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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十一章

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領主のお仕事ー8









 「ねぇ、ラック――」



 ひとしきり温泉の話題で盛り上がった後、ノジカがおずおずと俺の袖を引っ張り話しかけてきた。 

 


 「実はさ、例のアレがようやく完成したんだ」


 「例のアレ?」


 「ラックが対抗戦出発前にボクに依頼したアレだよ、アレ」


 「もう完成したのか!?」



 驚きの表情を浮かべる俺にノジカは誇らしげに胸を張り、笑みを浮かべた。


 確かオスタリカで受け取った報告書ではもうしばらく時間が掛かるとの旨が書かれていたはずが、どうやら予定よりもかなり早く完成にこぎ着けたらしい。



 「ラックが帰ってくるまでに絶対完成させようってみんなで頑張ったんだからね」


「ありがとう、ノジカ。お前をスカウトして本当に良かったよ」


 「ふふっ、まっ、そうかもね。それでさ、まだ夜まで時間もあるし折角だからこれからみんなで見に行かない?」


 「いいのか!?」


 「もちろんだよ。ボクも早く皆に見てもらいたいしね。もう準備も整ってるから早く見に行こう! ――案内するから皆もついて来てよ」



 やけにご機嫌なノジカは皆を連れ屋敷を出ると、先頭に立ち鼻歌交じりに村の中を歩いていく。



 俺が始めてサビーナ村に訪れてからというものこの地に住む人は数十、いや数百倍以上にも膨れ上がり、それに伴い村自体もどんどん大きくなっている。


 区画整理された土地には新しい家が次々と建ち並びその前を舗装された綺麗な道が通っていく。



大通りをしばらく進んだ先、住宅街を抜けた村の最奥にようやく完成したという例の建造物が建っていた。



 敷地をぐるりと取り囲むように立つ茶褐色の塀。


 目の前の立派な門を抜けると右手には綺麗に整備された大きめのグラウンドがあり、それから正面の建物以外にも幾つかの施設が見て取れる。



 セレナやラフィテアが通っていたという王都にあるファンユニオン王立学院を参考に建設されたらしいのだが、正直、これだけのものをあの短い工期でどうやって完成させたのか不思議でならない。



 門を抜け背の低い街路樹に囲まれた道をしばらく進んで行くと石畳の広場が現れ、ようやく建物の入り口へと辿り着く。


 広場の中央、建物の正面に立ち見上げると全体が薄い布で覆われ端々に幾つものロープが結ばれている。


 幾重にも分かれたロープを辿っていくとやがて一つの束となり、ノジカは広い上げたそのロープをおもむろに俺に手渡した。



 「この布を取り外せば完成だよ。――ねぇ、ラック」


 「ん? なんだ」


 「ラックはラックがボクに語った夢、覚えてる?」


 「当然だろ? この村を王国一の大都市にしてこの地に暮らす領民を幸せにする」


 「正直、ボクこの人何言ってるんだろうって思ってたんだ」


 「まあ、そう思われてもしょうがないかもな」


 「けど、いまは思ってない。ラックなら絶対その夢を叶えるって、ボク、信じてる。だから、今日、この日がその一歩になればボクは嬉しい」



 そう言うとノジカはこちらを見ずに照れくさそうに笑っていた。



 「ノジカ、これからもよろしく頼む」


 「うん、任せてよ。オルメヴィーラの領主様」


 

 爽やかな新緑の風に薄手の布が靡いている


 「――みんな、準備はいいか?」



 俺の掛け声と共に手に持ったロープを引っ張ると建物を覆っていた巨大な布はゆらゆらと風に乗り気持ちよさそうに大空を舞っていた。



 その場に立ち会った全員がその美しさに思わず言葉を失った。


 目の前に現れたその巨大な建築物は大ルアジュカ山脈で切り出された白い石材がふんだんに使われ、至る所にドワーフ達の彫刻が施されていた。


 美しいのはその外観だけでなく内装も非常に凝っており、石材と木材が使われ調和がとれた非常に落ち着く造りとなっている。


 教室を覗くと大きな窓にはガラス取りつけられ、既に机と椅子も並べられている。


 日が沈んでも勉強できるように照明設備も完備され、暖房器具も揃っている。


 窓を開け眼下に望むグラウンドからは子供たちの楽しそうな声が今にも聞こえてくるようであった。


 ノジカの設計図や報告書である程度分かってはいたが、ここまで立派な物になるとは本当に思ってもみなかった。



 「――どうかな? ラック」



 俺の評価が気になって仕方ないのか、感想を問うノジカに俺は思わず彼女を抱きしめていた。



 「な!?」



 俺の突然の行動にノジカは顔を赤くし、ドワ娘達は驚き思わず声を漏らす。



 「これでノジカに文句なんか言ったら罰が当たるよ」


 「が、頑張った甲斐があったかな」


 「頑張り過ぎだ、ノジカ。でも、本当にありがとう」


 「どういたしまして」



 子供たちに教育の機会を与える。


 これはオルメヴィーラの領主として最初から俺が考えていた事の一つだったが、長い月日をかけようやく学院を完成させることが出来た。


 正直、建物が完成しただけで学院を運営していくにはやらなければならないことが山ほどある。


 対抗戦の最中も少しずつラフィテアと計画を練ってきたが、どうやらこれからしばらくの間、俺には寝不足の日々が待っているらしい。


 けど、泣き言なんて言っていられない。


 こうしてノジカが頑張ってくれたんだ。


 俺も負けてはいられない。



 ノジカは耳を垂れ、顔を真っ赤にしてこちらを見ている。



 「あの、ラック」


 「ん?」


 「みんなが見てるし、そろそろ離してもらってもいいかな」


 「え!? あ、悪い。嬉しくてつい」


 「え、あぁ、うん。ボ、ボクはその気にしてないよ」


 慌てて俺がノジカを離すと、ドワ娘がおもむろに近づき眉間に皺をよせ睨みつけてきた。

 

 「子供たちに勉強を教える教育の場でそういう行為は如何なものかの? ボクは気にしてないよ、じゃないわ!」


 「なに、フレデリカ。やきもち焼いているの?」


 「や、やきもちなど焼いておらぬは」


 「あ、そうなの。なら良かった」


 「何が良かったじゃ」


 「いや、ほらね。ボク、ラックとデートの約束してるんだよね」


 「……は? デ、デートじゃと!?」



 数行固まってしまったドワ娘は、上擦った声で思わずノジカに聞き返していた。



「そう、デート。この学院を完成させたら二人っきりでデートするって約束したんだ」



 そう言えばそんな約束した気もするが、よりによってどうしてこんな所で言うんだよ。



「ラック様、そのデートの件について私にも詳しく聞かせてもらえますか?」



 笑みを浮かべ淡々と問うラフィテア。



 「そんな約束わらわが認めんぞ!」


 「フレデリカには関係ないでしょ」


 「関係大有りじゃ! ラック、おぬし、わらわがおるのにまさかこやつとデートなどするはずなかろうな?」


 「え、あぁ、それは、その、あれだな」


 「え!? 嘘。ボクとデートの約束したのに破らないよね。デートの為にボクがどれだけ頑張ったか」


 「もちろん、約束は守る。その守るんだけど、あの、その、だな」



 ハッキリしない俺の答えに詰め寄る三人。


 別に俺が悪い事をしたわけではないのだが思わず圧に負け後退りをしてしまう。


 後ろにはシーナとヴェルとメリダの冷たい視線。



 「……あなた、最低ですわね」


 「はい、あの、その、ごめんなさい」





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