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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十章

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領地対抗戦ー74







 ユークリッド王との謁見も終わり、各々領主達は身支度を整えオスタリカの街を離れようとしていた。


 領主対抗戦優勝という目標は果たせなかったものの、正式にエンティナ領の統治を認められたのだからまずまずの結果と言えよう。



 「――オルメヴィーラ公」


 ヴァルターはユークリッド王が退出すると真っ先に話しかけてきた。



 「オルメヴィーラ公、それからセレナ、ロアの件で君たちには辛い思いをさせてしまった」



 ヴァルターは申し訳なさそうに頭を下げた。



 「いや、あれは誰のせいでもない」


 「ヴァルター公。どうか頭をお上げください」


 「神託なんて言われていても所詮、夢。予知夢ですべてを知ることは出来やしない。ましてや未来を変えることも」


 「……ヴァルター公」


「陛下の命をお守りすることは出来たが、彼女を救う事は出来なかった」


 「アザトースの目的は最初からロアの六眼だったみたいだが、ヴァルター公は奴の言葉に何か心当たりはあるか?」


 「“この世界のどこかに隠れている陰険な神を探す”だったか? ……魔族が探している神か。――悪い、僕には見当もつかないない」


 「そうか」


 神か。


 奴は探している神とやらを知る者が近くにもいるとも言っていたが、まったく何が何やら。



 「神なんて存在はもう創成の時代、神話の世界の話さ。そんな古い話を知っている奴がいるとすれば、大ルアジュカ山脈に住まうという古き竜か、深き森に隠れ住むエルフくらいだろう」


 「竜族に、エルフ族か」


 「まぁ、僕らがすぐにどうこう出来る話じゃないさ」


 「そうみたいだな」


 「さて、そろそろ僕はお暇するよ。折角こうして君と面識が持ててもう少し色々と話をしたい所だがやる事が山積みでね。まっ、近いうちに王都に召集されるようだから、機会があればその時にでも」



  外に待機していた従者たちは俺たちの会話が終わるのと同時に現れ彼の傍に付き従う。



 「――そうだ、セレナ。僕が言う立場にはないのだけれど、ロアの事であまり気を落とさずに」


 「えぇ、分かっています」



 ヴァルターは最後にそれだけ伝えると軽く頭を下げ一足先にその場を後にした。


 


 ヴァルター公がこの部屋を立ち去り程なくして、待ちくたびれた様子で老齢の男が背後から声をかけてきた。


 

 「随分あの男と親しくなったようだな、ラック公よ」


 「ジョワロフ公」


 「お前さんのようなぽっと出の輩を疎ましく思う奴もいるが、他の領主達と繋がりを持つことは決して悪い事ではない」


 「はい、そうですね」


 「ラック公もオルメヴィーラ領とエンティナ領、二つの領地を治めなければならいのは大変だろうが、お前さんならきっと大丈夫だろう」


 「ありがとうございます、ジョワロフ公」


 「もし手助けが必要なら遠慮なくわしを頼るといい」


 「はい」


 「時に魔鉱石の件だが、覚えておるか?」


 「もちろんです。バラマールにはクロマ商会を通して優先的に魔鉱石を提供すると約束します」


 「それは助かる」


 「共同研究に関してもこちらの人材の選定が済み次第バラマール領に送ることになると思います」


 「分かった。それでラック公よ。もし可能ならお前さんも一度我が領土バラマールに来てはどうかな」


 「バラマール領に?」


 「そうだ。お前さんも自分自身の眼で色々と見ておいた方がいいと思ってな」



 バラマール領か。


 たしかヴァルター公がジョワロフ公はエルフ族とも深いつながりがあると言っていた。


 アザトースの件もあるし行く価値は十二分にありそうだな。



 「是非にでも。俺もバラマール領には行ってみたいと思っていたところです」


 「とは言え、お前さんもエンティナ領のことでしばらくは向こうを離れるわけにはいかんだろう。――そこでだ、ラック公よ。王都召集の後、お前さんをバラマール領に招待したいと思うがどうかな?」



 近々召集されると言っても数ヶ月先の話だろうから、それまでには俺もある程度落ち着いてるはずだ。


 

 「はい、それならば問題ないかと」


 「よし! 決まりだ。バラマール領はオルメヴィーラを歓迎するぞ。わしらが手を組めば魔法はより革新的な発展を遂げる。きっとその日がその転機となるだろう」



 ジョワロフ公が前に話していた内容が実現すれば、確かに魔族との戦況は一変するかもしれない。


 声高らかに意気揚々と立ち去る皺深いジョワロフ公。


 その眼の奥には狂気にも似た光を宿していた。







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