上に溜まった書類を片付けていく。



 この作業にも大分慣れたが今日は今日とて午後に会議が予定されており、その資料にも目を通しておかなければならないのだ。



 領地開発、鉱山の採掘計画、新事業の許可申請、今期農作物の収穫量と来期の推移、交易販路拡大について、移住希望者許可一覧表、自警団の設置、学院運営の取り決めなどなど。



 見開きのページを見ただけで俺は議題の数にため息が漏れる。



 とは言え、これはほんの一握りに過ぎない。


 本来ならこの他にも法令や職業支援、金融、組合、それからエンティナ領の復興についても話し合わなければならないのだ。



 俺は分厚い資料に軽く目を通すと冷めてしまったハーブティーで喉を潤し、窓の外に目をやる。



 この資料にかかれているものは事前にラフィテア達と打ち合わせしまとめられたもので、詳細については時間を掛け詰めていく必要はあるだろうが内容的には特にこれといって問題なさそうだ。



 では、なにが問題かと言えば、それは優先順位だろう。


 もちろんどの議題に関しても今のオルメヴィーラにとって必要不可欠なものなのだが、これらを全て許可出来るだけの財政的余裕がないのだ。



 そう、金が足りない。



 今のオルメヴィーラの財政はその殆どを交易で賄っている。


 その柱の一つはやはり農業であろう。



 農地拡大により収穫量は飛躍的に増え、品質、鮮度の良い食材を王国内に供給している。


 月を追うごとにその収益も右肩上がりに増え、領地対抗戦で訪れたツールナスタ領でもオルメヴィーラ産の作物を多く見かけるようになった。


 その他にもルアジュカ樹林で採れたの木材や鉱物資源、またドワーフ達が作る品の高い調度品や装飾品なども一部の貴族たちに好評であるようだ。


 

 これまでのオルメヴィーラ領の統治であるならばこれだけの収入があれば手から零れ落ちる程のお釣りがあったのは事実だ。


 しかし、領地開発に加えエンティナ領の復興支援を考えれば今後必要となる経費が桁違いに増えるのは間違いない。



 王国に資金援助を頼もうにも魔族との戦いで財政は火の車。


 各領地から臨時徴収をしているくらいだから望みは薄いだろう。



 どの世界だろうがゲームだろうが現実だろうが、やっぱり必要なのは金、か。



 飲み終わったカップをテーブルの上に置き、財務諸表を片手にもう一度分厚い資料に目を通す。



 ――さて、どうする。



 どうやって資金を調達する。


 交易量をいきなり増やすことは出来ないし、いっそ温泉の次は原油でも掘り当てるか。



 いくら幸運値極振りとは言え、まさかな。



 一瞬、本気で掘ってみようかと思ったが、自らの馬鹿げた冗談に苦笑し首を横に振った。



 それからしばらく資料を見つめながらあーでもないこーでもないと頭を悩ませていたが妙案が思いつくわけでもなく俺は諦めて席を立つとこれから会議が行われる部屋へと足を運んだ。



 こうして同じ場所で一同が顔を合わせるのは初めてかもしれない。


 部屋に入ると既にそこには会議に出席する為、各部門の責任者たちが顔を揃え俺が来るのを待っていた。




「みんな忙しい中、わざわざこの場に集まってくれたことを感謝する」



 冒頭、席を立ち皆に向かって謝意を述べ全員の顔を確認する。



 席を囲むように右から順に財務担当ラフィティア、領地開発担当ノジカ、交易担当クロマ、商業担当オラブ、採掘担当ザック、資材担当ギムリ、治安担当セレナ、農業担当フレデリカ、そして最後に村長のマグララが座っている。


 今まで特に責任者というものを明確には決めていなかったのだが、組織を統制、管理する為に代表者を選出した。


 この9人に加え今回はシーナとセド、それからメリダにも同席してもらっている。



 「こうして皆に集まってもらったのは他でもない。これからのオルメヴィーラ領についてみんなの意見を聞きたいと思ったからだ」



 少数の特権的な貴族が支配する政治体制では一部の例外を除いて己の都合が良いように統治が行われる。


 非常に優れた統治者ならばそれで上手くいくかもしれないが、俺は自分がそうだとは思ってはいない。


 こうして優れた人材が沢山いるのだから彼らの力を借りる事こそが最良だと思っている。



「――俺はここにいる全員、いやすべての領民たちと力を合わせ、オルメヴィーラ領を良くしていきたいと考えている。だからこそこの機会に忌憚のない意見を言ってほしい」


 







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