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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー75



 



 「――ラック公、少し時間を頂けますか」



 ジョワロフ公を見送り人影もまばらになる中、セレナの視線の先にはいまだ物憂げな様子で椅子に座るシャルティア公の姿があった。


 

 「シャルティア様」


 セレナの呼びかけに視線を上げたシャルティア公だったが、彼女の背後にはもうロアの姿はなくシャルティアはただ力なく微笑んでみせた。

 


 「セレナ、あなたにはロアの事で迷惑をかけてしまいました。決して許されることではないのは分かっています、……分かっていますが、どうか彼女を許してあげて下さい」



 「シャルティア様、これは誰のせいでもありません。シャルティア様のせいでも、ましてやロアのせいでもないのです」



 「あぁ、セレナ。ごめんなさい、ごめんなさい」


 「シャルティア様」


 両手で顔を隠し泣き崩れるシャルティア公を前に、セレナは黙って俯いているほかなかった。


 しばらくしてシャルティアは落ち着きを取り戻すと、セレナの手をとり握りしめた。


 「あの一戦であなたが大怪我を負ったと聞き、私は居ても立っても居られなかった。ロメオ様の忘れ形見であるあなたに何かあったなら私はどうやってあの方に償えばよいと言うのでしょう」


 「シャルティア様、私は剣聖になったあの日、この王国の為にすべてを捧げると神に誓いました。たとえこの身がどうなろうとも国の為に尽くすと。ですから、領民を守り、陛下を守るためにいくら傷つこうとも誰かを恨むことなど決してありはしないのです。――それはネージュ・ロア、彼女も同じだったはず」



 「そう、ね」


 一瞬セレナはシャルティア公に右腕の事を話すかどうか迷っていたが、意を決し腕に巻かれた包帯を取り外すとロアから譲り受けたその右腕を彼女に見せた。


 「シャルティア様、私はあの魔族との戦いで右腕を失いました」


 「え――」


 セレナの言葉に声を詰まらせ呆然とするシャルティアは震える手で彼女の右手に触れていた。


 「でも、セレナ、あなたにはちゃんと、ほら、右腕が――」



 「いいえ、これは私のものではありません。切り落とされた腕は私の目の前で奴に喰われてしまいした」


 「そんな!? じゃ、この手は――、まさか」


 「はい、この手はネージュ・ロア、彼女の右腕です。腕を失い、剣も失った私はただ死を待つだけでした。ですが、彼女が、ロアが私の命を救ってくれました」



 「そう、だったのね。……確かに言われてみれば懐かしい彼女のぬくもりを感じる。あなたの中でロアは生きているのね」


 「はい、シャルティア様」


 「ロアを失った悲しみは大きいけれど、あなたがこうして生きていてくれて本当に良かった」


 「彼女がその後どうなったのか私もわかりません。ですが、あの六眼のロアがそう簡単に魔族にしてやられると思えません」


 「そうね」


 「私は奴を追い、必ず彼女の身体を、ロアを取り戻して見せます」


 「ありがとう、セレナ。本当にありがとう」


 シャルティア公は握りしめたロアの右手を頬に当てると、人目をはばからずに涙を流していた。



 「セレナ、私は領地に戻った後、彼女の一族について調べてみようと思います。ロアの過去になにがあったのか、そしてあの眼についても――。もしかしたら何か手がかりが得られるかもしれません」



 「……ロアの一族の過去」


 シャルティアの言葉にセレナはまだ馴染まず痛みの走るロアの右腕を強く握りしめた。

 


 「シャルティア様、そろそろお時間です」

 


 馬車が到着したのか従者の一人が彼女にそっと耳打ちするとシャルティアは従者を下がらせ俺の元へと足を運んだ。



 「オルメヴィーラ公、あなたにはなんと謝罪すればよいのか言葉も見つかりません。あなたがいなければ王国は白い閃光をも失っていたでしょう」



 深々と頭を下げ謝罪するシャルティア公に俺はゆっくり首を横に振った。

 

 「シャルティア公、どうか頭をあげてください。セレナの言うようにあなたには何の罪もありません」


 「いいえ。魔族に堕ちたロアとの戦いで多くの領民が死に、あなたは怪我を負い、セレナも右腕を失った。――これでも、これでも私に罪がないと言うのですか!?」


 「……シャルティア公」


 「ごめんなさい、オルメヴィーラ公。どうも今の私はとても冷静ではいられないようです」


 「――あなたにとって彼女はとても大切な存在だったんだな」


 「はい。ロアは強く真っすぐで、そして他の誰よりも優しかった。彼女は私の良き理解者であり、剣聖として私と一緒に王国を守っていくはずだった。それなのに――」


 シャルティアは言葉を詰まらせ天井を仰ぎ見た。



「私はロアに甘えていただけ。私は彼女の抱えていた闇さえ知らず、彼女に何もしてあげられなかった」



 このオスタリカの街に来てヴァルター公に聞いた予知夢の話。


 もし、俺に未来を知ることが出来たのなら、この結末を変えることは出来たのだろうか。


 「――オルメヴィーラ公、私はセレナの中にロアが生きてくれていると知ってとても嬉しかった。セレナを、そしてロアを救ってくれたのはあなたです。本当に感謝しています」


 救った、か。


 いや、俺は何も出来なかった。


ただ、彼女を、セレナを助けることに必死だっただけだ。



 「私はいつか必ず彼女の身体を魔族の手から取り戻すつもりです。その為なら私は何も惜しまない。それが唯一私のできるロアへの償い」


 「シャルティア公、及ばずながら俺やセレナも力になろう」


 「ありがとうございます、オルメヴィーラ公。その時は何卒私にお力をお貸しください」


 「もちろんだ。約束しよう」



 双子のイータとシータが護衛する馬車に乗り込むとシャルティア公は最後にもう一度深く頭を下げた。


 鞭を合図に馬はゆっくりと駆けてゆく。


 次第に小さくなってゆく馬車の後姿。


 シャルティアの隣の席はいつまでも空席のままであった。

 

 

 


 


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